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[Oral Science]

OS-3

咀嚼や嚥下などの口腔機能低下は2018年の「口腔機能発達不全症」の保険収載にみられるように、社会から大きな関心を集めている。また、加齢や障害に伴う認知症などの脳機能低下は、少子高齢化社会の医療の大きな課題である。近年、歯の喪失、咀嚼能力の低下、歯周病といった口腔システムの不全が脳機能低下のリスクファクターであることが分かりつつある。これらのエビデンスは、口腔システム―脳連関の観点から脳疾患を捉えることで脳疾患の革新的な予防法・治療法の開発につながることを示唆している。OS−3では、口腔システムの健全な発達や維持の基盤となる神経メカニズムと疾患や加齢による口腔システム不全が脳に与える影響を明らかにし、すべての世代において食べる・飲み込むなどの口腔機能を向上・維持させ、食べる楽しさや生きる意欲を高め、脳機能を向上・維持させることで、健康長寿社会の推進に大きく貢献することを目指す。

RESEARCH MEMBERS

OS-3

上阪 直史

大学院医歯学総合研究科 認知神経生物学分野 教授

OS-3

小野 卓史

大学院医歯学総合研究科 咬合機能矯正学分野 教授

OS-3

山田 哲也

大学院医歯学総合研究科 分子内分泌代謝学分野 教授

OS-3

髙橋 英彦

大学院医歯学総合研究科 精神行動医科学分野 教授

PUBLICLY OFFERED RESEARCH PROJECTS

仮想的な口腔への介入による認知症予防効果の推定:高齢者30万人の疫学研究

松山 祐輔

大学院医歯学総合研究科 健康推進歯学分野 准教授

口腔疾患は世界で一番多くみられ社会への影響が大きい病気です。近年、良好な口腔状態を保つことが認知機能低下を防ぐ可能性が示されています。本研究は日本全国の高齢者を対象とした疫学ビッグデータを因果推論と機械学習をもちいて解析し、口腔状態を保つことによる認知症予防効果を推計します。さらに、どのような人が口腔疾患の影響を強く受けるか明らかにし、介入すべき集団の特性を分析します。これにより、口腔疾患を予防することの意義を実社会のデータから提示することを目指します。

アルツハイマー病を始めとした中枢神経疾患における口腔―脳機能連関の解明

西田 陽一郎

大学院医歯学総合研究科 脳神経病態学分野 准教授

アルツハイマー病(AD)を始めとした認知症疾患や、多発性硬化症/視神経脊髄炎スペクトラム障害(MS/NMOSD)を始めとした炎症性脱髄性神経疾患では、腸内細菌叢が変化していることがわかっています。腸内細菌叢の変化は口腔内細菌叢や食習慣の欧米化との関連が指摘されていますが、口腔環境と脳との機能連関は多くが未解明です。そこで、P. gingivalisを始めとした歯周病細菌が神経疾患に及ぼす影響やそのバイオマーカーをヒトの唾液・血液・髄液で同定し、口腔機能低下や口腔内細菌叢の変化、すなわち加齢や口腔疾患に伴う口腔内の変化と認知症や神経難病などの脳疾患との口腔―脳連関を明らかにして東京医科歯科大学ならではの医歯学連携研究を行います。

咀嚼により顎骨や咀嚼筋で生じる分子による脳機能制御機能の解明

小野 岳人

大学院医歯学総合研究科 分子情報伝達学分野 助教

咀嚼は、栄養摂取に必須であり、生命の維持に欠かすことのできない機能である。それだけでなく、咀嚼は脳機能にも重要であることが知られている。例えば、喪失歯の多い高齢者では認知機能が低下していることや、ガムなどを噛むことでリラックス効果が得られることが一般レベルで知られている。咀嚼による脳機能制御は神経を介して行われると信じられているが、実際にはメカニズムは不明である。本研究では、顎骨や咀嚼筋から咀嚼運動に伴い産生される分子が脳機能を制御するという仮説の証明に取り組む。

口腔内の刺激が快・不快情動を引き起こす神経メカニズムの解明

田中 大介

大学院医歯学総合研究科 認知神経生物学分野 講師

摂食に伴う快・不快情動の発現は、精神的満足感の維持・増進や、そのフィードバック作用により摂食行動そのものに大きく影響する口腔の重要な機能の一つである。本研究は、神経活動依存的組換えシステムや光遺伝学、化学遺伝学、カルシウムイメージング法を組み合わせて、口腔内感覚受容体(味覚と痛覚、水の検出)を介した刺激により駆動される快・不快情動の神経基盤を明らかにすることで、口腔システムと脳の感情発現システムとの関係解明に貢献することを目指す。本研究の成果は、快・不快情動の異常が知られているうつ病や統合失調症、強迫性障害など様々な精神疾患の理解にも貢献できる可能性がある。

口腔内細菌叢破綻から始まる行動異常~口腔-腸-脳連関の解明へ~

大杉 勇人

病院 歯周病科 助教

歯周病は生活習慣病の1つであり、これまで歯周病によって腸内細菌の変化とともに他臓器の機能低下が関連することが多数報告されています。また腸内細菌の変化と脳機能への影響についても近年明らかとなっています。しかしながら歯周病が脳機能へ与える影響についてはいまだ詳細に解明されておりません。本研究では歯周病モデルマウスを用いて、歯周病が脳機能に及ぼす影響を、分子・シナプス・細胞・神経回路・行動の多階層で解明していきます。