ご家族の方へ

家族のためのハンドブック

よくある病気

ジョンズ・ホプキンス病院 小児アレルギーおよび免疫部門
小児科・内科・病理学分野教授 ハワード M. レダーマン 医師・医学博士(2000年)

Howard M. Lederman, M.D., Ph.D., Professor of Pediatrics, Medicine and Pathology
Division of Pediatric Allergy and Immunology, Johns Hopkins Hospital

結膜炎(はやり目)

毛細血管拡張症であるために、A-T患者の目はしばしば充血しています。これは血管の異常な拡張によるものです。毛細血管拡張症は感染によるものでなく、他人へ感染することはありません。眼球の毛細血管拡張があるからといって、A-Tの子供を学校から帰らせる必要はありません。一方、結膜炎 (はやり目) はまぶた内層、そして眼球外層 (眼球結膜) を覆う膜の炎症です。結膜炎は細菌、ウイルス、または煙や石鹸のような化学性刺激物が引き起こします。結膜炎単独の場合もあり、他の病気 (普通の風邪など) により症状が出る場合もあります。

眼球の毛細血管拡張症と異なり、結膜炎は急激にまぶたが膨張し眼やにがでて、さらに白目が充血します。これらの症状は通常、痒みと患部の熱を伴います。朝には子供の目は目やにでくっつき、開かないことがあります。暖かい湿ったタオルを両目にあてると、目やには柔らかくなります。2、3分後に、目の内側部分から目尻まで優しく拭いてあげてください。感染症の拡散を予防するために、目やにを拭くときにはよく手を洗いましょう。結膜炎はよくある子供の病気であり、A-Tの子供だからといって普通より頻繁にまた重篤に罹患することはありません。しかしお子さんが結膜炎になった場合、病院で原因の検査と必要な治療をうけましょう。

中耳炎(耳感染)

中耳炎は細菌やウイルスなどによる中耳の感染症です。耳管と呼ばれる小さな管が鼻の内側から中耳へ繋がっています。乳幼児や小さな子供の耳管は大人に比べて短くてまっすぐです。このため細菌やウイルスが中耳まで容易に侵入できます。感染やアレルギーによっては、耳管が腫れて閉じてしまい中耳から膿が流れ排出されていかなくなります。

中耳炎の特徴的症状は、耳が炎症を起こして神経の末端が刺激されるために起こる痛みです。あなたのお子さんがまだ小さければ泣いて頭を振り、また炎症を起こした耳を引っ張って、痛みを表現するでしょう。お子さんが大きければ、その痛みを鋭く刺すようだと表現するでしょう。情緒不安、いらいら、発熱、吐き気、嘔吐といった症状も現れます。夜中に何度も痛みを訴え起きたりるするのは、子供を寝かせた状態にすると、中耳にたまった水が鼓膜に圧力をかけるためです。さらに中耳に水がたまって鼓膜に圧がかかると、痛みはさらに激しくなり、鼓膜が破れることもあります。鼓膜が破れると膿や血が外耳道に流れ出てきますので、すぐに分かります。こうなると通常耳の痛みは引きますが、感染した状態は続いています。耳の感染が疑われる場合は、まず耳鼻科の医師の診察を受けてください。感染の悪化や聴力障害を防ぐために、抗生物質による治療が始められます。フォローアップ検査を10日以内に受け、感染が終息したこと、また鼓室(中耳)に膿が残っていないことの確認が必要です。

咽頭炎

咽頭炎は喉に炎症を起こす疾患です。細菌やウイルスの感染により起こります。喉の奥のヒリヒリ、あるいはくすぐったい感覚、そしてうまく物を飲み込めないといった症状があります。熱は平熱の場合もありますし、高くなる場合もあります。連鎖球菌による咽頭炎を放っておくと、リウマチ熱や腎炎などの深刻な合併症を引き起こす可能性があります。お子さんが喉の痛みを訴えたら、熱がなくても医師に相談してください。

普通の風邪

普通の風邪は気道上部 (鼻、喉、鼻咽頭など) の急性炎症です。初期の症状は喉が渇いてくすぐったい感じがし、次第にくしゃみや咳、鼻水を伴うようになります。疲れ、悪寒、発熱、体の痛みを訴える場合もあります。風邪はウイルスによるもので、抗生物質は効きません。

副鼻腔炎

副鼻腔炎は副鼻腔の一部、あるいは複数に炎症を起こす疾患です。副鼻腔とは小さな空洞で、内部が粘膜になっており、鼻を囲む顔の骨の中に位置しています。副鼻腔炎は副鼻腔から出る廃液 (鼻水) が正常な経路を遮断されることにより、感染が鼻腔から広がって起こきます。風邪、鼻アレルギーが原因で、鼻粘膜が腫れて、粘液が鼻水をブロックして副鼻腔炎になるケースもあります。バクテリアが副鼻腔に閉じ込められることにより、副鼻腔炎になるのです。

普通の風邪と副鼻腔炎の違いは重要です。風邪はウイルスによって引き起こされ、抗生物質は効きません。一方、副鼻腔炎は細菌によるものが多く、抗生物質が効果を示します。ただし副鼻腔炎の診断は簡単ではありません。風邪 (特に鼻水、日中の咳) が7日から10日もの間、快方に向かわないような場合は、副鼻腔炎を疑ってください。口臭がしたり、寝起きに目の周りが腫れるような場合もまた、副鼻腔炎の疑いがあります。稀にですが、副鼻腔炎が風邪の合併症ではなく、単独に起こることがあります。この場合の症状は、かなりの高熱、緑や黄色の鼻水、青い顔色で、頭痛を伴うことがあります。

インフルエンザ(流感)

インフルエンザは伝染力の強い呼吸器感染で、3つの近種ウイルスにより引き起こされます。インフルエンザは散発的に終わることも、一斉に流行することもあります。通常、流行は2年から4年ごとに起こり、潜伏期間が短いため急速に広まります。潜伏期間とは患者が感染原に触れてから症状が現れるまでの期間のことです。症状には突然の発熱、悪寒、頭痛、倦怠感、疲労感、鼻水、筋肉の痛みなどがあります。インフルエンザになると肺の気道が損傷し、二次細菌感染を招く危険性が高まります。A-T患者がインフルエンザになった場合、咳により分泌物をうまく排出できないため回復に時間がかかります。インフルエンザを効果的に予防する安全性の高いワクチンが開発されています。ガンマ・グロブリン治療をしている人を除き、A-T患者は毎年秋に予防注射を受けてください。ご家族の方も、A-T患者がウイルスに触れる機会を少しでも減らすために予防注射を受けるようにしてください。

急性気管支炎

急性気管支炎は気管支 (気管から枝分かれしている部位) に起こる炎症です。急性気管支炎は一般的な風邪のような上気道感染症から引き起こされることも、また反対に上気道感染症を引き起こすこともあります。症状は熱と咳などです。かかり始めは乾いた咳が出ますが、次第に痰を伴う湿った咳になります。A-T患者はこの場合も、咳により分泌物をうまく排出できないために、治るのに時間がかかります。

気管支拡張症

気管支拡張症は肺の中 (気管、気管支) の空気の通り道である気道が拡張する病気です。正常なら分泌物は構造的に肺から自然に排出されますが、気道が拡張しているために気道に集中的に留まり、感染が引き起こされます。頻繁に起こる肺感染あるいは、粘液、膿、異物による気管支閉塞などが気管支拡張症の要因です。主な症状は頻繁で激しい咳です。咳をするとねばねばして臭う痰が出てきます。痰に血が混ざっていることもあります。

肺炎

肺炎は肺に発生する急性の感染症で、細菌やウイルス、カビなどが原因となります。症状は悪寒、高熱、咳、呼吸や咳をするときの胸部の痛みなどです。吐き気や嘔吐、下痢を引き起こすこともあります。A-T患者はワクチン (肺炎球菌多糖体、肺炎球菌タンパク質/多糖抱合体) を接種することにより、感染のリスクを軽減することが可能です。

胃腸炎(下痢/嘔吐)

胃腸炎の特徴は便が頻繁で柔らかく又は水っぽくなること、あるいは嘔吐です。胃腸炎は細菌やウイルスによる感染症であるか、食物アレルギー、食物不耐性が原因でも発症します。食物の汚染や薬物、精神的な理由で下痢を引き起こすこともあります。

胃腸炎は軽度のものもありますが、深刻なケースもあります。それが軽いか重篤かはトイレへ行く回数や、便の量、便の柔らかさ、嘔吐の回数。熱がのあるなし、またどのくらい口から水分が取れるかによっています。

胃腸炎は体内の水分が不足するほど深刻になり、それによる脱水症状が現れます。乳幼児や子供は大人に比べて体内の水分比率が高く、体内で蓄積できる栄養量は少ないため、脱水症状は非常に危険です。脱水症状になると、以下の症状が現れます。

(1)肌のはりがなくなる (弾力性がなくなる)。
(2)唇、口、舌が乾き、乾燥する。
(3)喉が渇く。
(4)尿の量が減る。
(5)乳幼児では大泉門 (頭蓋骨の一部柔らかい場所) が落ち込む。
(6)眼球が落ち込む。
(7)活動力が落ち、衰弱する。

お子さんの下痢、および嘔吐がまる一日経っても回復しない場合は、医師に相談してください。

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