ご家族の方へ

家族のためのハンドブック

目と視力

ザンビル・クリーガー・チルドレンズ・アイ・センター
アルマン K. ファー
ジョンズ・ホプキンス メディカルセンター(2007年改定)
マイケル X. レプカ

Arman K. Farr, The Zanvyl Krieger Children's Eye Center
Michael X. Repka, Johns Hopkins Medical Institute

毛細血管拡張性小脳失調症(A-T)の患者さんには、いろいろな目および眼球運動の障害が見られます。認められる障害とは

(1) 結膜の毛細血管拡張症
(2) 眼位の異常(斜視)
(3) 異常眼球運動
(4) 視力調節(遠くから近くに焦点を変えること)の障害
(5) 輻輳(近くの物を見るために両眼を寄せること)の障害
などです。

もっとも頻繁に見られ特徴的な目の症状は、白目部分の毛細血管がめだつことです。この症状のことを結膜毛細血管拡張症と呼びますが、これ自体は害のあるものではありません。A-Tの 患者さんでなぜ目の血管が異常に拡張するのかは分かっていません。この症状は生まれた時にはなく、4〜8歳でめだってきます。10%位の患者さんにはこの症状がなく、そのためA-Tの診断がむずかしくなります。毛細血管拡張症は視力には影響を与えません。

A-T患者さんの眼球には、毛細血管拡張症以外は異常がありません。A-Tの子供の遠くを見る視力と色覚は他の子供達と変わりなく、眼鏡を使用しなくてはならない割合も同程度です。ところが近くを見る時には、視力調節がうまくいきません。視力調節とは、遠くから近くを見るときに焦点を動かす能力です。A-T患者さんでは視力調節が遅れたり、できないことが多いのです。この症状は読書用眼鏡で矯正できます。

A-Tの患者さんでは眼位異常 (斜視)を認めることが多いです。ほとんどの場合、目は内側に寄ります (内斜視) が、時には外側に寄る (外斜視) こともあります。どちらの場合でも、両目は協調して動かず、脳はそれぞれの目の捉えた二つの像のうちのひとつだけを認識します。輻輳にも障害のある場合が多く、本のような近くの物を見る時にうまく視点を定めることができません。斜視は特に治療の必要ない軽症の場合もありますし、視力に深刻な影響を及ぼす重症の場合もあります。

斜視には眼鏡が有効なことがあります。眼科医による目の筋肉の手術が必要なこともありますが、その場合も大抵は日帰り手術で済みます。手術すればほとんどの場合斜視は良くなります。

ほとんどのA-T患者さんに眼球運動の異常が見られます (「神経障害」の章を参照してください)。なぜこの障害が起こるのかは明らかではありませんが、おそらく小脳と脳幹の進行性の異常によると考えられています。

多くのA-T患者さんは読むことが難しいと訴えます。これはおそらく、眼球運動の適正な調整ができていないためです。ある文字から次の文字へ、あるいはある行から次の行へ、目を動かすことが難しいのです。近くの物に両目を合わせる“輻輳”がうまくいかないことも読むことを難しくします。これらの症状の治療はまだありませんが、読む能力を改善させる手段は数多く開発されています(「補助的な技術」の章を参照してください)。さらに読むものに焦点を合わせやすくする読書用眼鏡により、視力調節の障害はかなり改善します。

全体的に見て、A-T患者さんの視機能はうまくいっています。最大の問題は眼球運動の異常のために読みにくいことです。輻輳がうまくできないことがこの原因のひとつです。もう一つの問題は眼位の異常で、手術の必要なことがあります。眼球自体は、目の表面の血管拡張 (結膜の毛細血管拡張症) を別にすれば正常で、ほとんどの患者さんが良好な視力を維持できます。

目についてのまとめ
・ ほとんどの患者さんの白目の部分(結膜)に毛細血管拡張症が認められます(目立ちますが害はありません)。
・ 視力 (対象物に焦点を合わせて見る能力) は正常です。
・ 眼位異常 (斜視) は多いですが、治療が可能です。
・ 近くの物に視点を合わせるため両眼を寄せること(輻輳)が難しいです。
・ 読むことが最大の問題となります。眼の動きがスムースでなく、眼と頭の動きの調節にも問題があるためです。
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