ご家族の方へ

家族のためのハンドブック

社会性の獲得と心理的適応

ケネディー・クリーガー研究所
ジェーン・クンゼ(2008年改定)

Jane C. Kunze - Kennedy Krieger Institute

適応という問題

A-Tの子供とその家族にとって、この病気のために生じてくる様々な問題に取り組まなくてはならないことは本当に大変です。社会的にうまく適応できなかったり、精神的に不安定になったりすることもあります。ほとんどのご家族はうまく適応されていますが、カウンセリングサービスに助けられたとおっしゃる方も多いのです。ある問題に取り組むためにしばらくは定期的にカウンセリングを受け、その後は必要な時だけ、または時々、ご相談になるご家族もいます。年齢によって子供の抱える問題が変わってきますので、その都度問題点を洗いなおす必要があります。自分の感情を表に出すのがむずかしい子供もいます。ご家族への負担を気づかって感情をセーブしてしまうこともあります。カウンセリングではお子さんが自分の感情を理解して、きちんと表現できるよう支援します。

病気の進行に伴い、A-Tの子供にはできないことが多くなり、人の助けが必要となり、友達についていくことが難しくなります。これはとても辛いことで、子供達は自信を失ってしまいます。無力感、意欲の低下、うつ傾向が生じます。子供には、なるべく自分で選択する経験や何かを乗り越える経験をさせてあげてください。

友達との関係に、いろいろな問題がでてくることがあります。誤解や差別を受けたり、馬鹿にされたり、仲間はずれにされたりするかもしれません。A-Tのために行動が制約されて、友達との付き合い方が変わることもあります。例えば、友達と一緒に自転車に乗ることができなくなった時に、子供ががっかりして疎外感を覚えた、とおっしゃるご両親が多いのです。焦燥感やうつ症状、自信喪失もよくあります。家族としての行動も変わってきます。本人だけでなく、兄弟、他の家族、親しい友達などがいろいろな問題に直面し、大きなストレスを抱えます。ご家族が子供の病気を受け止め、能力の変化に適応し、病気の進行に対応していくためには、多くの社会的・心理的問題を解決しなければなりません。

こうした問題にはオープンな対応をすることが望まれますが、いろいろな情報は子供の発達段階に合わせて与える必要があります。質問に答える時は子供の理解力に合わせてください。小さな子供には具体的な説明が必要です。発達レベルにより子供の心配ごとと質問も変わってきます。子供の心配ごとを親が深読みしすぎないよう、親の方から聞きだすのではなく、子供の言葉で話してもらいましょう。将来に対する不安は子供より親に大きいのです。特に小さな子供は、「どうして手伝ってもらわなきゃいけないの」、とか、「どうして友達と同じにできないの」、といった目の前の問題に関心があります。私たちの経験では、A-Tの子供達の多くは、知恵や手を貸してもらって少しでもできることが増えれば喜ぶのです。子供は、何ができないかではなく、何ができるか、に関心を持ちます。目の前の具体的な問題を一つひとつ解決することが子供達に良い影響を与えると知ることは、将来に関するもっと大きな不安をお持ちのご両親にとっても大切なことです。

もっと大きくなった子供達の問題は、“自分が友人とは違う”ことを受け入れないといけないことです。特に、自分だけ普通の活動ができなくなったり、車椅子などの補助具を使わなければならなくなった時に、問題が出てきます。A-Tに詳しいカウンセラーが近くにいることは少ないでしょうが、脳性麻痺など他の障害のあるお子さんとの経験が豊富なカウンセラーがいれば、こうした仲間との関係についての問題を相談することができます。しかし A-Tと脳性麻痺には一つ大きな違いがあることを覚えていてください。A-Tの子供では身体の機能が低下していきます。一方、脳性麻痺の患者さんでは機能が低下することはありません。時にはクラスメートとオープンに病気のことを話し合い、子供の障害を知ってもらって、応援してもらいましょう。

思春期を迎えた患者さんは、病気について悩み、将来を不安に感じます。ここでも、焦燥やうつ状態があらわれます。命に関わる他の疾患、たとえばがんの患者さんをケアするカウンセラーに相談することは、A-T患者さんにとっても心の支えとなります。

ここで、A-Tの子供達にも他の子供達と同様の発達段階があること、すなわち、反抗期があり、自立心が育まれ、そして性への関心が芽生えることを理解してください。子供達は成長とともに親との関係を作り直し、自我を確立していきます。性の発達やその遅れが大きな問題となる子供もいます。

社会性の獲得

社会性の獲得は、子供の心理的な適応のためにも大切です。友達との良い関係をつくることで、刺激が得られ、病気だけにとらわれることなく、自信が持てるようになります。これにより子供の生活の質全体が高まります。ですから、社会と係わりを持つようにし、授業以外のグループ活動などにも参加するようにしましょう。勿論、子供に自信を持たせるような良い経験を与えてくれるグループを慎重に選ばなければなりません。例えば、少し幼い子供だったら年下の子供もいるようなグループが良いのです。

子供が小さいうちから、周りとの関わり方を学ばせ、社会性の基盤を身につけさせましょう。これが、成長してから社会と関わっていく上で役立ちます。子供が大きくなるにつれ、まわりの友達はA-Tの子供にはできないような遊びに興味を示すようになります。興味の対象を広げ、友達の輪に積極的に参加して新たな成功体験を得るためには何をすればよいか、考えましょう。例えば、スポーツには参加できなくても、マネージャーやアシスタントはできるのです。自分より小さい子供と一緒に活動したり教えたりすれば、自分はいつも人に助けられているわけではなく、自分が仲間を助けることもできるのだ、ということを経験できます。こうした経験から得られる喜びはとても大きく、子供の自信を強め、自己評価を高めます。パソコンも、グラフィックデザインやチェスなど、新しい興味の対象を与えてくれますし、社会生活の拡大にも利用できます。インターネットを通じて友達と一緒にゲームや遊びをすることもできます。Eメールを使って社会とのつながりを強めることもできますし、友達と交流を続けたり、家族の連絡を密にすることもできます。また他のA-Tの子供達と交流できれば、支援ネットワークを立ち上げることもできますし、自分には仲間がいるという気持ちを持つことができます。

まとめ

子供のために有益な教育プログラムや社会プログラムを作り上げるためには、その子供の能力の優れている点と劣っている点に関する情報が必要です。こうした情報があれば、子供に適した学習目標を設定し、サポート体制を整え、課外活動を選択し、家族や友人とのより良い関係を構築することができます。適正な予測に基づいた適切な支援があれば、その子供の能力が最大限に生かせますし、可能な限りの経験がさせられます。

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