ご家族の方へ

家族のためのハンドブック

がんと放射線被ばくのリスク

セント・ジュード・チルドレンズ・リサーチ・ホスピタル
総合がんセンター長
マイケル・カスタン 医師・医学博士(2008年改定)

Michael Kastan, M.D., Ph.D.,
Comprehensive Cancer Center DirectorSt.
Jude Children's Research Hospital

がんはA-T患者にとってもっとも恐ろしい病気です。A-T患者と比較してA-T保因者ではそのリスクは低いものの、同様にがんになる可能性はあります(「遺伝について」の章で取り上げています)。これらふたつの問題については、別の章で説明します。

A-Tとがん

がんリスク

A-T患者の10〜30%はがんになる可能性があると30 年以上にわたる研究によって分かってきています。A-T患者が罹患するがんの大部分はリンパ球と呼ばれる白血球にかかわるものです (リンパ腫あるいは白血病)。A-T患者のこれらのがんは年齢にかかわらず発症しますが、10歳を過ぎるとより発症しやすくなります。これらのがんの症状について単純に羅列することは簡単ではありません。一般的なリンパ腫の最初の症状は、リンパ節のある場所 (首、胸、腹部) にしこりや腫れができる、あるいは他の症状がないにもかかわらず熱が続くことです。白血病の典型的な症状は出血、内出血、発熱、顔色が悪い、倦怠感、骨が時々痛むなどです。

検査

白血病とリンパ腫は、発見された時期によって治療法や予後が大きく変わることはありません。また乳がん、大腸がん、肺がんなどと異なり、これらのがんはなるべく早い時期に発見しなくてはならない必要性はそれほど高くありません。つまり検査が必ずしも有効ではないのです。他の検査の際に一緒に、あるいは年に一度程度、血算(血球数の検査) を行えば十分でしょう。より重要なことは、小児科医あるいは担当医はA-T患者ががんになりやすいことをよく理解し、症状が表れた場合に鑑別診断にて適切に対処ができるよう心がけておくことです。

治療法

白血病とリンパ腫はともに治療により治すことができ、A-T患者に対しては化学療法が可能であり、また有効です。使用すべき薬品はがんのタイプ、また患者の健康状態によって異なります。A-T患者のがんは、一流の施設で働く高度な技術と経験をもつ専門医に診てもらうことを強くお薦めします。

予防について

予防は常にがん治療にとって最高の戦略です。がんによっては、がんリスクが患者の行動や行為によって変わるものもあります (例えば、肺がんのリスクはたばこの煙と接触のない生活をすれば、軽減できます)。しかし残念ながら、A-T患者に見られる白血病とリンパ腫は、外的な環境要因に影響されたのでなく、生まれつき存在する DNAに異常を持つリンパ球から自然に発生したものだと考えられます。また放射線被ばくががんリスクをどれだけ高めるのか、実際のところまだはっきりとは分かっていませんが、自然なあるいは医療による放射線被ばくの影響は、あったとしてもほんの僅かであると考えられます。

ビタミンあるいは抗酸化物質の摂取はA-T患者のリンパ球のがん発生予防に有効であるとは言えないようです。実際は、ある種の抗酸化物質を大量に接種すると却って害になるようです。

ビタミンなどの栄養素は、総合ビタミン剤でバランスよく補給することをお薦めします。

放射線被ばくの危険性について

医療で使う放射線の照射量はごくわずかで、A-T患者やA-T保因者がそのためにがんになる危険性ははっきりとは判りませんが、恐らく非常に低いものでしょう。しかしながら、特に必要な場合を除いて、放射線による医療行為はできるだけ控えたほうがよいでしょう。言い換えれば、確実に利益が認められる場合のみ、放射線は使用すべきです。例えば、お子さんが腕を骨折した場合、エックス線撮影は適切な治療のために欠かせず、リスクを上回る効果が期待できます。ただし単なる健康診断のためのX線撮影はすべきでありません。例えば、定期的な歯科検診としてのX線撮影は避けるべきですが、歯痛がありその診察のためならば実施すべきです。

A-T患者をX線撮影する場合のガイドライン
・ できるだけX線撮影は避ける
・ 定期的な歯科検診によるX線撮影は避ける
・ MRIやその超音波など他の検査で代替できるものを優先する
・ 確実に効果が期待できる場合はX線を使用する
・ お子さんが発熱あるいは咳があり、聴診により肺炎の特徴が聞き取れた場合は、
  胸部X撮影の必要はなく、抗生物質を処方する
・ 抗生物質を使用しても症状が変わらない場合、胸部X線撮影は有効

ラドンはイオン化した放射線の自然な形態で、地中から放出されるもので、ある特定の地域では特に強く出ます (通常、換気の悪い地下室で多く検出されます)。お宅のラドン量を検査することは意味のないことではありません。もし検査の結果、ラドン量が高ければ、ラドンを排出するためのポンプを設置しても良いかもしれません。ただし、A-T患者は他の人と比べて、ラドンによりがんが誘発される確立が高いというデータはありません。

A-T患者は日光 (紫外線) に敏感ですが、このことは必ずしも皮膚がんになりやすいということを意味するわけではありません。A-T患者の皮膚は薄く、肌の老化も早く進むため、肌は乾燥しやすく日に焼けやすい特徴はあります。ですので日焼けを防ぐことは重要であり、日差しが強い時間は帽子とサングラスの着用をお薦めします。しかし日焼けに弱いからといって、お子さんを室内に閉じ込めておかないでください。A-Tのお子さんも他の子供と同じように外が大好きであり、室内でも室外でもできるだけ好きなことをさせてあげるべきです。

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