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家族のためのハンドブック

ガンマグロブリン療法

ジョンズ・ホプキンス病院 小児アレルギーおよび免疫部門
小児科・内科・病理学分野教授 ハワード M. レダーマン 医師・医学博士(2000年)

Howard M. Lederman, M.D., Ph.D., Professor of Pediatrics, Medicine and Pathology
Division of Pediatric Allergy and Immunology, Johns Hopkins Hospital

十分な量の免疫グロブリンあるいは抗体を体内で作ることのできない患者には、ガンマグロブリンによる補充治療を行うことができます。ガンマグロブリンという用語は免疫グロブリンあるいは抗体を含む血液の化学的分画を意味します。ガンマグロブリン療法はIgAだけが欠損している場合には行われません。

成熟した B-リンパ球 (プラズマ細胞) は、抗原を攻撃すると抗体を生成し、血流にその抗体を放出します。患者に投与できるよう抗体を製品として準備するためには、抗体をまず健康な人の血液から純化 (抽出) する必要があります。ドナーから採取した血液はAIDSや肝炎など伝染病検査を慎重に行い、感染の疑いのある血液は廃棄されます。血液はおよそ1万人から集められ、混合(プール)して保管します。ドナーはそれぞれ異なる細菌に接触していると考えられますので、多くのドナーから血液を集めることにより、様々な病原体に対する抗体を含むガンマグロブリン製剤を確保できます。

ガンマグロブリン製剤を製造するためには、すべての赤血球と白血球を血液から取り除きます。それから、アルコールによる処理を含むいくつかの工程を経て、免疫グロブリンを化学的に純化します。この工程で免疫グロブリンG(IgG)クラスの抗体が純化できますが、IgAとIgMもごく少量含まれています。

純化の工程では他の血中タンパク質を取り除き、また血中にいるウイルスや他の細菌を効率よく殺傷します。ガンマグロブリンの純化は約40年の歴史があり、非常に安心できる技術です。米国で精製されたガンマグロブリン製剤により伝染病が感染したことはかつて一度しかありません。その一度はガンマグロブリンに C 型肝炎ウイルスが含まれていた事例で、1990年代の中頃にある製薬会社が製造工程を変更したために起きました。C型肝炎が流行したため、すべての米国内の製薬会社はアルコール純化工程で生き残ったウイルスを不活性化する工程をひとつ以上追加することが義務化されました。 AIDSについては、米国食品医薬局で製造工程を検査し、ウイルスが完全に殺滅されていることを確認しています。C型肝炎の事故以来、一件もその後の感染事例は出ていません。

ガンマグロブリンの投与方法はふたつあります。ひとつは筋肉注射 (intramuscularの略でIMと表示することもあります)で、もうひとつは血管に直接注入する方法 (intravenousの略でIVと表示することもあります)です。筋肉へのガンマグロブリンの注射は何十年もの間行われており、正常な人が肝炎のような特定の病気にかかった場合にも、抗体を追加投与する目的で実施されます。ガンマグロブリン製剤は、免疫不全患者の治療にも長い間使われてきました。ただし免疫不全の患者は正常な人と比べ、ガンマグロブリン製剤をより頻繁により多量に打たなくてはなりません。筋肉への注入は大きな痛みを伴い、また注入できる量も限られています。同様に注射できる筋肉も限られていますので、何度も実施することはできません。

1980年代初期、静脈へ注入できるガンマグロブリン製剤 (IVIGまたはIGIV と呼びます) の開発に成功しました。現在、米国では静脈投与できるガンマグロブリン製剤が何種類も認可されています。それらの製剤はほぼ同じ品質です。ただし薬により、わずかに患者への相性の差はあります。どの製剤が合うのかは担当医に確認してください。

静脈へ投与するこの新しいガンマグロブリン製剤は、患者さんも受けやすい治療法になっています。外来でも患者さんの自宅でも注射が可能です(註:日本では自宅治療はできません)。注入を開始し終了するのに要する時間は2時間から4時間程度が一般的です。また筋肉と比べ静脈では、より多くのガンマグロブリンを注入することが可能です。副作用が出ることもほとんどありませんが、熱がわずかに上がったり、頭痛を引き起こしたりすることがたまにあります。これらの症状は注入に時間をかけることで緩和あるいは解消されます。

ガンマグロブリンの投与量は患者により異なります。ひとつの基準は患者の体重です。またガンマグロブリン投与後、ある期間をおいてから測るIgGの血中濃度や、投与によりどの程度治療あるいは予防効果があったのかも基準となります。静脈へのガンマグロブリン注入は通常3、4週間の間隔を空けてから実施します。ただし患者の状態により間隔を縮め、あるいは拡げる場合があります。

最近のガンマグロブリン製剤は大変優れた製品ですが、体内で作られる自然の抗体とまったくは同等ではないことを認識しておくことも重要です。ガンマグロブリン製剤はほぼ純粋なIgGであり、基本的にIgAやIgMは含みません。それゆえ、免疫グロブリンの特殊な防衛機能のうち、再現できないものもあります。ガンマグロブリンを投与したにもかかわらず、抗体に問題のある患者が呼吸器感染にかかりやすいのは、気道粘膜から分泌されるIgAを補充できないことが要因のひとつと考えられています。

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