ご家族の方へ

家族のためのハンドブック

遺伝について

ジョンズ・ホプキンス病院 小児免疫科
ハワード M. レダーマン 医師・医学博士(2000年)

Howard M. Lederman, MD, PhD
Division of Pediatric Immunology, Johns Hopkins Hospital

A-Tは遺伝的疾患であり、身体的特徴や体質のように家族間で両親から子供へ受け継がれます。例えば目の色、髪の毛の色、血液型などで、これらの特徴は遺伝するわけです。その他に個人の特徴は何千もありますが、その特徴を決定する情報を遺伝子と言います。遺伝子は染色体と呼ばれる細長い干状の構造物の上にまとめられています。身体を構成するすべての細胞に染色体はあり、そこには必要なすべての遺伝子が含まれています。

どの細胞にも染色体は必ず23組あります。それゆえ、遺伝子のペアも23組あるわけです。それぞれの一対の染色体のうちひとつは母親から、もうひとつは父親から引き継ぎます。遺伝子はこれらの染色体上にありますので、ある特徴(例えば目の色)についての遺伝子はひとつを母から、もうひとつは父から授けられます。卵子と精子の状態では、23組の染色体 (合計で46本) は半分に分裂しています。1対の染色体のうち1本だけが卵子、および精子に内包されます。卵子と精子が受精すると、卵子にある23本の染色体と精子が持つ23本の染色体が一体化し、合計46本の染色体が復元されます。このように遺伝子情報は半分ずつそれぞれ両親から引き継がれるのです。

常染色体劣性遺伝

A-Tは常染色体劣性疾患のひとつです。このことが意味するのは、この病気はふたつの異常遺伝子がそろって遺伝した場合 (それずれひとつずつ両親から) にのみ発病する病気であるということです。もしA-T遺伝子を一方の親からしか受け継がなかった場合、その子供はA-T保因者でありますが、A-T患者にはなりません。これらの異常遺伝子は珍しいものではありません。実際に誰もが両親から遺伝したら発病する可能性のある何らかの遺伝子異常 (変異) を有しています。幸いなことに、ほとんどの場合異常な遺伝子には正常な遺伝子が対となり、その正常な遺伝子が発病を防いでくれます。現在のところ、A-T保因者にも何か異常があるのかについては、明らかにされていません。脳および免疫系に明確な問題点は見つかっていません。がんについて非保因者とA-T保因者を比較した場合、かりにがんのリスクが高まるとしてもそれはごくわずかと考えられています。

常染色体劣性遺伝では、兄弟姉妹が同病を抱えるケースがあります。男女に罹患率の差異は認められません。両親が共に健康であったとしても、両親ともA-T保因者である場合があります。下の図は、A-Tがどのように遺伝するのかを示しています。

A-T保因者の両親から生まれる子供には3種類あります。卵子および精子では一対の染色体は二分され、一本ずつがランダムに遺伝します。ゆえに母親が保因者の場合で見ると、二種類の卵子が生成され、ひとつはA-T遺伝子を含み、ひとつは含まないことになります。

同様に父親は二種類の精子を生成し、ひとつはA-T遺伝子を持つ染色体を含み、もうひとつは正常遺伝子を持つ染色体を含みます。

A-T遺伝子を有する染色体を含む卵子とA-T遺伝子を有する染色体を含む精子が受精した場合、子供はA-Tになります。なぜならその子供はふたつのA-T遺伝子を持ち、病気を阻止する正常遺伝子を持たないからです。

A-T遺伝子を有する染色体を含む卵子でも正常遺伝子を有する精子と受精すれば、子供は保因者となるだけです。なぜなら、ひとつの正常遺伝子がA-T疾患を阻止するからです。

同じように正常遺伝子を有する染色体を含む卵子とA-T遺伝子を有する染色体を含む精子が受精した場合も、子供は保因者となるだけです。

また正常遺伝子を有する染色体を含む卵子と、正常遺伝子を有する染色体を含む精子が受精した場合は、子供は保因者でもなくA-Tに冒されることもありません。

A-T疾患の子供が生まれる確立 1/4(25%)
A-T保因者の子供が生まれる確立 1/2(50%)
正常な子供が生まれる確立 1/4(25%)

どの卵子とどの精子が受精するのか、その確立は完全にランダムなものです。確立の法則により、A-T保因者同士が親となった場合、子供のA-Tについての確立は以下のようになります。

ここで重要なことは、ある妊娠の結果は、以前の妊娠の結果に影響を受けないということです。コインを投げて裏表を占うことと同じです。一度、表が出たからといって、次に裏が出るとは限りません。同じように、もし最初の子がA-Tであったとしても、次の子が必ず正常または保因者であると保証される訳ではありません。次の子の場合も、また一子目と同様にA-Tである確立は25%(4人に1人) です。A-T患者に兄弟がいる子供は、一見健康であってもA-T保因者である確立は三分の二 (67%) です。

生殖選択について

子供がA-Tであると診断されると、多くの家族は次の妊娠はどうするべきかという難しい選択に直面します。次の子供もA-Tである可能性は 25% です。この確立は家族にとって決して好ましい数字ではありません。この病気には特別な治療法がないのですから、なおさらのことです。お子さんを治療する医師から得る情報は重要なものですが、最終的な判断はご家族に委ねられます。A-Tのお子さんがいて妊娠の兆候がある場合、早期であるならある種の出生前遺伝子検査を受けることが可能です。妊娠第一期(3ヶ月) 、または第二期 (次の3ヶ月) の初期に胎児がA-Tであると診断された場合、その間なら両親はその子を出産すべきか否か、決めることが可能です。

次の子供についての選択肢はいくつかあります。劣性疾患のリスクを抱える両親は、第三者 (ドナー) の精子による人工授精を選択することが可能です。ドナーは同疾患の保因者ではない可能性が高いわけですから、父親とは血のつながらない第三者の精子を使用することにより、リスクは劇的に低下します。

再度の妊娠は控えたいと考え、養子を迎える家族もいます。この方法は長期に渡る手続きが必要であり乗り越えなくてはならない障害もありますが、新しい赤ちゃんや子供を外から迎えて、幸せに過ごす家族もいます。

また、家族の数は今のままで十分であると考えるカップルもいます。次の子も同じ病気である可能性は受け入れることができないほど重たい事実ですし、現時点の家族を支えるだけでも大きな負担です。そう考えるカップルにとって家族が増えることは望ましくありません。結論を出す前に、こうしたいくつかの選択肢をじっくりと考えることはとても重要なことです。さらに、定期的に医療スタッフと面談することをお勧めします。ご家族が最新の医療情報を常に知ることができるからです。

A-T保因者判定の必要性について

おば、おじ、いとこ、兄弟姉妹などの家族や親族についても、A-T保因者であるのかを調べるべきか、といった質問がよく寄せられます。これは非常に難解な質問であり、考えるべき個人的問題のすべてにまで及ぶような広く深い議論が必要です。例えば潜在的な乳がんリスクを効果的に予防する方法もリスク自体を回避する方法もない現在、誰かがA-T保因者であるかということを知ることにどれだけ乳がん予防の利点があるのでしょうか。乳がん検査の必要性については、一般の人もA-T保因者も差異はありません。これは知っていなくてはならない重要な事実です。

もうひとつ、親族がA-T保因者であるのかを知りたい理由は、これから結婚する場合にはA-Tの子供ができる可能性のあるA-T保因者との結婚は避けたいというものです。A-T患者の健康な兄弟姉妹がA-T保因者である可能性は三分の二です。おじ、おばが保因者である確立は二分の一です。こうした保因者が他の保因者と結婚する確立は約二百分の一であり、このA-T保因者同士のカップルにA-Tの子供が生まれる確立はやはり四分の一です。ここから計算するとA-T患者の兄弟姉妹やおじ、おばがA-T保因者と結婚をして、さらにA-Tの子供ができる確立は約1,200分の1になります。これは子供が深刻な障害を抱えて生まれるリスクが 1% であることと比較して、小さな数字です。加えて、A-T患者の親戚にA-T保因者であるのかどうかを尋ねることは現実的に難しくはありませんが、一般の人に対しA-T保因者であるのかを尋ねることは非常に困難です。

この議論の範囲をさらに超えて、胎児のA-T検査についての問題はさらに複雑です。現在のところ、結婚前に相手に対し検査をすることは強制できませんし、上で述べたように、そのようなことは論理的に意味のある方法であるとは言えません。しかし将来、技術が発展し、A-Tの医学的が変わった日が来れば、また状況は変わるかもしれません。

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