診療のご案内潰瘍性大腸炎・クローン病先端医療センター(IBDセンター)

潰瘍性大腸炎の外科治療

潰瘍性大腸炎の治療は基本的に内科的アプローチにより炎症の制御を図りますが、症状が改善しない場合や手術が必要な状況が生じた際には外科的介入(手術)が必要とされます。手術が必要な状況には、大量の出血や穿孔(腸に孔ができること)、また大腸癌の併発などが含まれます。同様に、腸管外の合併症に対処する目的で大腸切除術が行われることもあります。患者様のうち、10〜25%程度が手術を受けており、手術は特別な治療というわけではありません。

手術のアプローチと方法(図1)

当科では、治療効果が最も高いとされる『大腸全摘+回腸嚢肛門吻合+回腸一時的人工肛門造設術』を第一選択としています。この手術は大腸を完全に摘出し、小腸と肛門を吻合するものであり、手術後3ヶ月ほどは(一時的な)人工肛門を使用して生活する必要があります。
通常、この手術は2段階で行われ、最初に大腸全摘と回腸嚢肛門吻合および一時的人工肛門の造設が行われ、2回目の手術で人工肛門が閉鎖されます。ただし、全身の状態が不良な場合、例えば腸管穿孔や中毒性巨大結腸症がある場合には3段階の手術が検討され、結腸の一部を摘出して病状を安定させ(1回目)、残存直腸の切除と回腸嚢肛門吻合(2回目)を行った後、最後に人工肛門の閉鎖(3回目)が行われることもあります。
当院では、この手術を低侵襲手術(従来の腹腔鏡下手術またはロボット支援下手術※)で実施しています。(※ロボット支援下手術は、主に直腸癌が併発している場合や回腸嚢肛門「管」吻合が予定されている場合に行われます)

低侵襲手術の利点は以下の通りです。

  • ① 手術創の傷跡が小さく、整容面だけでなく腹筋にも少ない影響があります。
  • ②手術時の出血が少ない。
  • ③ 術後の痛みが軽減され、早期の離床が可能です。
  • ④ 腸の動きが早く回復し、早期に食事が摂取できます。
  • ⑤ 入院期間や社会復帰までの時間が短縮されます。
  • ⑥ 肛門機能、泌尿・生殖機能の保持に有利です。


患者様は通常、約8日で退院しますが、合併症などにより入院期間が延長される場合もあります。

図1


上写真:腹腔鏡下大腸全摘術後の腹部(手術1年後)


同じ病名であっても、患者様ごとに病態は異なります。個々の状態や肛門機能、年齢などを織り交ぜながら、治療効果が最も高いとされる方法のみならず、『大腸全摘+回腸嚢肛門管吻合+回腸一時的人工肛門造設術』、『結腸全摘+回腸直腸吻合術』、『大腸全摘+回腸永久人工肛門造設術』など、様々な術式から最適なものをおすすめいたします。各術式はそれぞれ利点・欠点を有しており、患者様一人ひとりに合わせて、病状や社会的背景を総合的に考慮しながら、最善と思われる治療方針と術式をご提案いたします。

図2 回腸嚢「肛門」吻合と「肛門管」吻合の違いについて
左の図で経肛門内視鏡を併用した手術の場合は、腹腔内側(赤線)からと、肛門側(青線)からと、同時に手術を進めます。

当科における外科治療の特徴(図2)

・再燃や癌化のリスクがほとんどなく、大腸粘膜を残さない「回腸嚢肛門吻合」を最優先の選択肢と位置づけています。
・回腸嚢肛門吻合の手法では、確実な直腸粘膜の摘出と肛門機能の温存を目指し、経肛門内視鏡を併用した手術が基本となっています。これにより、狭い肛門管周囲の手術を精緻に行うことが可能で、排便機能の向上や泌尿・生殖機能の維持に寄与すると考えています。なお、この手法は高度な医療技術として、本学の高難度新規医療技術評価委員会から承認を受けています(高技K2017-003)。

術後の生活

2期手術を受けた方は、大腸全摘術(1回目の手術)後の術後入院日数は約1~2週間です。3期手術を受けた方は、大腸全摘術(1回目の手術)後の術後入院日数は約1週間であり、残存直腸切除術(2回目の手術)は約1~2週間です。
大腸全摘後で、人工肛門造設中も、通常の生活は十分に可能です。職場復帰に関しては業務内容によりますが、通常は自宅療養を経て2〜4週間後に職場復帰する方が多いです。もちろん、退院後すぐに職場復帰することも可能です。
退院から約3ヶ月後には、人工肛門を閉じる手術(人工肛門閉鎖術)が行われます。この手術には約1週間の入院となります。
人工肛門閉鎖術後は、おしりから排便をすることになります。大腸が摘出されているため、初期の3ヶ月間は1日10〜15回程度の排便がありますが、その後は徐々に回数が減少し、術後半年~1年で1日7, 8回程度に安定します。

最後に

潰瘍性大腸炎においては、患者様とご家族様が中心となり、内科・外科のスタッフが緊密に協力して治療を進めることが不可欠です。内科的治療を行いつつも、現在の治療と手術を客観的に評価し、患者様にとって最適なアプローチを考慮しながら治療を進めることが重要です。
このウェブページを通じて患者様とご家族様の不安が少しでも和らげられれば幸いです。手術に関する詳細やご質問がありましたら、お気軽に主治医にご相談ください。外科の外来で直接説明することも可能です。
潰瘍性大腸炎の病態は個別に異なり、手術適応や最適な手術法も異なります。経験豊富な専門医との相談を通じて、患者様に最適な治療方針を共に検討することが望ましいと考えています。

クローン病の外科治療

腸管病変の手術

  1. クローン病の腸管病変に対する手術の適応
    クローン病は、基本的に内科治療が原則ですが、治療で炎症や症状のコントロールができない場合があります。以下のような場合、外科手術が適応となります。
    ・絶対的手術適応:腸穿孔、出血、癌の合併、腸閉塞、中毒性巨大結腸症、膿瘍や腹膜炎
    ・相対的手術適応:難治性の狭窄、内科治療抵抗性、難治性肛門病変、瘻孔(腸と腸を含むそのほか臓器がつながる。腸と皮膚がつながるなど。)

  2. クローン病の腸管病変に対する手術の適応
    クローン病は、基本的に内科治療が原則ですが、治療で炎症や症状のコントロールができない場合があります。以下のような場合、外科手術が適応となります。
    ・絶対的手術適応:腸穿孔、出血、癌の合併、腸閉塞、中毒性巨大結腸症、膿瘍や腹膜炎
    ・相対的手術適応:難治性の狭窄、内科治療抵抗性、難治性肛門病変、瘻孔(腸と腸を含むそのほか臓器がつながる。腸と皮膚がつながるなど。)

  3. 手術のポイント
    病変の切除による病態の改善が第一目標ですが、繰り返すことで腸が短くなる『短腸症候群』が懸念されるため、切除は必要最小限とし、腸の栄養吸収機能を維持することにも注意を払う必要があります。

  4. 実際の手術方法
    上記の手術適応の則り、手術適応や手術のタイミング、術式を選択していきます。
    待機的手術では、ほとんどの場合腹腔鏡手術が可能であり、緊急手術でも、腹腔鏡でおこなえる場合があります。患者さんにあった治療法を選択します。

    ・腸管切除吻合:病変が広範囲である場合や、瘻孔がある場合、腸管切除吻合を行います。欠点は、吻合腸の変形により内視鏡検査や治療がやりにくくなるなどの欠点が指摘されています。
    ・狭窄形成術:クローン病は病変が連続せずとびとびにできるというのが特徴です。狭窄などの病変をすべて切除すると先に述べた短腸症候群のおそれがでてきます。そのため、狭窄部を切開し腸管の径を広くすることで、狭窄や閉塞リスクを低くする方法です。
    ・人工肛門造設:難治性の肛門病変があり、下記の手術では改善がない場合や、便失禁、頻回の排便、肛門部の狭窄などで日常生活に大きな支障をきたしている場合は、肛門に便が流れて行かないようにするために人工肛門を造設する場合があります。

肛門病変に対する手術

クローン病は、下痢が多く直腸に潰瘍ができることが多いことから痔瘻(肛門の外と中がつながる状態)が起きやすくなります。肛門周囲膿瘍を合併し一時的によくなっても、再発しやすく、痔瘻に対する手術が必要となります。2泊3日の入院で、下半身麻酔(脊髄くも膜下腔麻酔)で行います。


・Lay open法:瘻孔をくりぬき切開し、瘻管を開放する方法です。単純痔瘻に行います。
・Coring out法:瘻孔をくりぬき、瘻管の壊死物質を除去する方法です。
・Seton法:瘻孔をくりぬき、通り道の壊死物質を除去し、瘻管にチューブを通して通り道が閉鎖し膿がたまらないようにする方法です。クローン病に多くみられる複雑痔瘻に行います。

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