ご家族の方へ

家族のためのハンドブック

リハビリテーションの一般的な指針

ケネディー・クリーガー研究所小児リハビリテーション部長
ジェームス R. クリステンセン 医師(2008年改定)

James R. Christensen, M.D. Director of Pediatric Rehabilitation, KennedyKrieger Institute

A-Tとリハビリテーション

A-Tの患者さんおよび家族にとって、リハビリテーションを行うことは非常に意味のあることです。しかし、リハビリという手段を賢明にそして効率的に利用するためには、リハビリテーションの最終的な目標と基本方針、そして、リハビリテーションによってできること、できないことを理解しておくことが重要です。リハビリテーションの最大の目的は機能強化です。機能強化とは、現在存在する、または今後発生する障害を乗り越え、できるだけ負担のかからない方法 (なるべく楽しく、経費と時間がかからず、難しくない方法) で、患者さんの機能と能力を最大にすることです。

A-Tのリハビリテーションの内容

1.

A-T患者さんの直面している問題に対して、リハビリテーションの専門家がチームを組んで支援します。お住まいの地域には A-Tの専門家はいないかもしれませんが、リハビリテーションの専門家がいるはずです。専門家には、患者さんの状態を把握する技術がありますし、適切で効果的なアドバイスや訓練を行う知識もあります。チームは、リハビリ専門医、臨床心理士、言語療法士、補助器具の専門家、作業療法士、理学療法士により構成されます。

2.

患者さんの二次的な機能障害を防がなければなりません。A-Tの症状である協調運動障害、失調、不随意運動は治療では解消できないとしても、そのために二次的に生じる筋力低下、持久力低下、足の変形などは、リハビリにより最小限にしたり予防することができます。

3.

症状の影響を最小限にするために必要な代償的手段を教えます。例えば、細かい運動をするときに、体や腕をどこに置けば、震えや失調の影響を小さくできるのかを学んでもらいます。また、患者さんが話すことに疲れてきて、そのため相手に理解してもらえない時に、文章の中で特に重要な単語だけを繰り返して相手に伝える方法を指導します。

4.

整形外科的な装具や車椅子、特別なソフトを装備した患者さんに合うパソコン・キーボードなど、患者さんに有用な装置を提供します。どんな種類の装置を使うべきか、いつ使うべきかを決める場合、以下のような原則を参考にしてください。(a)患者さんの年齢にふさわしい自立や機能保持に有用であること (b)安全性を高めること (c)労力を節約できること。また、装置は特殊な状況下、特別な理由で使うのだということを覚えていてください。装置なしでも安全に行える行為をやめる必要はありません。例えば、長い距離の移動には車椅子を使用するにしても、短い距離は歩いてよいのです。

5.

生活環境の調整をします。風呂場につかまり棒や浴槽用のいすをつけたり、家の前の屋外燈をつけたり、公共の交通機関の利用方法を教えたりします。

数か月または1年毎に定期的な経過観察を行い、患者さんの能力の変化によって生じてくるいろいろな問題に対する指導や助言を与えることは、リハビリテーション・チームの重要な役割です。患者さんに個別的なプログラムを提供することもあります。A-T患者さんには楽しみながらできる運動プログラムが必須ですが、全員が常に訓練を続けなければならないわけではありません。運動プログラムは楽しく、年齢にふさわしく、患者さん一人ひとりの能力と好みに合ったものでなければなりません。リハビリテーション・チームは、運動プログラムを作り、患者さんに合わせてこれを調整するお手伝いをしますが、日々の実践はA-T患者さんとご家族が独自に行うものです。このプログラムの目標は、患者さんの健康、体力、筋力、柔軟性を維持することです。 これらの目標が達成できているかどうかを確認するために、時々リハビリテーション・チームによる訓練を受ける必要があります。

A-T患者さんにとって、“疲れやすさ”は大きな問題です。疲れるまで運動してもかまいませんが、疲れすぎては意味がありません。何かを習うときには最良の方法で習うべきだということを覚えていてください。「勤勉は美徳なり」ということわざがありますが、これは必ずしも正しくはありません。「程よい勤勉は美徳」です。疲れたら休みましょう。回復するまで十分休憩して、それからまた始めてください。

A-T患者さんのニーズ、能力、障害には人による違いがあります。ですから、リハビリテーションプログラムは個別的でなければなりません。しかしA-T患者さん全体に共通する問題もあります。次の章では、これらの問題、これに対するリハビリ士の役割、そして、A-T患者さん全体にお勧めできる方法について述べていきます。

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