研究の紹介学部学生さんへ

2022年度プロジェクトセメスター

「炎症性腸疾患モデルマウスにおける疾患記憶T細胞動態の解析」

消化器病態学/腸管免疫イメージンググループ

担当学生:梅原 久未さん(医学科4年)
指導者:根本 泰宏

炎症性腸疾患は寛解と再燃を繰り返す難治性の疾患であり、未だ根治療法は存在しません。我々のこれまでの研究によって、本疾患難治性の要因は寛解時にもリザーバー臓器に半永久的に維持される疾患記憶T細胞であることが明らかになりました。しかし、本細胞の組織局所における動態は未だ不明です。2022年度の本研究室プロジェクトセメスターでは、炎症性腸疾患モデルマウスの⼤腸粘膜局所における疾患記憶 T 細胞の in vivo live imaging システムが樹⽴されました。そこで、今回はこのシステムをより安定化させ、T細胞の撮影のクオリティと動態解析の精度を上げることを目的としました。

手技のマニュアル化による安定した観察条件の獲得、血管・管腔染色による解剖学的位置関係の明瞭化が可能になり、昨年度の解析結果の再現性も得られました。これは世界初の生体マウスの大腸粘膜におけるin vivo live imaging技術であり、多くの可能性を秘めていると考えられ、今後の研究での利用が期待されます。

感想

臨床研究の場に身を置かせていただくのは初めてで、基礎的な手技もわからない状態でのスタートでしたが、先生方に丁寧にご指導いただき、科学の基本的な考え方から実験計画の立て方まで、多くのことを学ばせていただきました。実験の中で予測しない壁にぶつかることもありましたが、そのたび検討と改良を加えながら地道に試行錯誤を繰り返す過程を経験したことで、研究における着実な努力の必要性を肌で感じられたように思います。また、炎症性腸疾患の病態生理解明という臨床研究でホットな分野の一端に関わらせていただいたことは、非常に貴重な経験となりました。ありがとうございました。

「オルガノイドを用いた膵腫瘍の研究」

消化器病態学/マルチオルガン・ネットワークグループ

担当学生:栗林 良太さん(医学科4年)
指導者:伊藤 剛

膵悪性腫瘍は最も予後の悪い腫瘍の代表格であり、様々な研究がなされているが未だ不明な点が多く、新規治療法の開発が急務な悪性腫瘍です。今回我々は近年患者が増加し続けている膵神経内分泌腫瘍に着目しました。膵神経内分泌腫瘍は臨床的に「長期に渡り良性の経過を辿る低悪性度腫瘍」と「早期から転移し極めて予後不良な経過を辿る高悪性度腫瘍」に大別されることが知られていますが、その分子生物学的特性や悪性度・転移を規定する要因は明らかとなっていません。

そこで我々は当科が得意とするオルガノイド培養技術と、近年発展著しいハイスループット解析技術を用いて同機構の解明に挑戦することとしました。ハイスループット開発技術による解析は同技術を世界的にも得意とするドイツキール大学と国際共同研究を行うプロジェクトを組み、本研究はすでに開始されています。本プロジェクトセメスターでは栗林さんにその一端を担えるようになることを目的に、オルガノイド培養技術、ハイスループット解析技術の習得を目的としました。栗林さんは手術検体を用いて膵正常部位、膵神経内分泌腫瘍からオルガノイドに作成することに成功し、培養条件の最適化の検討も行いました。また手術検体、膵神経内分泌腫瘍から作成したオルガノイドを用いてRNA-seqを行い、一部そのデータ解析も自分の手で行なっています。栗林さんは国際共同研究先のドイツの学会参加のため現地に赴いて同成果を英語でポスタープレゼンテーションを行っただけでなく、現地サマースクールに参加しRNA-seqやsingle cell-seq解析技術の習得も行い国際的な経験も深めました。本研究は膵神経内分泌腫瘍の新規治療法の創出に役立つだけでなく、今回習得したオルガノイド培養技術、ハイスループット解析技術を用いて栗林さんが将来臨床研究医として活躍する礎になると考えています。

感想

私は2022年度プロジェクトセメスターにおいて消化器病態学で研究させて頂きました。膵内分泌腫瘍(p-NEN)のオルガノイドを用いた研究を行いました。内容としてはまず正常組織と腫瘍組織からオルガノイドを培養し、それをシークエンス解析にかけ、得られた結果を自らで解析することで両者の遺伝子発現に差がないか調べるというものです。正常組織と腫瘍組織、転移巣の組織では遺伝子発現に差が見られるという結果が得られました。個々の遺伝子の発現を調べるところまでは至らなかったため、具体的にどの遺伝子が腫瘍の形成や転移に重要なのかは分かりませんでした。今後解析を続けていきたいと思います。その他にも基本的な実験手技や実験器具の使い方を指導教官の伊藤先生を始め多くの先生方や技官の方に丁寧に教えて頂き、とても有意義な半年間だったと思います。研究室の雰囲気はとても親しみやすい雰囲気で、緊張しすぎることなく楽しく研究を進めることが出来ました。また海外留学を経験された先生もいて、興味深い話を聞くこともできました。研究室には週5回行っており、自由に実験することが出来ました。また8月末から9月中旬までの2週間、ドイツのキール大学の研究機関IKMBに留学することが出来ました。ドイツではRNA-Seq解析を勉強しただけでなく、現地の人々と交流し文化に触れた経験は自分にとって非常に貴重なものでした。今回のプロジェクトセメスターで勉強させて頂き、本当にありがとうございました。