ご家族の方へ

家族のためのハンドブック

作業療法

ケネディー・クリーガー研究所
マリー・ラシュノ 公認作業療法士(2008年改定)

Mary Lashno, OTR/L - Kennedy Krieger Institute

作業療法士の役割

作業療法士の仕事は、患者が食事を取る、服を着る、髪の手入れをする、お風呂に入る、トイレをするなど生活上の行為に対して支援をすることです。一般的に作業療法士は患者の腕や手の動き、目と手の同調、腕を動かすときの安定した姿勢、体を動かすのに必要な理解力などに特に注意を払ってリハビリを行います。作業療法士は一般的に理学療法士と連携を取りながら治療を行いますが、理学療法士はおもに下半身の運動障害や姿勢がうまく保てない問題などに対処することを重点的に担当します。成長すると正常な子供は自然と色々なことに興味や欲求を持つようになり、一方A-T患者は神経障害という負担が増えていきます。A-T患者の援助において、作業療法士の役割は継続します。作業療法では援助のための器具を勧め、また患者が容易に順応できるように環境を改善し、作業の練習を通じて新しくより適正なゴールを設けます。

作業療法の効果基準

作業療法の効果を判定する基準は患者の年齢や成長によって変わります。乳幼児の場合、上手に遊ぶことができるかがその基準となります。遊びを通じ、子供は外の世界を知り、自分と外の世界の関係性を学ぶからです。学齢期では、遊び以外にまず通学できること、先生の指示に従えること、宿題をこなせることが加わります。鉛筆やハサミを上手に扱えるかなど、学校生活がうまくいくための身体的能力に焦点を当て子供を観察することは大切です。またひとりで食事を取れるのか、食事の準備ができるのか、服を着られるか、歯磨きや洗面はできるかなど、子供がひとりで行わなくてはならない身の回りの作業も重要な基準です。もう少し子供が大きくなれば、自立の面から見た基準が重要となります。それは作業面だけでなく内面の成長も含み、将来、仕事に付く場合や大学生活を考慮して援助することが重要です。

一般的に、作業療法では手作業などの細かい運動能力や視覚運動能力、知覚能力 (目で見ながら手を正確に動かす能力) に重点を置き、一方理学療法では粗大運動能力 (姿勢、バランス、歩き) から患者を評価します。細かい作業を行うため,体幹、頭、脚の安定させる姿勢を維持することは両者に共通します。体が不安定であったり、自らの動きをうまく制御できない場合、患者は手で何かにつかまり、転倒しないようにしなくてはなりません。安定して座ることができなかったり、頭をしっかりと支えることができなければ、手を上手に使ったり目で捉えたりすることができません。そのような場合、患者が毎日の生活をうまく過ごせるように、理学療法士と作業療法士は協力しながら安定して理想的な姿勢を保持できる援助装具を選びます。

A-T患者でよく見られる問題

A-Tの子供は日常生活がそれにより害されるような様々な問題を多く抱えています。

腕の動きの調整障害

多くのA-Tの子供たちは生活の中での行動を自分ではうまく行おうとしますが、体は思うように動きません。例えば手を伸ばして何かを取ろうとすると、手が伸びすぎてしまったり、あるいは届かなかったりします。こうした運動の不調にはしばしば2種類のものが見られます。ひとつは例えばスプーンで何かを口に入れようとしたとき、ひとつひとつの動作は問題ないのですが、タイミングが早すぎたり、複数の動作の調和がうまくゆかずに、ときには自分を傷付けてしまうこともあります。ふたつ目は運動失調からくるもので、始めはあまり意識せずに食事をとっていますが、食事時間が長くなると、体が震え、動きをうまく調整できなくなります。腕と体幹への指示を増やすことにより、症状を抑えることが可能です。

震え(振戦)

何かをある場所に置こうとするとき、A-Tの子供の多くは手が震えてしまいます。ふるえは年齢が進むにつれ増強します。残念なことに無理に行おうとすればするほど、手の振るえは激しくなります。震えの症状には2タイプがあります。ひとつは企図振戦と呼ばれるもので、動作を始めようとすると生じるもので、例えば鉛筆をノートに近づけまさに書こうとするそのとき、震えが増幅されます。この症状を抑えることは非常に困難です。もうひとつのタイプは動作の開始時にはコントロールされていますが、動作を続けることにより疲労から起こります。このタイプの扱いは比較的容易で、お子さんが動作を中断し、少し休めばまたその動作を再開することができます。

頭と体幹の過剰な動き

頭と体が大きく揺れてしまうことにより、細かい作業をうまく行うことができません。目的物を正確に捉え動かすためには、腕と頭の余計な動きはなるべく抑える必要があります。余計な動きは作業を困難にするだけでなく、エネルギーを消費するために患者に大きな疲労をもたらします。

視覚の問題

目の動きをうまくコントロールできないため、視覚運動能力 (何かを行うときに対象物に視点を合わせ、目の動きと体の動きを同調させる能力) も阻害されます。A-Tの子供は物を見つめるときに、横目で見たり、頭を見たいものの反対方向に回す傾向を示します。こうした行為は彼らにとって、視線を安定させ、少しでも見えやすくするために役立っているようです。

A-Tの子供の大多数は何かを行うときにうまくできなければ、それに代賞する行為を自ら考え実践できます。いくつかの行為は適切なものですが、いくつかは高度な技術がうまくいく可能性を邪魔してしまうことがありあます。

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