機能分子研究部門 | 第1回 超高圧で早く安全に!生体を利用した再生医療最前線

私たちの身体は意外ともろくもあり、また一方で驚くべき力も持っています。壊れたところにまた同じものを作ろうとする自己組織化を手助けするのが再生医療。現場のニーズに素早く応えることが求められる再生医療研究の最前線とは?


岸田晶夫教授
お話をしてくれた先生 分子制御分野 岸田晶夫 教授
京都大学大学院博士後期課程を修了。工学博士。
国立循環器病センタ-研究所生体工学部部長を経て、2004年より現職。

昨年、ヒトに移植するための臓器をもったブタが遺伝子工学で開発されたという話を聞いて、すごく驚いたのですが、先生の再生医療のご研究でもブタの臓器を使われていますね。
私たちが使っているブタは医療用に管理されてはいますが、普通のブタです。それに移植といってもそのまま使うわけではなくて、自分の組織を再生させるための「土台」として使うのです。
ある臓器の機能が鈍ってきたとしますね。例えば、血流を調節している心臓弁がうまく働かなくなったとしましょう。その時、似たような形状の土台、これをスキャフォールド(Scaffold)といいますが、これを移植してやるとそこから自己組織が再生するのです。
なるほど。何もないところから作るより「型」をおいてあげると、ちゃんと元通りになりそうな気がします。でも、埋め込んだ土台は体内に残ってどうなるのですか?
残ったままだとやっぱり困りますね。だから、これまでは体内で分解する素材を利用していました。代表的なものが手術用縫合糸の素材なんですが、ところがこれは硬くて特定の形状にすることがそう簡単ではないのです。そこで使われるようになったのが生体から摘出した土台、バイオスキャフォールドです。
その代表的なものがブタ、なのですね・・・?
ブタというとあまりいい気がしませんか?でも力学的な構造や柔らかさなどを考えると、素材としてはとてもいいのです。もうすでにブタの組織は医療用に用いられているのですが、よりいい素材として加工するための新しい方法も確立されてきました。
それはこれまでの方法とどう違うのですか?
簡単に言うと、これまでのものは化学薬品で“なめして”使っていました。新しい方法は、ブタの組織からブタの細胞を洗い流すのです。そこに患者さんの細胞を組み込んでから移植することで、免疫拒絶反応も抑えることができます。
薬品の力を借りずに本当にお肉の部分だけ借りて、後は自分仕様にアレンジしてから移植するということですね。そう言われると急に抵抗感がなくなりますね!
組織再生
ただ、細胞を完全に除去できているかどうかは難しくて、どうしても感染の心配があるんですね。
感染ということはウィルスなどが残ってしまうということでしょうか?
なぜ圧力なのですか?
食品を殺菌するのに熱ではなく圧力を使う例があったので、圧力を使って、普通の殺菌によって構造が壊れてしまうことを克服し、より完全な殺菌処理ができないかと考えたのです。
例えばこんな話があります。ジャムは普通煮て、つまり温度を上げることで作ります。
しかし、圧力を加えてもジャムを作ることができるのです。すると、熱を加えていないので生のイチゴの味がするジャムになるのです。
それは一度食べてみたいですね!ただ、圧力を上げると温度も上がりそうな気がしますが?
もちろん、体積・温度・圧力は密接に関わっていますから、温度が上昇することはあります。でも温度を上げないようにコントロールしながら圧力を加えていくことができるのです。
では、バイオスキャフォールドに圧力をかけるとどうなるのですか?
細胞は通常1000気圧以上、細菌は6000気圧以上の圧力をかけられるとほとんどが死滅してしまいます。
ということはバイオスキャフォールドに圧力をかけると、悪いバイキンもみんな死んでしまうので、感染のリスクもなくなるというわけですか?!
完全にリスクがないかどうかはまだ研究段階ですが、今のところほぼ完全に死滅しているという結果が出ていますね。
しかし、そんな高圧をかけたら、スキャフォールドの形状も変わってしまうのではないでしょうか?
今はいい機械があって、あらゆる方向から均等に圧力を加えることができます。この方法だと、形状や柔らかさはそのままです。それからもう一つ、従来の方法よりも処理が早いという利点もあります。
ブタの臓器というより、優秀な素材だと思えてきました。
組織再生
細胞に人工的な振動を与える研究もしているのですが、細胞に過度の振動を与えると、きっと細胞は死滅してしまうと思われたのですが、逆に元気になってしまうのです。
元気になるというと、たくさん増殖するのですか?
そうです。そして、振動の周波数の違いによって、細胞ごとに反応が異なるのです。この研究が進めば、振動の周波数をコントロールすることで自己組織の再生を早めることができるのではと期待しています。将来的には高齢化社会の中で、寝たきりの防止などにも役立つのではと思っています。
ピピッと悪いところに振動を与えてあげることで、細胞が元気になって、どんどん悪いところがよくなるワケですね。
病気の人もお年よりも、細胞元気でみんな元気!ということですね。そんな時代が早く来ることを願っています。

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