発⽣・再⽣・恒常性
ヒトの誕生から老後にいたるまで、ライフサイクルを通して健康な人生をサポートするための医療の開発のため、ヒトやモデル動物の発生・再生・恒常性を研究し、医療応用研究を行います。先天性疾患から加齢疾患にいたる全身の組織・臓器の健康と疾患を理解し、その破綻の要因となるがん、炎症、感染症などの治療法の開発を行うことで、健康社会の実現に貢献します。
指定研究者一覧
公募班
仮想ヒト肝臓デバイスを用いたマラリア原虫のin vitro肝臓感染再現系の開発
大学院医歯学総合研究科 寄生虫学・熱帯医学分野 助教
マラリアは年間約2億人の感染者と60万人の死者を出す世界三大感染症の一つである。マラリア原虫のヒトへの感染の最初のステップはスポロゾイトの肝臓感染である。その機構を明らかにすることは、寄生虫と宿主の感染をめぐる攻防の理解へと展開できるのみならず、予防法開発に向けた論拠を供するものになる。ヒト特異的に感染する致死性の高い熱帯熱マラリア原虫の感染機構の解析のために、肝類洞および肝実質細胞から構成される仮想ヒト肝臓デバイスを用いたin vitro肝臓感染再現系の構築を目的とする。本研究によって開発される実験系は、肝臓感染機構解明に貢献するだけでなく、ワクチン抗原や感染阻害効果を持つ低分子化合物のスクリーニングが可能なツールにもなり、新しいマラリア予防法開発につながる波及効果が期待される。
骨細胞由来オステオカインによる生体恒常性維持機構の解明
大学院医歯学総合研究科 分子情報伝達学分野 准教授
骨はこれまで、様々なホルモンやサイトカインなどにより制御される受動的な臓器であると考えられてきたが、最近、運動器の一部として働くだけにとどまらず、外界からの刺激を感受し”オステオカイン”とよばれる骨(とくに骨細胞)から産生され全身の臓器・細胞制御に関わる液性因子によって能動的に生体制御に関わることが明らかになってきた。本研究では、申請者らが新たに樹立した真に骨細胞特異的なCre発現マウスを用い、新たなオステオカインとして同定した分子Xの生体恒常性維持機能を解明することを目的とする。さらに細胞特異的in vivoラベリング法を駆使することで新たな骨細胞産生性オステオカインを網羅的に同定することを試みる。
アストロサイトDirect conversionを用いた新規神経変性疾患治療法の開発
難治疾患研究所 分子神経科学分野 助教
神経変性疾患を治療するためには、失われた神経細胞を補充するのみならず、補充された神経細胞が既存の神経回路と機能的な結合をする必要がある。本研究では最近報告されたアストロサイトから神経細胞へのdirect conversion現象に着目し、新たに作成した遺伝学的にアストロサイト特異的にPtbp1ノックダウンを誘導できるマウスおよびAAVベクターを用いたin vivo CRISPR KOシステムを用いて、より高効率にdirect conversionを誘導可能な組み合わせの探索、分化転換を阻害している因子を特定する。さらに分化転換能を増加させ得られた再生神経が小脳神経変性疾患を治療させうるかを、小脳プルキンエ細胞の脱落及び顕著な運動障害を示す疾患モデルマウスを用いて評価する。
ラット半月板自然修復過程において細胞老化が果たす役割の解明
統合研究機構 再生医療研究センター プロジェクト助教
半月板は大腿骨と脛骨の間にある線維軟骨組織です。怪我や加齢により半月板が損傷・断裂すると、関節軟骨への力学的負荷が増大し、高い確率で変形性膝関節症へと進行してしまいます。興味深いことに齧歯類ではヒトとは異なり、半月板を大きく切除しても自然修復が起こりますが、そのメカニズムには不明な点が多いです。私はラットの半月板自然修復過程において、老化細胞が多数集まって再生芽を誘導している可能性を見出しました。本研究では、これまで負の側面に焦点が当てられてきた細胞老化の正の側面に着目し、ラットにおける細胞老化を介した半月板再生メカニズムを明らかにしたいと考えています。