診療のご案内潰瘍性大腸炎・クローン病先端医療センター(IBDセンター)

潰瘍性大腸炎の治療について

潰瘍性大腸炎の治療の中心は、まず5-アミノサリチル酸(5-ASA)製剤とステロイド製剤になります。また炎症が直腸やS状結腸が中心の場合には注腸療法や坐薬を用いることもあります。再燃をする場合や、5-ASA/ステロイド療法にて効果が認められない場合には、チオプリン製剤(アザチオプリン・6-メルカプトプリン)、血球成分吸着・除去療法(GCAP,LCAP)、生物学的製剤(インフリキシマブ、アダリムマブ、ゴリムマブ、ベドリズマブ、ウステキヌマブ、ミリキズマブ、カロテグラストメチル)、トファシチニブ、フィルゴチニブ、ウパダシチニブ、タクロリムスなどの投与が行われます。

内科治療の効果がない場合には、外科手術により大腸全摘を行います。一時的に人工肛門を作ることが多いですが、永久人工肛門になる方はごくわずかです。

5-アミノサリチル酸製剤(5-ASA)(ペンタサ®・アサコール®・リアルダ®・サラゾピリン®)

現在使用可能なアミノサリチル酸製剤にはサラゾピリン®、ペンタサ®、アサコール®、リアルダ®があります。サラゾピリン®は薬剤が大腸に到達したのちに5-ASAとスルファピリジンに分解され、主に5-ASAの成分が治療効果を発揮します。ペンタサ®、アサコール®、リアルダ®は有効成分である5-ASAに腸で薬剤が溶けるように工夫されたコーティングを行った薬剤です。

5-ASA製剤は寛解導入薬としても、寛解維持薬としても治療効果の高い薬剤です。特に軽症から中等症の患者さんに使用します。また炎症が直陽などの肛門に近い部分に限局している場合には、ペンタサ®の坐剤・注腸剤、サラゾピリン®の坐剤が使用可能です。

5-ASA 製剤は、時に発熱を含むアレルギー反応を認めることがあり、薬剤開始後に腹痛、発熱や下痢がさらに悪化する場合には5-ASA製剤の副作用を考える必要があり、その場合には5-ASA製剤の中止と剤形の変更を検討します。

5-ASA製剤で病状が安定している患者さんは、落ち着いた良い状態を維持していくために症状がなくても5-ASA製剤を忘れずに服用を継続していくことが重要です。

ステロイド製剤(プレドニン®/プレドニゾロン®、ステロネマ注腸®、プレドネマ注腸®、レクタブル注腸フォーム®、リンデロン坐剤®)

ステロイドは強力な抗炎症効果を持ちます。この薬剤が潰瘍性大腸炎に使用されるようになり約60年がたちますが、炎症を抑える効果が非常に高い薬剤であり、現在でも中等症以上の患者さんの治療の中心になります。副作用が注目されますが、上手に使用すれば副作用も最低限に抑えることが可能です。主に中等症または重症の患者さんの寛解導入治療として用います。外来では経口剤が投与されますが、症状が悪く全身状態がよくない患者さんについては入院し点滴にて行う(ステロイド強力静注療法)場合もあります。また関節炎や結節性紅班、口腔内病変など腸管外合併症が認められる場合は5-ASA製剤のみではコントロールできない場合が多く、ステロイドを使用します。長期に大量使用すると副作用が出現するので、1-2週間ごとに投与量を減量し、中止するようにしていきます。減量のスケジュールは主治医と相談して、自分で判断しないようにすることが大事です。副作用の面からステロイド使用を敬遠され最終的に病状が悪化するケースも少なからずみられますが、当院ではステロイドを漫然と使用するような治療法は行いません。ステロイド治療の効果が不十分な場合や、ステロイドの減量・中止後に再燃・増悪する場合は、難治性潰瘍性大腸炎と考えて、他の治療法の追加を検討します。

また、直腸~S状結腸に炎症がある場合は局所製剤(ステロネマ注腸®、プレドネマ注腸®、レクタブル注腸フォーム®、リンデロン坐剤®)の使用も考慮されます。

チオプリン製剤(アザチオプリン(アザニン®・イムラン®)・6-メルカプトプリン(ロイケリン®(保険適用外))

免疫調節剤にはいくつか種類がありますが、イムラン®/アザニン®とロイケリン®は同じ系統の薬剤です。服用されたイムラン®/アザニン®が体の中でロイケリン®の成分に変わり、最終的にこのロイケリン®がさらに様々な酵素によって分解され、分解された有効成分が炎症を抑えると考えられています。イムラン®/アザニン®は錠剤でロイケリン®は粉薬です。錠剤の方が飲みやすい利点がありますが、粉薬であるロイケリン®は使用量を微調節することが可能な点が利点です。イムラン®/アザニン®で副作用が出るのにロイケリン®で効果が出る場合、またその逆の場合もあります。どちらの薬剤を使うかは外来の先生と相談してください。

ステロイド依存の患者さんにおけるステロイド減量効果と寛解維持効果に最も有用であると考えられています。また、5-ASA製剤が副作用のため使用できない症例に対しての寛解維持のために用いることがあります。

また別項で述べるタクロリムスを使用して寛解導入された場合に免疫調節剤を使用した方がより再発を防ぐことが知られています。

副作用の中で、服用開始後早期に発現する重度の白血球減少と脱毛がNUDT15遺伝子多型と関連することが明らかとされており、チオプリン製剤を初めて開始する際にはNUDT15遺伝子型を確認し、チオプリン製剤の使用可否を判断します。

生物学的製剤・JAK阻害薬

ステロイド治療の効果が不十分な場合などの難治性の潰瘍性大腸炎患者さんに用いる薬剤で、日本国内で使用可能な製剤として以下の種類があります。5-ASA製剤・ステロイド治療で効果が不十分であった患者さんにおいても治療効果が期待される薬剤です。寛解導入に用い、効果があった場合は投与を継続して寛解維持を行います。それぞれの薬剤で投与方法や作用の仕組み、作用の時間などが異なることから、個々の患者さんの状態に合わせて薬剤選択を相談します。潜在性の感染症の増悪をきたす可能性があるため,薬剤開始前に結核とB 型肝炎の感染の有無を調べます。

a.抗TNF-α抗体製剤(インフリキシマブ(レミケード®・インフリキシマブBS®)、アダリムマブ(ヒュミラ®)、ゴリムマブ(シンポニー®))
 抗TNF-α抗体製剤は、炎症反応に関与するTNF-αに結合し、機能を選択的に阻害する製剤です。インフリキシマブは点滴静注の投与、アダリムマブ・ゴリムマブは皮下注射投与で使用します。アダリムマブ・ゴリムマブは自宅で自己注射することが可能です。
寛解維持では、インフリキシマブは2か月に1回の点滴静注、アダリムマブは2週間に1回の皮下注射、ゴリムマブは1か月に1回の皮下注射を行います。

b.抗α4β7インテグリン抗体製剤(ベドリズマブ(エンタイビオ®))
 白血球の種類のなかの1つであるTリンパ球の表面にあるα4β7インテグリンに対する抗体です。α4β7インテグリンは、消化管にTリンパ球が浸潤する際に関与することが知られており、その作用を阻害することでTリンパ球が腸管へ浸潤することを抑制し、抗炎症作用を発揮します。寛解維持では2か月に1回の点滴静注を行います。

c.抗IL-12/23p40モノクローナル抗体(ウステキヌマブ(ステラーラ®))、抗IL-23p19モノクローナル抗体(ミリキズマブ(オンボー®))
 炎症性腸疾患の病態に関与していると考えられるIL-12やIL-23に対する抗体製剤で、消化管の炎症を抑えます。ウステキヌマブは初回投与は点滴静注ですが、2回目以降は皮下注射で投与を行います。寛解維持では、2~3か月に1回の皮下注射を行います。ミリキズマブは3回目投与までは点滴静注ですが、4回目以降は4週に1度の皮下注射で投与を行います。

d.JAK阻害薬(トファシチニブ(ゼルヤンツ®)、フィルゴチニブ(ジセレカ®)、ウパダシチニブ(リンヴォック®))
 JAKとはヤヌスキナーゼの略語で、炎症シグナル伝達に関わる細胞内分子です。このJAKの働きを阻害することで、炎症性サイトカインの産生を抑えて抗炎症作用を発揮します。これらは全て1日1―2回の内服薬です。

血球成分吸着・除去療法

血球成分除去療法(顆粒球除去療法アダカラムR® (GCAP))は日本において開発され、潰瘍性大腸炎に臨床応用されています。潰瘍性大腸炎の病態として好中球やリンパ球を中心とした白血球が病態の中心的な役割を果たしていると考えられ、主に活性化した白血球を吸着・除去することにより腸管炎症を改善する事が期待されて開発されました。

潰瘍性大腸炎の治療法としてサラゾピリン®やペンタサ®などの内服薬、プレドネマ®、ペンタサ®の注腸製剤、さらに活動度が高い場合、ステロイドが使用されます。これらの治療に反応する場合が多いのですが、中には改善しない場合、改善してもすぐに再燃する場合があります。このような難治性の患者さんを中心に使用されます。

献血時に用いるような針を用いて手の血管(あなたの血管の状態により他の場所の血管を用いる場合もあります)より、血液を連続的に取り出し、カラムで血液成分を吸着・除去し、もう一方の血管に血液を返血する治療法です。したがって血管への穿刺は2か所(多くの場合肘か前腕)必要になります。

1回の治療に要する時間は通常60分から90分でその間に約1,800mL-3000mLの血液が血球成分を吸着、除去するカラムを通過します。治療中に身体の外に出ている血液の量は約200mLで、治療が終了した後、カラムや回路に残った血液は生理食塩液と共に身体の中に戻しますので、治療により失われる血液の量としては非常にわずかです。また、治療のための血管確保や治療終了後にカラム・回路内の血液をあなたの身体の中に戻す操作がある為、1回の治療で1時間30分から2時間拘束されます。1度の活動期につき最大10回(劇症のみ11回)を限度に実施します。増悪する症例や無効と判断した症例は、治療法の変更を検討します。

タクロリムス(プログラフ®)

タクロリムスはもともと臓器移植の拒絶反応に対して使用されている薬剤です。その後免疫反応を抑えることにより強力な炎症抑制作用をもつことがわかり、日本でも潰瘍性大腸炎の寛解導入に対する有効性が報告されています。タクロリムスは経口で使用します。1日2回経口投与を行い、血中濃度を測定して有効濃度になるように投与量を調節します。タクロリムスで寛解導入をおこなった場合は、原則として免疫調節剤(チオプリン製剤)による維持療法を検討します。使用方法や投与量の調節などについて熟知している専門施設での使用が望まれます。

外科手術

大腸穿孔、大量出血、中毒性巨大結腸症といった腸管合併症をきたした例、大腸癌や高度異形成を合併した症例、内科治療無効例・難治例、内科治療が副作用などの理由で困難な症例については、手術治療の適応になります。術式などの詳細は「IBDと外科治療について」を参照してください。

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