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家族のためのハンドブック

A-Tにおける免疫機能

ジョンズ・ホプキンス病院 小児アレルギーおよび免疫部門
小児科・内科・病理学分野教授 ハワード M. レダーマン 医師・医学博士(2000年)

Howard M. Lederman, M.D., Ph.D., Professor of Pediatrics, Medicine and Pathology
Division of Pediatric Allergy and Immunology, Johns Hopkins Hospital

全員ではありませんが多くのA-T患者は免疫機能に異常を示します。もっとも多い異常は抗体欠損と血液中を循環するリンパ球数の減少です。

抗体異常

A-T患者のうちおおよそ三分の二の患者には、IgAが欠損しています。IgAは特に外界と接触する粘膜、例えば副鼻腔や気管支、肺、腸などの粘膜ですが、の宿主防衛にとって重要です。一方、血液や、外界と接触しない臓器、例えば脳、肝臓、骨など、宿主防衛では特に重要な役割は担っていません。

IgAだけが欠損しており他の免疫機能は正常である選択的IgA欠損症は、健康な人においても比較的多い疾患であり、おおよそ 500人に1人の頻度とされています(註:日本では数万人に1人)。これら該当者のほとんどは健康であり特に目立った症状はありませんが、一部の人は副鼻腔炎や気管支炎といった粘膜面の感染症に繰り返し罹患します。なぜIgA欠損症患者のうち、一部の人だけが感染に弱いのかは分かっていませんが、これらの患者は他の免疫異常もあるのではないかと考えられています (IgG2のような他の免疫グロブリンに問題がある)。選択的IgA欠損症であるA-T患者のほとんどは感染に関する問題を抱えていません。感染症を起こしやすい患者の場合は通常、免疫機能に他の問題点があるか、あるいは感染を起こす他の問題があると考えられます (例えば食物や飲み物の誤嚥など)。

IgAを増加させる治療法はまだありませんし、人工的にIgAを製造する方法や正常な人から効率よくIgAを抽出する方法は現在のところありません。感染した患者との接触を避けるか、冬期に予防的に抗菌薬を内服するなどの対処方法が取られています。

その他A-T患者に比較的頻繁に見られる問題として IgG2欠損があります。IgG2はIgG分子の一種で、莢膜を有する細菌から体を守るために重要な役割を果たします。莢膜を有する細菌は強固でぬるぬるとした糖分によりコーティング (被包) されていて、中耳炎、副鼻腔炎、気管支炎、肺炎を引き起こします。

免疫のこれらの問題は、予防注射などで免疫を付与することによってかなり解決することができます。インフルエンザ菌や肺炎球菌のような細菌性の呼吸器系病原体に対するワクチンは実用化され効果が認められており、IgG2欠損の患者についても抗体反応を高めることが分かっています。仮にワクチンが効かず、患者で感染が治まらない場合、ガンマグロブリン治療 (健康な人から採取した抗体を静脈内注射する方法。下記参照) が有効であることがあります。

非常に稀ですが、抗体の産生に大きな欠陥が認められるA-T患者がいます。これらの患者はほとんど、あるいはまったく IgGやIgA、IgM を作れず、呼吸器系や消化器系の様々な感染に非常に抵抗力が弱くなっています。こうした患者ではガンマグロブリン治療が絶対に必要と言えます。

またA-T患者の10〜15%では1つあるいはそれ以上の種類の免疫グロブリンが増加しています。非常に稀ですが、免疫グロブリンの血中濃度が上昇しすぎて、血液が濃くなり正常に流れなくなる場合もあります。この問題に対応するためには、患者にあわせた特別な治療が必要となります。

ほとんどのA-T患者は乳幼児 (5 歳まで) のときに見られた免疫不全のパターンが、終生変わることはありません。よって定期的に免疫グロブリン測定を繰り返してもあまり意味がありません。しかし患者が以前より感染症にかかりやすくなった場合、状態が悪化したり、新しい治療が必要となった場合には、悪化した免疫機能の再検査が重要となります (肺の感染症では嚥下障害や肺への誤嚥の可能性を調べることが大切です)。

リンパ球数の減少

ほとんどのA-T患者は、血中のリンパ球数が正常より少ない傾向にあります。この症状は比較的変化がなく、歳を経てさらにリンパ球数が減少する患者はごくまれです。一般的には、リンパ球数が極端に少ないと感染症のリスクは劇的に高まります。こうした患者は生ウイルスのワクチン (麻疹、おたふくかぜ、風疹、水痘)による合併症や、慢性感染症、深刻なウイルス感染、皮膚や膣の真菌感染、日和見感染など (例えばニューモシスチス肺炎で、これは正常な免疫がある人では感染しない) を発症する可能性が低くありません。A-T患者のリンパ球数は少ない場合が多いのですが、しかし幸いなことにリンパ球数がこのように極端に少ないA-T患者は存在しません。例外もありますが、慢性的、反復的に手足にイボができる程度です。

対処法として

A-T患者は、血中のリンパ球数およびリンパ球の種類(Tリンパ球、Bリンパ球)、血清免疫グロブリン値 (IgG、IgA、IgM) 、T細胞依存性抗原 (破傷風、インフルエンザ桿菌b型など)の抗体反応、T非依存性抗原ワクチン(例えば、肺炎球菌多糖体23価ワクチン)への抗体反応などを調べる網羅的な免疫学的評価を少なくとも一回は受けるべきです。感染に対する抵抗力の悪化が特に認められない限り、再検査の必要はありません。

検査結果に明らかな異常が認められた場合、患者の担当医は対策を講じなければなりません。免疫グロブリン、あるいはワクチンに対する抗体反応の欠如はガンマグロブリン (IVIG) 投与や、予防的抗菌薬投与、感染への曝露を最小限にするなどの方法で対処することができます。免疫機能が正常ならば、定期的に行われる小児用予防接種は全て (麻疹、おたふくかぜ、風疹、水痘) 受けさせてください。さらに肺への感染を少しでも防ぐために、何種類かの“特殊な”ワクチン (定期予防接種でないもの) も受けてください。また患者とその家族はインフルエンザワクチンを毎秋、接種してください。7価肺炎球菌ワクチンは最近認可されました。 このワクチンは、満2歳未満のA-T患者に対しては二ヶ月間の間隔を空け3回接種させてください。満2歳以上患者には二ヶ月以上の間隔を空け2回接種させてください。2歳以上の患者はこのワクチンを接種してから6ヵ月後にさらに標準的な23価肺炎球菌ワクチンを接種することができます。23価肺炎球菌ワクチンはその後、5年ごとに再接種してください。

IgAの数値が低い患者は、IgAレベルが低いのかそれともまったく欠如しているのかの精密検査が必要になります。まったく欠如している場合は、輸血に対する有害反応の危険性が若干高まる可能性があります。“メディカル・アラート (投薬注意)”の腕輪をする必要はありませんが、ご家族および主治医は赤血球輸血が必要になる手術の場合には、赤血球を洗浄しておく必要があることを知っておく必要があります。

A-T患者が呼吸器感染症になった場合、特に飲食の際、よだれ、咳、喉のつまりがあったり、食べるのに時間がかかるようになった場合は、担当医は感染症の原因として嚥下機能不全あるいは肺への誤嚥のおそれがあるということを認識しておく必要があります。

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