診療のご案内潰瘍性大腸炎・クローン病先端医療センター(IBDセンター)

栄養について

クローン病の栄養・食事療法

クローン病は小腸に病変を有することが多いため、消化吸収障害などの病態を容易にきたしやすく、エネルギー・タンパク質不足から体重減少、倦怠感などの症状が出現したり、鉄分の不足から貧血になったりなど、さまざまな栄養素の低下がみられることが知られています。そのため、以前から成分栄養療法や食事療法などの栄養療法が治療として用いられてきました。しかし、最近のクローン病の治療は生物学的製剤をはじめ、様々な新しい治療法が適応となっており、以前に比べ厳しい食事療法は必要ないのではないかと考えられています。

一方で、以前ではほとんどみられなかった過体重や、脂質異常症など生活習慣病と同じような栄養状態の方も増えつつあり、こうした方は適正な栄養量とする必要があります。

活動期

病勢が重篤(著しい低栄養状態、頻回の下痢、広範な小腸病変など)と判断された場合や、高度な合併症(高度な狭窄、瘻孔・膿瘍形成、高度の肛門病変など)を有する場合には入院し、しばらくの間絶食として腸管を安静にします。しかし、最近では薬物療法の進歩が著しいので、以前に比べ入院する頻度、日数、絶食の期間は確実に減少しています。

成分栄養剤などの栄養剤を用いた栄養療法は現在も行われています。成分栄養療法は、寛解導入(活動期からよい状態にする)効果や、寛解維持効果が報告されており、有効な治療法です。しかしながら、独特の匂いや味が体質に合わない、摂取すると下痢をするという患者さんもいらっしゃいます。そのような場合は、半消化態栄養剤でもよいとの報告もあるので、試してもよいでしょう。

寛解期

寛解期においても、栄養療法を継続できるのであれば、継続してもよいでしょう。寛解期にも栄養療法を行うことにより維持効果が高くなるデータもあります。その他、栄養療法で成長期の方の成長曲線が上向きになったといったデータや、骨粗鬆症の方の骨量が増えたなどの報告もあります。

栄養療法は、成長期の方だけでなく、一人暮らしや多忙で栄養バランスの偏りが懸念される方、低体重や筋肉量が少ない方、活動量が多く食事量を増やすと悪化につながるのではと不安をお持ちの方などにもお勧めします。

脂質について

脂質は他の栄養成分と比べて腸管の蠕動運動を亢進させます。そのため、脂質を(特に一度に)たくさん摂取すると、腹痛や、下痢、頻回便の原因となりやすいので注意が必要です。

脂質は胆嚢から分泌される胆汁酸の影響を受けて吸収されます。胆汁酸はその後、回腸末端部から上行結腸で再吸収され、肝臓に戻り胆嚢に貯留されます。通常、胆汁酸の95%以上が再吸収されて再度体内を循環するのですが、再吸収される部位はクローン病の好発部位であるため、炎症があったり、切除した場合などでは、再吸収されずに大腸に流れ込み腸管を刺激します。また、循環する胆汁酸が不足すると、脂肪の消化吸収もうまくいきません。脂質そのもの、そして脂質の消化吸収に必要な消化酵素である胆汁酸が腸管を刺激するため、腸管の安静を保つには脂質を控えることが大切です。特に体調が優れないときは控えた方がよいでしょう。

脂質の量については、1日30g未満に制限すると再燃予防効果があるとされ、厳しい制限が推奨されてきました。しかし、これはかなり古い報告であり、新しい治療法が台頭している昨今では、寛解期であればここまで厳しく制限する必要はないと考えられています。

脂質の質がクローン病の与える影響についてはよくわかっていません。魚油などに含まれるEPA(エイコサペンタエン酸)やDHA(ドコサヘキサエン酸)などに抗炎症作用などが報告されていますが、明らかではありません。

脂質は1gあたり9kcalと、効率の良いエネルギー源です。成長期や活動量の多い方などでは、厳しい脂質制限をすると必要栄養量を充足することが難しい場合があります。その際は中鎖脂肪酸(Medium Chain Triglyceride: MCT)をお勧めすることがあります。中鎖脂肪酸は、消化吸収される際に腸管を刺激する胆汁酸を必要としない油脂です。消化吸収に優れ、速やかにエネルギー源となるため、エネルギー量を上げたいときや、脂質を使用した料理を楽しみたいときなどに便利な油脂です。

中鎖脂肪酸は使用上の注意点がありますので、詳しくは栄養指導の際にご説明いたします。

食物繊維について

活動性の病変がある場合や狭窄があるときは、きのこやこんにゃく、もやしなどの食物繊維の多い食品を避けましょう。症状が落ち着いている時や狭窄がない場合では厳しい制限は必要ないとされています。

以前は食べ物のカスといわれた食物繊維ですが、最近の研究でさまざまな効果があることが報告されています。クローン病に対しては、腸内のビフィズス菌・乳酸菌などの善玉菌により発酵を受け短鎖脂肪酸が産生され、小腸や大腸粘膜のエネルギー源となることなどが知られています。

そして、食物繊維は便性改善にも役立ちますので、食物繊維を上手に使うことが生活の質の向上につながります。

一方、狭窄がある場合は、その程度によりますが、食物繊維の多量の摂取は、腸管につまる原因となりやすいため、摂取量を少なくする、加熱し軟らかくする、皮をむく、小さく刻む、裏ごしするなど調理に工夫が必要です。

潰瘍性大腸炎の栄養・食事療法

潰瘍性大腸炎では食事療法の意義は少ないと考えられています。患者さんによっては寛解期にあっても自主的に食事制限を行い、乳製品を回避する傾向がみられていますが、その再燃予防効果は定かでありません。反対に、食事制限がないからといって、好きなものを好きなだけ食べてもよいということではありません。その人に適した量で規則正しくバランスのよい食事をすることが、寛解期を維持することにつながります。

活動期では、脂質の多いもの、食物繊維の多いもの、刺激物などは控えた方が安全だと思いますが、寛解期では短鎖脂肪酸が産生されることを期待して、食物繊維の摂取が推奨されています。

炎症は治まっているが、腹痛や腹部膨満感、下痢や便秘などの困った症状が続いている方には低FODMAP食の導入をお勧めする場合もあります。FODMAPとは、小腸では吸収されにくい発酵性糖質のことで、これらの頭文字を取ったものです。この食事療法の是非についてはまだ明らかになっていませんが、有効な方もいらっしゃいます。

栄養指導

当院では木曜日の午前に炎症性腸疾患専門栄養相談枠を設けております。
栄養指導にはあれもダメ、これもダメと言われそうなイメージや、栄養価計算をさせられそうなど、怖く、また難しいイメージをお持ちの方もいるのではないでしょうか。また、食事療法=食事制限と捉えている方が多い印象がありますが、食事療法は、その人の体格や症状に合ったよりよい食事をすることです。

食事療法にストレスを感じている、また何を食べたらよいのか分からない、今の食生活でよいのか、何でも食べていいっていわれたけど本当に大丈夫なのか、などなど、患者さんそれぞれに食事に対する不安や疑問はつきものです。

当院は、そうした患者さんに、一人ひとりに応じたオーダーメイドの栄養指導を心がけています。例えば、学校給食での食事の摂り方、コンビニやスーパーでの食品の選び方、一人暮らしを始めた際の簡単な調理法、外食や旅行の際の食事の選び方、妊娠や授乳時の増加する栄養量やその補給方法、体重を増やしたい際の食事の摂り方など、患者さんの不安や疑問に対し、できるだけ具体的にアドバイス致します。そして栄養状態の改善だけでなく、皆様が安心して療養生活が送れるよう支援致します。

更に栄養指導時には、体組成分析装置(In Body)を用いた生体電気インピーダンス分析で、上肢・体幹・下肢それぞれの筋肉量や体脂肪量などを測定し、得られた結果を基に栄養指導を行っています。

食事に対する不安や疑問をお持ちの方は是非一度栄養指導を受けて頂くことをお勧め致します。栄養指導をご希望される方は、主治医にお申し出ください。

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