ご家族の方へ

家族のためのハンドブック

学校と学習

ケネディー・クリーガー研究所
ジェーン・クンゼ(2008年改定)

Jane C. Kunze - Kennedy Krieger Institute

認知能力とは、例えば様々な環境の中で情報を得て、処理し、記憶する能力であり、学習と問題解決に欠かせない能力です。

情報は主に聞く形態 (例えば言語として)と、見るという形態 (例えば視覚資料、知覚資料として) で、私たちは取得しています。学習能力、概念を理解する能力、社会状況を認識する能力、これらひとつひとつを積み上げながら、私たちは認知能力を培っています。

他の子供たちと同じように A-Tの子供の認知能力も様々です。子供により認知能力に違いがあり、それぞれ得意な分野、苦手な分野があるということです。色々な角度から知能を調べるテストが実施されています。結果を見ると、 A-Tの子供は認識能力と学習能力の発達がゆっくりで、他の子供と比較して低い点数が出ています。しかしここで大切なことはA-Tの子供たちの得意の分野を把握し、その分野を生かすように体験を積ませることです。成功体験は自己評価を高め自信を付けさせます。特定の認知能力に特に欠陥があるわけではないのですが、同年代の子供と比べ A-Tの子供は新しい知識を獲得するスピードは遅い傾向にあります。この結果、だんだんと授業が進むにしたがい、ついて行けなくなることがあります。また理解力、興味の対象などに関して、他の子供より幼く見える場合があります。A-Tの子供たちがうまく学校生活、社会生活を送ることができように、周りの人間はよく目をかけて、子供たちが必要とする援助を的確に与える必要があります。A-Tの子供たちは自分たちの劣っている点について、しばしば繊細なのです。

心理検査について

子供の得意分野と苦手分野を知るために、包括的な心理検査が行われます。例えば子供の不得手な事柄や分野について、ご家族から聞き取り調査から始まります。調査では子供の学校生活、知識を咀嚼する力、社会性、順応能力について情報を得ます。こうしたことから言語理解力、視覚的/知覚的問題解決能力、記憶力、注意力、学習能力、そして社会的機能や感情について、心理学的なアプローチが可能となります。子供に対しては、認知能力の中での優れた点と劣った点を調べるため標準化されたテストを行い、特に注意すべき点を明らかにします。複数の検査のうちから、最も適性なものを選択します。テスト結果は合理的な目標を定め、効果的な援助を計画するのに有用です。こうしてできたプランを成功させるためには、計画的な教育方針の作成と、十分なサポート体制が欠かせません。

学校の勉強について

クラス設定

A-Tの子供は、その時々の能力に合わせて学習目標を修正する必要があり、それゆえ柔軟に対応しなくてはなりません。なぜそのようなことが必要なのかについては、複数の理由があります。眼球運動の障害があるため、うまく字を読むことができません。振戦と運動失調症のために、字を書くこと、パソコンのキーボードを打つことがうまくできません。発語が不明瞭で情報処理に時間がかかるために、問題を理解していないと誤解されてしまうことがあります。座位を維持するためエネルギーと集中力を費すため、先生の話に集中することができなくなります。こうしたことがいくつも重なり、学年が進むにつれ認知能力の発達が遅延し、それにともない勉強についていけなくなります。

特別な支援やマンツーマンのサポートを受けることにより、普通授業でも十分にやっていける A-Tの子供もたくさんいます。一方、そうした支援が不十分な場合は、全ての普通授業を受け、クラスメートと同じように学習を進めることが困難になる場合もあります。個別のサポートや学外の支援が各自の集中力を高めるのに役立ちます。子供の能力に合わせた特殊学校の効率的プログラムに参加して、普通授業をきちんと理解できるようになった子供もいます。どこのクラスに入れるのかは、クラスメートとの関係と、その子がクラスの中で充実感を得ることができるのかに、重点を置いて考えるべきでしょう。

学年が進むにつれて、A-Tの子供は個別のアシスタントが必要となります。アシスタントは子供の安全をサポートし、電動車椅子など移動の補助をします。もちろんアシスタントの役割はこれだけでなく、学校内のあらゆる学習や行事を全般的に補助します。ノートを取ること、教科書を読むこと、新しい教材の説明、生徒が書いたレポートの発表などを通じて、アシスタントの授業の習得を促進させます。ただ勉強を助けるだけでなく、生徒がどうしたらスムーズに勉強が進められるのかを考え、クラスの中で生徒が居心地よく勉強に集中できる環境を作ることもアシスタントに求められる大切な仕事です。さらに生徒が疲れないように注意を払うことも求められます。

子供の理解力について

子供が年齢に比べ遅れているのではないかと思われる分野がある場合、まずその子供の理解力を評価することが必要となります。また行動指針、指導方針、指示方法、説明能力、社会との関わり方、その他一般的な行動基準を子供のために作っておくこともと必要でしょう。さらに子供の理解力に応じて、学習目標と教育方針も決定しておきましょう。ただしこれらの計画や目標は、子供の成長に応じて、変更する可能性のあることを予め認識しておいてください。指導目標と指導方針も変更しなくてはならないかもしれません。子供の能力を超えた目標設定は、子供のフラストレーションを強め、自信ややる気をなくさせます。目標修正は普通クラスの中でも行うことが可能です。目標設定が適切であるかは、学業とは無関係に、子供がどれだけクラスの中になじめているのかを見ることで判断できます。

子供の長所と弱点を把握すれば、最適な学習を行うために何が必要なのかを判断できます。例えば、ある子供は眼球運動の障害のために文字を目で追うことがうまくできずに読書が困難ですが、視覚的構成や空間的構成を理解する能力が優れています。こうしたケースでは、文字を書いたプレートなどを交えながらの実演やイラストなどが理解を容易にします。また空間的構成を理解することが苦手な子供には、口頭での説明を加えながら視覚にはっきりと訴える説明が有用です。こうした子供には話しかけることが最高の教材となるのです。テストを行う場合も時間が許すのならば、解答を書かせるのではなく、パソコンを使用したり、あるいは口で答えさせるとよいでしょう。

新しい概念を理解することが苦手な子供もいます。情報として覚えたとしても、完全に理解するためには何度も復習し、繰り返す必要があります。同じ教材を繰り返し使いながら説明をし、ゆっくりと授業を進めます。この方法では新しい概念を体で覚えこむように、子ども自身が経験的に理解を深めることができます。特に抽象概念を理解することが苦手な子供もいますが、こうした場合は具体的に例を挙げながら教えるとよいでしょう。複雑な問題は、単純な問題に小分けして教えると理解しやすくなります。こうした方法は単に理解を促すだけでなく、勉強を楽しいものにします。構造的に理解することが求められるような難しい概念もこの方法ならば、比較的容易に理解できます。またこの場合も何度も復習することにより、理解を確実なものにすることができます。

情報処理の速さ

A-Tの子供の多くは新しい概念だけでなく、身近なことの理解にも時間がかかる場合があります。学校では質問されてもすぐに答えることができず、一般生活で話しかけられても返答に時間がかかってしまいます。早く応えようと思うほど、プレッシャーがかかり、ついには返答を諦めてしまう子供もいます。リラックスして応えることができる環境を子供に与えることが大切です。その環境とは、時間がかかることを、遠慮なく伝えることができる環境です。こうした環境がうまく機能すれば、上手に話す経験を積むことができ、会話に慣れることができます。また時には子供が質問を理解するために、何回か繰り返してもらうことや、説明が必要な場合もあります。しかし、理解するのにもう少し時間が必要なだけの場合もありますし、ちょっとした助けがあればすぐに理解できることもあります。そうしたちょっとしたきっかけが、会話をスムーズに進めさせます。

読むことについて

子どもの読む能力を補うために

目の動きに問題があるため、A-T患者にとって読むことは非常に努力を要する作業です。拡大コピーをとったりラインマーカーで線をひくと、読みやすくなります。読む箇所を指し示すことも文章を目で追う作業を容易にします。最近のパソコンは文章を読み上げる機能が付いていて、これも利用できます。手書きの文章の場合、鉛筆よりもペンやマジックで書いたものの方が読みやすいです。目の位置まで教材を持ってくると読みやすいという子供もいますので、本を置くスタンドは有効です。一方、子供によっては平らな場所に置いたほうが読みやすいという子もいます。大きな文字を使用した音声機能付計算機や時計も、役立つツールです。

読みを補助する器具は有用ですが、子供が成長するにしたがい読むことの代替となる方法がより重要となります。子供に読む能力を身に付けさせることは必要ですが、時間を節約し、疲労とフラストレーションを抑えるためにも、読み以外の方法で情報を得ることを考慮するべきです。代替となる方法は "読むことを学ぶ"時期から"学ぶために読む"時期に移行するときに、重要性を増します。読みは国語だけでなく、他の科目を学ぶためにも必要であり、読むことが負担にならないようにしないといけません。長い文章を無理に読ませるよりも、大人が子供に読み聞かせしたり、オーディオブックやビデオを使ったほうがより生産的です。テープや CD に収録された本は学習用のものだけでなく楽しめるもの、趣味を扱ったものまで年々、豊富に出版されてきています。多くの A-Tの子供は、注意深く聴き、耳を通して情報を吸収する能力が優れています。小さいときから聞く力を育てれば、将来の準備となるのです。

記憶力

A-Tの子供の中には記憶力と喚語(適当な言葉を選び出す)能力に問題のある子供がいます。情報を記号化し、それを脳から取り出す能力を高める特殊な技術があります。その技術は例えばある情報を記憶する、あるいは思い出すときに、イメージ化する、情報を小さな単位にグループ化する、カテゴリーごとに分ける、言葉に出して練習する、類似の意味や音を手がかりに頭の中でまとめる、周りの環境と関連付ける、過去の経験と関連付ける、そのときの状況と関連付ける、情報のキーとなる内容に集中する、多重なモダリティを使う、などを駆使します。何かのリストを覚えなくてはならないような、いわゆる暗記が特に苦手な子供の場合、その覚えなくてはならない情報を子供が関心のあることに構成し直すのも良いでしょう。

疲労があらゆる機能に及ぼす悪影響

通常、疲労はA-T患者にとって深刻な問題であり、学習の妨げとなり、社会生活や家庭生活の営みを阻害します。疲労は子供の日常の行為すら辛いものとします。子供により疲れ具合は異なりますが、そこを見極めることが疲れに対処する場合重要です。子供ができることと援助の計画を立てる時には、エネルギーを節約し、極度の疲労から子供を守るための工夫が必要となります。エネルギーの消費を抑えることで、いわゆる生産的な活動にも、遊びなどの楽しい活動にも余裕が生じます。大切なことは子供の全てのエネルギーを学校で使いきらないことです。家族や友達との時間にも子供が楽しめる余力を残しておきましょう。また課外活動や社会活動への参加も大切であり、それにより子供は自信を持つことができ、また、精神的に余裕が生まれます。

学校内では子供が疲れないような対処が必要です。対処策のいくつかはすでに説明しましたが、特に個別アシスタントは子供の負担を減らし、勉強しやすい環境作りをサポートします。しかしそれ以上の支援もまた必要です。学内での学習や活動はなるべく減らした方がよいでしょう。子供の理解を深めるための繰り返しの補習は必要ですが、過度な課題や反復は避けましょう。また授業だけでも精一杯ですので、宿題にまで余力は残っていないと考えるべきかもしれません。授業にきちっと参加することは理想ですが、参加する授業数を減らし、家での補習に切り替え、また休息日を設けるなど、特別な対応が必要です。子供の疲労が目立つようならすぐに、独自の学習計画を作成しましょう。また子ども自身に体力の限界を認識してもらい、休みが必要であることを教えておけば、子供は自らの境遇を自分なりに乗り越えていきます。

疲労はあらゆる面に影響を及ぼします
疲労を引き起こすもの 座る/食事/書く/話す/見る/読む
疲労によって影響を受けること 登校/授業への参加/課外活動への参加/友達との交流/
家庭内での生活/健康/問題への対処能力/情緒面の健康一般

高校卒業後

子供の学習能力を認識し、大学の授業内容や受け入れ態勢を事前に調べておくことは高校を卒業する患者の将来を決めるうえで、大切なことです。成人したA-T患者にパートタイムあるいはフルタイムの就職を人生の目標として目指してもらうことも重要です。授業や課題を軽減したプログラムを大学に組んでもらい、十分なサポートを受けることにより、大学を卒業した A-T患者もいます。就職に成功した患者もいます。さらにサポート体制を整え、一人暮らしを楽しむ人もいます。

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