ご家族の方へ

家族のためのハンドブック

摂食・嚥下障害

ジョンズ・ホプキンス・チルドレンズ・センター
マウリーン A. レフトングレイフ 理学博士・言語療法士(2007年改定)

Maureen A. Lefton-Greif, PhD,CCC/SLP - Johns Hopkins Children's Center

嚥下障害

嚥下障害は呼吸障害を引き起こし、健康を維持するために必要な食物の摂取を阻害し、楽しいはずの食事の時間を苦痛なものとします。嚥下障害とは食べ物や飲み物をうまく飲み込めない症状のことです。嚥下には三つの段階(相)がありますが、嚥下障害は一つまたは複数の嚥下相の障害によりおこります。それぞれの相における障害には、下記のようなものがあります。

口腔相での問題
・口からよだれが流れでたり、食べ物や飲み物がこぼれてしまう
・うまく噛めない
・食べ物を飲み込める状態 (ボーラス;食塊) にするまでにとても時間がかかる
・口の中に食べ物がたまってしまう
咽喉相での問題
・食べ物や飲み物が誤って気道に入ってしまうために、食べている最中にむせたり咳き込んだりする

誤嚥がひどく、食べ物や飲み物が肺にまで入り込んでしまうため、始終息がつまる、咳が止まらなくなる、頻繁に熱を出す、肺炎を繰り返す、などの症状があらわれる

・飲み込んだ後も食べ物の一部がのどに留まっているために、のどに何かがつっかえた感じがする
食道相の問題
・胃から食道に飲食物が逆流する(胃食道逆流)

A-Tの子供達によく見られる摂食・嚥下の問題

A-Tの患者さんの摂食・嚥下に関する問題は10代に入った頃からよく見られるようになります。腕や手の問題のために自分で食事をすることが難しくなる場合もありますし、嚥下相のどこかに問題を生じることもあります。例えば、食べ物を皿から口にうまく運べなくなって、食事にとても時間がかかるようになる患者さんがいます。噛むことが難しくなったために噛み砕くのに手間取り食事時間が長くなる方もいます。理由はどうあれ食事に時間がかかるようになると、十分な量を取ることができずに、体重減少や栄養バランスの悪化を招くことになります。

A-T患者さんが10代になると、咽頭相で各器官が動くタイミングや調整に問題がでてきます。このため、唾液や飲食物が誤って気道に入り込んでしまいます。これを“誤嚥”と呼びます。症状が重くなると、飲食物が気管に入っても咳きこんだりむせたりしなくなります。この咳を伴わない誤嚥を“静かな誤嚥”と呼んでいます。“静かな誤嚥”は呼吸障害につながります。咳やむせは嚥下に問題があることのサインではありますが、私達みなに見られる正常な反射でもあって、これにより気道から異物を吐き出し、肺を守っているのです。A-Tの患者さんにおける大きな問題は、誤嚥をした時にこの反射が起こらないことです。気道をきれいにできないために、肺炎などの肺疾患を起こす危険性が高くなります。しかも、“静かな誤嚥”は嚥下に問題があるという事実を隠してしまいます。誤嚥しても咳やむせることがないと、周りの人は何の問題もなくうまく飲み込めていると思い込んでしまうのです。

嚥下障害の危険信号

嚥下障害の存在を示す危険信号を以下に示します。お子さんにこういう症状を認めたら、嚥下の状態をきちんと検査する必要があります。摂食障害専門チームの医師や言語療法士に相談してください。

・飲食の際にむせたり咳き込んだりする
・体重が増えない、あるいは減る
・よだれが目立つ
・毎回食事に40分以上かかる
・以前は好きだった食べ物や飲み物を嫌がったり、うまく食べられない
・うまく噛めない
・呼吸に問題が出てきた

嚥下障害への対応策

毎日の食事では、年齢にかかわらず次の3つの原則を守る必要があります。

(1)安全に食べられること
(2)十分な量の栄養価の高い食事が摂れ、健康の維持や正常な発育につながること
(3)食事が楽しめること

専門家チームはこの3つの原則が満たせるようなプランをつくってくれます。

現時点では、A-T患者さんの嚥下障害を治す方法は見つかっていません。しかし、食事方法を工夫して、食べやすくしたり、むせや誤嚥がおこりにくいようにすれば、問題を軽減することはできます。嚥下の相のどこに問題があるかによって、それに対するアドバイスを受けることもありますし、食事を効率的に摂るためのアドバイスを受けることもあります。A-Tの患者さんの症状は人により少しずつ違いますので、お子さんには合わないアドバイスもあるかもしれません。またA-Tの進行により嚥下障害の症状も変わってきますので、その時には新たな対応策を練る必要があります。医師・言語療法士・栄養士と継続的に相談しながら、対応策を更新していってください。

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