研究の紹介学部学生さんへ

2021年度プロジェクトセメスター

「炎症性腸疾患における疾患記憶T細胞動態の可視化」

消化器病態学/腸管免疫イメージンググループ

担当学生:宮𡧃地 康正さん(医学科4年)
指導者:根本泰宏 森川 亮

炎症性腸疾患は寛解と再燃を繰り返す難治性の疾患であり、その患者数は年々増加しています。我々のグループはこれまでの研究により、本疾患の難治性の原因は寛解時においても半永久的に維持される疾患記憶T細胞であることが突き止めました。本細胞の完全な除去が可能であれば、それは"疾患の記憶をリセットする"炎症性腸疾患における究極の根治療法と言えます。一方で腸管局所およびリザーバー臓器における、本細胞の維持機構には未だ不明な点が多く残されています。

そこで宮𡧃地さんは今回のプロジェクトで、腸炎モデルマウスの大腸およびリザーバー臓器ニッチにおけるT細胞動態の可視化、すなわちin vivo live imaging技術の確立を試み、見事成功しました。これは世界初の生体マウスの大腸粘膜におけるin vivo live imaging技術であり、多くの可能性を秘めていると考えられ、今後の研究での利用が期待されます。

感想

学部の授業において研究結果に触れる機会は多くありますが、その過程がどのように進んでいくのかを深く知る機会はありません。私はこのプロジェクトセメスターの期間で、実際に研究の過程に関わり、様々なことを体験させて頂きました。実験の基本手技に始まり、科学論文の読み方、科学的なものの考え方なども学ぶことができ、非常に意義のある時間だったと考えています。環境にも恵まれ、優しい先生方のご指導の下で、このような研究結果を作り上げることができました。本当にありがとうございました。

「iPS細胞由来腸オルガノイドの新規培養法」

消化器病態学/腸管再生グループ

担当学生:里見 賢明さん(医学科4年)
指導者:水谷知裕 髙橋純一

腸オルガノイドは腸管の三次元的構造および特異的機能を保持し、疾患の病態解明やドナーの不足する移植医療のリソースとして期待されています。最近になり、多能性幹細胞から段階的な分化誘導を行うことで腸オルガノイドの作成が報告されました。腸上皮への分化誘導が主体ですが、分化の過程で発生した中胚葉が、上皮との相互作用によって間葉系細胞へと発達し、上皮および間葉系細胞を有する腸組織の再現モデルとして期待されています。しかしながら、間葉系細胞の量と質のコントロールが目下の課題でした。

そこで今回のプロジェクトセメスターで、里見さんは、今まで培養環境で偶発的に発生する中胚葉由来の細胞分画を制御し、適切なタイミングで分化する培養条件を見出すことに取り組みました。彼の見出した、内胚葉および中胚葉由来の細胞数のバランスに着目した適切な培地条件を用いることで、より安定した効率的な腸オルガノイドの誘導が可能であることが確認されました。本手法は将来の再生医療において重要な基盤技術であり、今後の研究利用が期待されます。

感想

研究は初めての体験ということもあり、研究室に所属するにあたって不安がありましたが、研究室の先生方が親身に指導してくださり、研究内容や技術的なことを始めとして様々なことを学ぶことができました。また、間葉系組織をコントロールした腸オルガノイドという最先端で、なおかつ臨床応用が期待され注目を浴びているテーマに関する研究ができたことは貴重な経験になったと思います。今回のプロジェクトセメスターで学んだことや経験を活かし、今後も学ぶ姿勢を持ち続けたいと思います。