ご家族の方へ

家族のためのハンドブック

A-T保因者のがんと放射線被ばく

セント・ジュード・チルドレンズ・リサーチ・ホスピタル
総合がんセンター長
マイケル・カスタン 医師・医学博士(2008年改定)

Michael Kastan, M.D., Ph.D.,
Comprehensive Cancer Center DirectorSt.
Jude Children's Research Hospital

がんはA-T患者にとってもっとも恐ろしい病気です。A-T患者と比較してA-T保因者ではそのリスクは低いものの、同様にがんになる可能性はあります(「遺伝について」の章で取り上げています)。これらふたつの問題については、別の章で説明します。

がんリスク

A-T患者のいる家族では、女性が乳がんになる可能性が潜在的に高いということが、疫学研究により分かってきました。A-T保因者が実際がんになる確率が高いのかさらに研究は続いています。仮にA-T保因者の女性が乳がんになりやすいという結果がでたとしても、そのリスクは小さいと考えるのが賢明でしょう。今のところ、あまり気にするべきことではないと思われます。興味深いことなのですが、A-T患者の家族で乳がんになるリスクは 60 歳を過ぎると高まります。ご家族はこのことをよく認識して、検査に臨むべきです。今後、若いA-T保因者でもがんのリスクが高まるという研究結果が出るようなことがあれば、若い人も積極的に検査をすべきと考えられますが、現在のところそのような結果は出ていません。慢性リンパ球性白血病のような他のがんについても、A-T保因者ではがんリスクが高い可能性があります。しかし、現在のところ早期発見が可能な、さらに効果を期待できる検査方法はありません。

検査/早期診断

早期診断は、乳がんの治療および結果に非常に大きな影響を与えます。それゆえ乳がんリスクが高い人は早期診断につながる検査を計画的に受けるべきです。しかしA-T保因者では乳がんの発症率は 60 歳を過ぎてから高まりますので、検査への対応も少し変わってきます。現在主流の乳がん検査はマンモグラムです。この検査は非常に精度の高い検査であるにも拘わらず、電離放射線の被ばく量はごくわずかであり、さらに電離放射線がA-T保因者の乳がんリスクを高めることについては懐疑的な見解もあります。A-T保因者がこのもっとも効果的な検査を受けるべきかについては疑問があります。この検査は米国では主に35〜40歳で一度行い、40〜50歳の間では2、3年ごとに、50歳以降は毎年行います。A-T保因者の乳がんリスクは60歳を過ぎてから高まります。それ以前の若い時点で検査頻度を増やしても、他の遺伝的に乳がんになりやすい人のようには効果がありません。現在のところA-T保因者でもマンモグラフ検査は他の人と同様に定期的なものだけを受ければ十分であると考えられています。ただし、今後疫学研究が進み若い人でも乳がんリスクが高まるという結果が出たら、その考え方は変わるかもしれません。

全ての年代のA-T保因者が定期的に実施すべきなのは、自分で行う乳腺の触診です。これは安全に行うことができる最も効果的な検査方法で、毎月行うことができます。異常があると思った場合には別の検査を受けてください。A-T保因者は必ず毎月この自分で乳腺の触診を行うようにしてください。やり方がわからない場合は、担当の医師に尋ねてください。

放射線被ばくの危険性について

電離放射線が乳がんのリスクを高めるといった報告は多いのですが、どれだけ放射線を浴びるとA-T保因者の乳がんリスクが高まるかについては明らかにされていません。しかしながらA-T患者の場合は、必要な場合でも医療用放射線の使用量はできるだけ抑えるべきです。言い換えれば撮影の結果で治療法が左右される場合のみ、使うべきです。放射線の使用は絶対避けなければならないと言うわけではありませんが、可能であれば使用回数を抑えるべきです。特に乳房組織が被ばくする胸部レントゲン撮影のような検査はなるべく避てください。A-T患者において、ビタミン剤の大量服用の効用は明らかにされていませんが、バランスの取れた低脂肪の食事、毎日定期的に取るビタミン剤は有効です。そして何よりも、喫煙は絶対に避けるべきです。

A-T保因者を同定することについて

A-T患者のおば、おじ、いとこ、きょうだいのような家族について、保因者検査をすべきかどうかといった質問が頻繁に寄せられます。この質問への回答は非常に難しく、家族それぞれの個人的状況や考えについてよく話し合う必要があります。潜在的な乳がんリスクの効果的な予防方法は見つかっておらず、A-T保因者であることを知ったからといって、明らかに益することは現在のところありません。一般的な人と比べ、A-T保因者が乳がん検査を特に受けなくてはならない理由は今のところないということが、まさに事実なのです (上記「検査/早期診断」を参照)。

page top