機能分子研究部門 | 第3回 より強く、より安全に 進化を続ける金属材料第1回

金属材料でまず思い浮かべるのが歯医者さんで虫歯を削った後にかぶせる金属。でも、最近ではセラミックのような新しい素材が出てきて、「金属は古い材料」なんて思っている人も意外と多いのではないでしょうか。ところが、金属材料は生体に欠かせないものとして、今も着々と進化を続けているのです。


塙 隆夫 教授
お話をしてくれた先生 金属材料分野 塙 隆夫 教授
北海道大学工学部金属工学科卒業。歯学博士・工学博士。
徳島大学歯学部助教授、物質・材料研究機構生体材料研究センター副センター長を経て、2004年から現職。

少し前、歯医者さんで金属を詰めてもらったばかりなのですが、やはり先生のご専門である「金属材料」は歯科の研究がメインになるのでしょうか?
もちろん歯科もありますが、それ以外にも骨や関節、それから血管に入れて動脈硬化などで詰まったところを押し広げるステントなど、金属材料は非常に幅広く使われているのです。
セラミックなどの新しい材料は非常に質がよくなってきて、かなり使われるようになりましたが、それでもまだ生体材料全体の70%が金属製なのです。
私が生きている間に、これら70%の金属材料を他の素材で代替するのは無理だと言われているのです。
それはなぜですか?
何といっても金属材料が耐久性や強度に優れているからです。体の中に入れるものだからこそ、すぐに弱くなったり、ちょっとした衝撃で壊れてしまっては困りますから
確かにそうですね。しかし、金属を体内に入れることを考えると、どうしても抵抗があるように思えるのですが。
なんとなく、有害な気がして…金属アレルギーの方もいらっしゃいますよね。その場合はどうされているのでしょうか。
金属が体内に入る、もしくは金属と肌が触れるだけでは何の毒もないのです。
毒になるのは金属が腐食、もしくは摩耗したときだけです。
肌から分泌される汗などで金属が腐食します。それにより金属イオンが発生し、それが体の中の細胞と反応を起こしているのです。
夏の方がアレルギーはひどいので汗がポイントだったのですね。
汗が出ても金属イオンが出ないようにしてあげればどうでしょう?
そうです。金属イオンが出ないようにすればアレルギーを抑えられるわけです。 実際のところ、肌と金属というのは私たちの研究とは少し違うんですが、考え方としては同じで、腐食せず、摩耗に強い新しい合金を開発し、より安全な金属部材を作ろうとしているのです。
具体的に新たに開発された合金にはどんなものがあるのですか?
ステント用の金属として金とパラジウムの合金などがあります。
なぜ金なのでしょう?
ご存じの通り、金は耐食性に優れています。加えて重い金属なので、X線に映りやすいのです。
体の中での状態を確認しやすい、ということですか。
それもありますが、ステントなどはX線を見ながら患部に入れていきますから、よく見えないと困るわけです。
他にもチタンの表面に骨形成しづらい処理をしたものなどがあります。
骨折などで骨を固定するとき、骨髄内に一時的に金属を入れることがあります。それには耐久性などでチタンが最適だということが分かっていますが、チタンは骨形成しやすい、つまり骨と一体化しやすい金属なのです。後から抜きとるものが骨形成しやすいとどうなるか、抜けづらくなって困りますね。
だから、チタンの優位性を認めながら、わざわざ別の金属を使う医師もいるのです。
そこで、チタンの表面に骨形成しづらい処理をすれば、チタンのよさはそのままに、抜けづらいというデメリットも解消できるのです。
金を使ったステント
いいところを合わせた複合化材料の開発例
多くの人が誤解しているかもしれませんが、金属の毒性だけで亡くなる人はまずいません。金属イオンの影響はずっと長期にわたって同じ状態が続いて初めて出るものなのです。
生体に近くて安全と言われている素材は、何かのきっかけで分解してしまった場合、構造が生体に近い分、重篤な問題を起こす場合もあるのです。ですから、これからも金属とそれ以外の材料のいいところをとりあって、より金属の生体適合性を高めていきたいと思っています。
これからは金属材料の安全性を説明していきたいと思います。ありがとうございました。

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