クローン病の治療について
クローン病は病気の範囲(小腸型/小腸大腸型/大腸型)や重症度によって治療法が異なります。特に軽症〜中等症の方では現在様々な治療選択肢があります。クローン病を「完治」させる治療法は残念ながらまだありませんが、治療法は日々進化しています。
クローン病での治療ゴールの一つは「寛解(症状のない状態)」を保つことです。もう一つのゴールは狭窄や瘻孔などの長期的な合併症を防ぐことです。クローン病(特に小腸病変)は症状が現れないままこのような合併症を起こすことがあります。このため症状がなくなっても通院や治療を継続することがとても重要です。
当センターでは症状や検査結果だけでなく、患者さんの年齢、併存疾患、ライフスタイルなど、様々な要素を踏まえ無理のない治療法を一緒に相談しながら決めていきます。治療についての不安や質問があれば遠慮なく外来主治医やIBD専門看護師にご相談ください。
治療法は大きく栄養療法、薬物療法、内視鏡治療、外科治療に分けられます。栄養療法については「IBDと栄養について」、また外科治療については「IIBDと外科治療について」をご覧ください。ここでは薬物療法と内視鏡治療についてお話しします。
薬物療法
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5-アミノサリチル酸製剤(ペンタサ、サラゾピリン)
軽症から中等症の症例を中心に使用される経口剤です。5-アミノサリチル酸製剤のみで症状が改善する症例もありますが、多くは炎症が軽度な患者さんであり、最終的には他の治療を必要とされる症例が多くみられます。 -
ステロイド製剤(ゼンタコート、プレドニン、プレドニゾロン)
プレドニン/プレドニゾロンは中等度から重症の患者さんで使用される、非常に抗炎症効果の高い製剤です。経口投与または入院の上、静脈投与が必要となることもあります。長期服用による予防効果は証明されていないことと副作用発現のため、3ヶ月を目処に量を減量し中止していきます。減量のスケジュールは主治医と相談して、自分で判断しないようにしましょう。
また回腸から上行結腸に病変がある、軽症から中等症のクローン病に対して、局所にて有効なブデソニド(ゼンタコート)が使用されることもあります。ゼンタコートは肝臓ですぐに代謝されるため全身の副作用が少ないのが特徴です。プレドニンと同様に長期の維持療法には向きません。
当院ではステロイドを漫然と使用するような治療法は行いません。また病状にもよりますが、医師と患者さんとの相談によりステロイドを使用せずに他の治療法(レミケード、免疫調節剤、臨床試験など)を選択することも可能です。 -
チオプリン製剤(アザチオプリン(アザニン・イムラン)・6-メルカプトプリン(ロイケリン(保険適用外))
免疫調節剤にはいくつか種類がありますが、アザニン/イムランとロイケリンは同じ系統の薬剤です。服用されたアザニン/イムランが体の中でロイケリンの成分に変わり、最終的にこのロイケリンがさらに様々な酵素によって分解され、分解された有効成分が炎症をおさえると考えられています。アザニン/イムランは錠剤でロイケリンは粉薬です。アザニン/イムランで副作用が出るのにロイケリンで効果が出る場合、またその逆の場合もあります。どちらの薬剤を使うかは外来の先生と相談してください。
基本的にはステロイド依存の患者さんにおけるステロイド減量効果と寛解維持効果に有用であると考えられています。最近ではインフリキシマブ(レミケード・インフリキシマブBS)やアダリムマブ(ヒュミラ)と一緒に服薬すると、これら生物学的製剤の有効性を改善することが分かっています。またクローン病は手術後に再燃し、再手術が必要な患者さんも少なくありません。イムランやロイケリンは手術後の再燃抑制効果もあることが知られています。
副作用の中で、服用開始後早期に発現する重度の白血球減少と脱毛がNUDT15遺伝子多型と関連することが明らかとされており、チオプリン製剤を初めて開始する際にはNUDT15遺伝子型を確認し、チオプリン製剤の使用可否を判断します。 -
生物学的製剤
ステロイド治療の効果が不十分な場合や、チオプリン製剤で寛解が維持できない難治性のクローン病患者さんなどで用いる薬剤で、日本国内で使用可能な製剤として以下の種類があります。それぞれの薬剤で投与方法や作用の仕組み、作用の時間などが異なることから、個々の患者さんの状態に合わせて薬剤選択を相談します。潜在性の感染症の増悪をきたす可能性があるため,薬剤開始前に結核とB 型肝炎の感染の有無を調べます。
a.抗TNF-α抗体製剤(インフリキシマブ(レミケード)、アダリムマブ(ヒュミラ))
抗TNF-α抗体製剤は、炎症反応に関与するTNF-αに結合し、機能を選択的に阻害する製剤です。インフリキシマブは点滴静注の投与、アダリムマブは皮下注射投与で使用します。アダリムマブは自宅で自己注射することが可能です。寛解維持では、インフリキシマブは2か月に1回の点滴静注、アダリムマブは2週間に1回の皮下注射を行います。
b.抗IL-12/23p40モノクローナル抗体(ウステキヌマブ(ステラーラ))
炎症性腸疾患の病態に関与していると考えられるIL-12、IL-23の共通タンパクであるp40に対する抗体製剤で、IL-12/IL-23の作用を抑えることで消化管の炎症を抑えます。初回投与は点滴静注ですが、2回目以降は皮下注射で投与を行います。寛解維持では、2~3か月に1回の皮下注射を行います。
c.抗α4β7インテグリン抗体製剤(ベドリズマブ)
白血球の種類のなかの1つであるTリンパ球の表面にあるα4β7インテグリンに対する抗体です。α4β7インテグリンは、消化管にTリンパ球が浸潤する際に関与することが知られており、その作用を阻害することでTリンパ球が腸管へ浸潤することを抑制し、抗炎症作用を発揮します。寛解維持では2か月に1回の点滴静注を行います。 -
抗菌剤(抗生物質)
抗菌薬ではフラジールやシプロキサンなどが軽症、中等症の患者さんのうち、痔瘻合併例で使用されます。また一部の大腸を中心とした患者さんに有効な場合もあります。フラジールは頭痛、嘔気、味覚異常の他、長期投与時には、末梢神経障害に対する注意が必要です。シプロキサンではアキレス腱炎(または断裂)に注意が必要です。
内視鏡治療
狭窄症状(食事をした時の「詰まった感じ」や「腹痛」など)を伴うような高度な狭窄では腸管切除や狭窄形成術などの外科治療の適応となりますが、患者さんによっては内視鏡治療が適応になる場合もあります。
当院はバルーン小腸内視鏡検査の国内専門施設の一つであり、バルーン小腸内視鏡を用いて狭窄部を拡げる内視鏡的バルーン拡張術を行なっております。バルーン拡張術とは、内視鏡を狭窄部まで挿入し、内視鏡で見ながらバルーン(風船)のついた拡張器具を狭窄内部に挿入し、風船をふくらませることによって狭窄部を拡げる方法です。ただし狭窄部に深い潰瘍や瘻孔がある場合は、穿孔や出血などの合併症が起こりやすいため適応にはなりません。まずは小腸内視鏡を行った上で、拡張術が可能かどうか評価していきます。