研究室案内

関節リウマチ滑膜に注目した研究

1.関節リウマチ滑膜線維芽細胞・マクロファージ炎症性サブセットを標的とした新規治療戦略の開発

免疫細胞やこれらが産生するサイトカインなどを標的とした分子機序の異なる様々な分子標的薬の登場により関節リウマチ治療は大きく進歩しましたが、未だ寛解に至らない患者さんが多くいます。これら治療抵抗性の方を寛解に導くために、私たちが注目しているのが関節リウマチの炎症の首座である滑膜に局在する滑膜線維芽細胞や滑膜マクロファージです。最近のシングルセルRNAシークエンシング(scRNA-seq)により、滑膜の線維芽細胞やマクロファージは一見同じに見えますが、じつは機能が異なる複数の亜集団(サブセット)からなることがわかってきました(Ref 1)。関節リウマチの滑膜の中にも、炎症を助長する悪玉サブセットに加え、炎症を抑制し、組織修復に関与するような善玉サブセットもいることがわかってきています(図)(Ref 2)。どのようなシグナルがこの悪玉サブセットや善玉サブセットの生成に関与するかを解明することで、悪玉を善玉へ、あるいは、善玉をより善玉へかえるような治療薬の開発が可能と考えています。本研究は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)免疫アレルギー疾患実用化研究事業の支援を受けています。

References

  1. Mizoguchi F et al. Functionally distinct disease-associated fibroblast subsets in rheumatoid arthritis. Nat Commun. 2018 Feb 23;9(1):789. doi: 10.1038/s41467-018-02892-y
  2. Noda S et al. CD34+THY1+ synovial fibroblast subset in arthritic joints has high osteoblastic and chondrogenic potentials in vitro. Arthritis Res Ther. 2022 Feb 15;24(1):45. doi: 10.1186/s13075-022-02736-7

2.新たな作用メカニズムの薬剤開発によるリウマチ性疾患の治療可能性

関節リウマチ患者の滑膜組織では滑膜線維芽細胞の過増殖が生じています。我々の研究室は、抗癌剤のような細胞障害性の薬剤ではなく、可逆的に細胞増殖を抑制できる薬剤によって滑膜線維芽細胞の過増殖を抑制できれば新たなメカニズムの抗リウマチ薬が開発できるのではないかという着想から、細胞周期を制御するキナーゼであるCDK4, CDK6に注目した研究を行っていました。CDK4/6活性を抑制すると動物モデルの関節炎が改善することなどを示してきました(1)。最近は滑膜線維芽細胞ではユビキチン化を介して炎症性転写因子の分解にも関与していること(2)、動物モデルの皮膚硬化にも有効であること(3)を明らかにしました。現在は新たなCDK4/6抑制化合物の臨床応用を目指して、製薬企業と協力して研究を進めております。

また、リウマチ性疾患では慢性炎症が問題になりますが、NFκBはその中でも中心的な役割を果たすと考えられており、実際に、副腎皮質ステロイドや多くの抗リウマチ薬はNFκBの抑制作用を有しています。我々の共同研究機関で実施したdrug screeningのプロジェクトから、NFκB生理的な活性を抑制せず、炎症の終息を早めるような化合物を見出すことができました(4)。現在は生体医歯工学研究拠点の先生方と共同研究を行い、標的分子の同定や、新規性のある派生体の合成、リード化合物の炎症モデルでの有効性の評価を行っております。

References

  1. Hosoya T, Iwai H, Yamaguchi Y, Kawahata K, Miyasaka N, Kohsaka H. Cell cycle regulation therapy combined with cytokine blockade enhances antiarthritic effects without increasing immune suppression. Ann Rheum Dis. 2016 Jan;75(1):253-9. doi: 10.1136/annrheumdis-2014-205566. Epub 2014 Aug 27.
  2. Hosoya T, Saito T, Baba H, Tanaka N, Noda S, Komiya Y, Tagawa Y, Yamamoto A, Mizoguchi F, Kawahata K, Miyasaka N, Kohsaka H, Yasuda S. Chondroprotective effects of CDK4/6 inhibition via enhanced ubiquitin-dependent degradation of JUN in synovial fibroblasts. Rheumatology (Oxford). 2022 Aug 3;61(8):3427-3438. doi: 10.1093/rheumatology/keab874.
  3. Yamamoto A, Saito T, Hosoya T, Kawahata K, Asano Y, Sato S, Mizoguchi F, Yasuda S, Kohsaka H. Therapeutic Effect of Cyclin-Dependent Kinase 4/6 Inhibitor on Dermal Fibrosis in Murine Models of Systemic Sclerosis. Arthritis Rheumatol. 2022 May;74(5):860-870. doi: 10.1002/art.42042. Epub 2022 Mar 23. PMID: 34882985.
  4. Hosoya T, Shukla NM, Fujita Y, Yao S, Lao FS, Baba H, Yasuda S, Cottam HB, Carson DA, Hayashi T, Corr M. Identification of Compounds With Glucocorticoid Sparing Effects on Suppression of Chemokine and Cytokine Production by Rheumatoid Arthritis Fibroblast-Like Synoviocytes. Front Pharmacol. 2020 Dec 17;11:607713. doi: 10.3389/fphar.2020.607713.