A-T(毛細血管拡張性運動失調症)とは

A-Tってなに?

多系統疾病

毛細血管拡張性運動失調症 (A-T) とは、非常に多くの体の組織に影響を与える進行性であり退行性の疾病です。A-Tの患者は正常な健康状態で生まれますが、一般的に2歳になるころ最初の症状が現れ始めます。通常、最初に現れる症状は“ふらつき”つまりバランスの障害と、不明瞭な発語ですが、これらは筋肉の調節の障害を意味する“運動失調症”により引き起こされるものです。

運動失調症

脳の一部である小脳に進行性変性が始まることを初発症状とし、次第に全身の筋肉の調節の障害に進行し、最終的に患者は車椅子の生活を余儀なくされます。運動失調症が悪化すると、A-Tの小児は書くことができなくなり、また発語が緩慢でうまく話せなくなります。さらに眼球のコントロールが困難になり、最終的には読むことさえもできなくなります。

毛細血管拡張症

運動失調症が発症するとすぐに、大抵のA-T患者はもうひとつのA-Tの特徴である“毛細血管拡張症”すなわち小さな赤いクモの巣状の静脈の拡張を、眼球の端や耳の表面、また日焼けした頬に表出し始めます。これらの毛細血管拡張症はあまり深刻なものではありませんが、症状が目立つものであるため運動失調症と合わせて“毛細血管拡張性運動失調症”の病名となりました。

免疫システム異常

A-Tの小児のほとんど(約70%)はもうひとつ臨床的な特徴として免疫不全、通常は反復する呼吸器感染症、を伴います。多くの患者にとり、これは致命的な疾患となりえます。感染を防ぐ血中の抗体である免疫グロブリンIgAが少ないため、A-Tの小児は普通の抗生物質による治療では治癒できない肺感染症に罹患する可能性が高くなります。免疫システムの弱体化と進行性運行失調症の併発は、A-T患者の死因として非常に多い肺炎の発症につながってしまうことが少なくありません。

がんになりやすい

A-Tの小児が血液系の悪性腫瘍に罹患する確率は普通の人の約1,000倍にもなります。ほとんどすべてのがんの発症率が高いのですが、リンパ腫および白血病がとくに多く認められます。残念なことにA-T患者は著しく放射線に対し抵抗力が弱いため、放射線治療をA-T患者へ使用することはなるべく避けなければなりません。

その他のA-Tの特徴は

毛細血管拡張性運動失調症の小児が示す他の特徴的疾患としては、軽度の糖尿病、若白髪、呼吸障害を伴う嚥下困難、および流涎(よだれ)また成長遅滞があります。A-Tは多系統疾病ですが、患者は正常または正常以上の知性を持っており、また発病後も維持します。そのため進行性にもかかわらず、本症患者は落ち着きを保ち、外見上は比較的健常に見える傾向にあります。

A-T患者の割合

毛細血管拡張性運動失調症の発症頻度に人種、経済環境、地域性、教育レベルによる差異は見られません。男女による差異もありません。疫学者によると、A-Tの出生に対する発症頻度は4万分の1です。しかしながら多くのA-T患者は発症する前の幼児期に死亡していると考えられます。したがって本症は実際のところ、より頻度の高い疾患であると思われます。

予後

A-Tは現在、治療不能であり進行を止めることも不可能な病気です。幸いがんを発症しない場合でも、多くのA-Tの小児は10歳までに車椅子の生活を余儀なくされます。これは筋肉が衰弱するためでなく、筋肉の調節機能が障害されるためです。その後、多くのA-T患者は10代から20代前半までに、呼吸不全またはがんにより亡くなります。40代の患者もいますが、非常にまれなケースです。

可能な治療法は

A-Tに有効な治療方法はなく、進行を遅らせる方法も現在のこところありません。現時点での治療は、発症した病気の部分的緩和に向けてのみ行われます。A-Tは非常に珍しい病気であるため、患者を助ける薬物療法の研究データはほとんどありません。理学療法、作業療法、言語療法は現在できる機能を保つのに、ガンマグロブリンの注射は免疫システムを補助するのに効果があり、多量のビタミン摂取は一部の症状を緩和させます。

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