研究の紹介学部学生さんへ

2023年度プロジェクトセメスター

「組織工学を用いたiPS細胞由来複合型腸管組織シートの作成」

消化器病態学/腸管オルガノイド応用グループ

担当学生:坂本慶太さん(医学科4年)
指導者:水谷知裕、加藤周

最近になり、多能性幹細胞から段階的な分化誘導を行うことで腸オルガノイドの作成が報告され、腸管の三次元的構造および特異的機能を保持することから、疾患の病態解明やドナーの不足する移植医療のリソースとして期待されています。現行の腸オルガノイドは腸上皮への分化誘導が主体ですが、分化の過程で発生した中胚葉が、上皮との相互作用によって間葉系細胞へと発達し、上皮および間葉系細胞を有する腸組織の再現モデルとして期待されています。しかしながら、安定した分化細胞の誘導と管腔状の腸組織構築が課題となっていました。

そこで今回のプロジェクトセメスターでは、我々のグループが見出した内胚葉由来の後腸上皮細胞と中胚葉由来の間葉系細胞からなるiPS細胞由来腸組織シートを、より安定的かつ効率的に作成する方法の開発に取り組んでもらいました。坂本さんは、研究開始から積極的に実験に取り組むと同時に、自身のアイデアを臆することなく提案してくれました。特に、iPS細胞を直接生体吸収性補強材シートに播種し、シート上で間葉系細胞へと分化させるon-sheet法は、彼自身のアイデアからセメスター期間で確立させた手法です。既存の手法を改良し、凍結保存した後腸細胞から腸上皮細胞シートを構築する手法も検討・確立し、これらを組み合わせたiPS細胞由来二胚葉融合腸組織シートを構築することができました。

彼が見出した、iPS細胞由来二胚葉融合腸組織シート構築法の改良により、より安定した効率的な腸組織誘導が可能となりました。本手法は将来の再生医療において重要な基盤技術であり、今後の研究利用が期待されます。

感想

プロセメ期間は留学やインターンとも迷いながらも、「せっかく医科歯科にいるのであればホットな分野で基礎研究に携わりたい」と思い、消化器病態学分野での研究を選びました。特に腸管オルガノイド応用グループの研究は、私の中で基礎と臨床とのつながりが理解しやすく、自身が行なっている研究によって将来どのような人々を救えるのかが明確である点に魅力を感じました。研究室の先生方は、初めて基礎研究に携わる私に、研究の手技や研究分野に関連する知見などを丁寧に教えて下さったため、短い期間ながらも最先端の研究を学ぶことができました。研究に携われたことはもちろん、臨床と基礎研究とを両立して働く先生方を間近に見ることで将来のキャリアを改めて考える機会となった点が貴重な経験となりました。

「炎症性腸疾患の病態解析を目指したヒト腸上皮細胞の新規培養モデルの開発」

消化器病態学/ヒト腸上皮機能解析グループ

担当学生:松本諒真さん(医学科4年)
指導者:藤井悟

炎症性腸疾患は腸管に慢性炎症と難治性潰瘍を起こす難病の一つです。寛解と再燃を繰り返することが特徴で、その過程で腸管の最表面を覆う腸上皮細胞は「傷害→再生→治癒」過程を繰り返し、最終的にこの再生過程が破綻することで完全治癒に至らなくなると考えられます。しかしながら、ヒト腸上皮の構造や「傷害→再生→治癒」過程を試験管内(in vitro)で再現することは困難であり、研究を行う上で大きな課題となっています。そこで本プロジェクトでは、ヒト腸上皮の構造や「傷害→再生→治癒」過程を試験管内(in vitro)で再現することを目的とし、これまでにない全く新しい培養方法の構築を目指すための第一歩となる実験を行いました。

担当学生の松本さんには、全く新しいテーマに対し、積極的に取り組んでいただきました。その結果、非常に前向きな成果を得ることができました。半年間お疲れ様でした。

感想

今まで研究には全く触れる機会がありませんでした。そのため、半年間も研究を行なうことに不安な気持ちもありましたが、先生方のご指導のおかげで楽しく研究を進める事ができました。特に、私が所属したグループは今年誕生したこともあり、自分達で作り上げている感覚もありました。今回のプロジェクトセメスターを通して、実験の基本手技や科学論文の読み方などを学び、失敗を繰り返しながらも、一定の研究結果を得ることができました。” 世界で自分しか行っていない” 貴重な経験をさせていただきありがとうございました。