ご家族の方へ

家族のためのハンドブック

日常生活での実践

ケネディー・クリーガー研究所
マリー・ラシュノ 公認作業療法士(2008年改定)

Mary Lashno, OTR/L - Kennedy Krieger Institute

日常生活をスムーズに進め、患者が自立できるようにするための補助具が開発されています。以下にその具体例や方法を示します。

食事について

柄の部分がつかみやすいフォークやスプーン

口に持っていったときに手首を返さなくても食べられる柄がまがったスプーン

カップやお皿が滑らないように下に敷くマット

動きにくいよう吸盤の付いた食器

安定性を増すため握りの部分を大きくしたスプーン

手を安定させるために肘をテーブルに固定する器具 (A-Tの子供はこの姿勢で食事をとることが多いのです)

手と口の距離を短くして、こぼすのを防ぐための台 (15cmと30cm)

ひとりで食べやすいマッシュドポテトや手でつかめる食べ物

お風呂とトイレについて

お風呂やトイレの手すり。安定性が増し、ひとりで行えるようになります。

お風呂用の椅子。疲れを防止し、安定性を増し、自立性を高めます。

座ったままシャワーを浴びられる位置にシャワーを設置

子供が小さいときは簡単にお風呂に入れることができます。しかし週に1,2回はシャワーだけにして、小さいときからシャワーに慣れさせておいたほうが良いでしょう。大きくなってから急にシャワーに変えると嫌がりますし、かといって大きくなった子供をお風呂に入れることは家族にとって負担となります。

お風呂用の椅子を購入する前に、プラスチック製のガーデンチェアを試してみてください。

手袋のように手にはめるタイプのタオルと液体石鹸、あるいは紐がついた石鹸は自分で体を洗う楽しみもあり、湯船にタオルと石鹸を落とす心配がありません。

壁に取り付け式で、押すと液体石鹸がでる器具を取り付けると便利です。

取りやすい位置に吸盤で止めるタイプの棚やフックを使いお風呂の道具をしまっておけば、手を伸ばしたり、道具を手で支える手間が省けます。

トイレまで連れて行くのが大変な子供でしたら、用心のために簡易便器をお風呂に置いておくのもよいでしょう。またズボンのジッパーはマジックテープ式に変えておくとよいでしょう。

使い捨てのウエットティッシュは衛生的です。

洗面について

腕を自分で支えることができるようでしたら、電動歯ブラシの方がきれいに歯をみがけます。

椅子を高くして鏡を低くすれば自分の姿が確認でき、ひとりで洗面が行えます。

服を着ることについて

簡単に着られ、脱げ、トイレも自分でできるように服を改良することもできます。

服を着るときに、体を安定させ腕を自由に動かせる練習をしておきましょう。座ったまま、壁に寄りかかって、あるいはベッドで寝たまま着替えをしてみましょう。

服の着脱に時間がかかりすぎるようでしたら、お子さんが集中できる場所と時間を決めてみてください。

服や靴を選ぶときは、想像力を働かせましょう。お店で、あるいはカタログで商品をじっくり吟味してください。靴紐やファスナーがあるものは避けましょう。

学校生活について

つかむ部分が太いタイプの鉛筆があります。これを利用すると鉛筆が握りやすく指への圧力を軽減できます。このタイプではつかむ部分がゴムあるいは柔らかい素材でできているので、振るえを抑えたい、動きを安定させたいと思い、鉛筆を強く握る傾向のある A-Tの子供の負担を軽減します。

“ドクター・グリップ”のような握り部分がクッションで太くなっている特殊なペンや鉛筆も発売されています。ペンや鉛筆の取り付けるグリッパーと呼ばれる器具もありますが、子供によってはその上や下を握ってしまい、うまく使いこなせない場合もあります。

手の動きを安定させるために腕を安定して支持するタイプの机があります。肘と前腕を支え、手の安定性を増し、手首をまっすぐに伸ばします。

紙が動かないように止めるタイプのボードがあります。手首と前腕が安定するように斜度は45度に設定されています。これを使うと鉛筆がつかみやすく、字を書くときに手のコントロールがしやすくなります。また教科書を乗せて読むと、読みやすいという子供もいます。

ご家族の方や学校ではお子さんに自分の名前を書けるようになって欲しいと思いますが、ハンコで代用することもあります。

コンピューターはA-Tの子供にとって非常に役立つツールです。字が書けたとしても、他人に読みやすい字を書くことは大きな負担で、それが学習の障害になることがあります。振るえと運動失調があるため、字を分かりやすくそして早く書くことはA-Tの子供にとっては大変に困難な仕事なのです。ゆっくりとしかし何とかコンピューターを使えれば、A-Tの子供たちも相手が読める文章を書くことができますし、インターネットを通じて情報を得、コミュニケーションの機会を広げることができます。障害者用の使いやすい特殊なキーボードやマウスがあり、A-Tの子供はそれを使うことで操作が楽になります。こうした支援器具を使うと、子供の技術は進歩し、その結果勉強も楽しくなります。

学校でも個人介護のサービスを受けることができます。 教室の移動の支援、トイレや着替え、食事の介助をしてもらえます。このサービスは学校での生活面の介助だけでなく、代筆やノートを取ること、何か書かなくてはならないときなどに手伝ってくれます。

作業療法としてのサービスは、学校で毎日行う必要はありません。しかし細かい作業や友達との交流がうまくできない場合、その対処を定期的に検討することは作業療法として価値のある任務です。

療法士に対して

リハビリの際、ウエートを使って余計な動きを防ぐ方法が奨励されることがありますが、A-Tの子供たちへの使用は控えてください。ウエートを使ったりすればA-Tの子供たちは疲労してしまい、何度も同じ動作を繰り返すうちに却って運動失調の症状が悪化してしまいます。経験的に最良の方法は子供の疲労をよく観察し、関節部分をサポートしながらのリハビリです。

ボールに座って体幹を鍛える方法がありますが、A-Tの子供には効果がありませんので使わないでください。却って筋肉が疲れてしまい、姿勢の維持が困難になります。

“苦労しなくては何も得られない”という理論がありますが、A-Tの子供には該当しません。A-Tの子供が疲れたときは、回復するまで待ってあげてください。

体力や身体機能は強化ではなく維持を心がけるようにしてください。

ビデオゲームやビーズ遊び、お絵かきなど、多くのA-Tの子供も手先を使う遊びが大好きです。どうぞ興味のある遊びをさせてあげてください。ただし疲れすぎないように注意を払い、できるだけ興味のある対象に専念させてあげましょう。

運動失調や震えが始まったら、しばらく休憩を与え、筋肉の疲れを取るようにしてください。

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