低侵襲肝切除とは?
肝臓の手術と聞くと、「お腹を大きく開ける」「長い入院」「術後の痛みが強い」といったイメージを持たれる方が多いかもしれません。しかし、近年の技術進歩により、体への負担を最小限に抑えた「低侵襲手術」が可能となりました。当院では、従来の開腹手術に加え、腹腔鏡下肝切除、ロボット支援下肝切除を導入しています。症例ごとに最も適切な方法を選択しながら、可能な限り低侵襲な治療を提供しています。

肝臓の手術で「低侵襲」といった場合、以下の2種類の手術法を指します。
腹腔鏡下肝切除(Laparoscopic Liver Resection)
腹腔鏡下肝切除とは、お腹に数か所(通常4〜6か所)の小さな孔(直径5〜12mm)をあけ、そこから細長いカメラ(腹腔鏡)や手術器具を挿入して行う手術です。高精細のカメラ映像は手術室内のモニターに映し出され、術者はこれを見ながら器具を操作して、肝臓の病変を切除します。従来のように大きくお腹を開けることなく手術が可能となるため、術後の痛みや合併症のリスクを軽減でき、回復が早いという利点があります。ロボット支援下肝切除(Robot-Assisted Liver Resection)
ロボット支援下肝切除とは、手術支援ロボット「Da Vinci Surgical System」や「hinotori™ サージカルロボットシステム」を用いて行う最先端の低侵襲手術です。手術の実施自体は医師が行いますが、術者は手術台から離れた「操作コンソール」に座り、ロボットアームを遠隔操作して手術を進めます。このシステムの最大の特徴は、3Dの立体視・10倍以上の拡大視野、そして人間の手を超える精密さを持った自在に可動する多関節アームです。これにより、従来の腹腔鏡手術では難しかった精緻な操作が可能となりました。
腹腔鏡とロボット支援手術は、それぞれに特徴と適応があります。どちらが優れているというよりも、病変の位置・大きさ・患者さんの背景などを総合的に判断して、最も適した方法を選ぶことが重要です。
当院では、いずれの手術法も専門性の高いチームで対応しており、安全性・根治性・低侵襲性を兼ね備えた手術を患者さんに提供しています。どちらの方法が自分に合っているか、ご不明な点は外来でご相談ください。
低侵襲肝切除の利点
1. 創部(傷口)が小さい
低侵襲手術では、通常の開腹手術に比べて皮膚を大きく切開する必要がありません。数か所の小さな孔(ポート)から器具を挿入するだけで手術が可能です。そのため、傷が目立ちにくく、整容的に優れています。
2. 術後の回復が早い
創部が小さく、体内の臓器への侵襲(ダメージ)が少ないため、術後の身体への影響も軽減されます。術後1日目から歩行や飲水が可能です。術後の回復が早いことで、患者さんの社会復帰や家庭への復帰もスムーズに行えます。
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3. 精密で安全な手術操作が可能
腹腔鏡手術は高精細なカメラによる視野で手術が行われますが、ロボット支援手術では、さらに進んだ3Dの立体的かつ10倍以上の拡大された視野が得られるため、微細な構造(肝内血管、胆管など)も正確に識別できます。さらに関節型アームによって、複雑な操作や深部の縫合もスムーズに可能となりました。
最新技術を用いた精度の高い手術
術前3Dシミュレーション
〜手術の安全性と精度を高める立体ナビゲーション〜
肝臓は、内部に門脈・肝動脈・肝静脈・胆管といった複雑な構造を持つ臓器です。特に肝切除においては、病変の位置関係と、それに接する血管・胆管の解剖を正確に理解しておくことが不可欠です。当院では、すべての肝切除症例に対して、術前に三次元(3D)肝臓解析を行うことで、より安全で正確な手術計画を立てています。完成した3D画像は、仮想空間上で回転・拡大しながらあらゆる角度から観察でき、腫瘍と周囲の血管・胆管との位置関係を精密に把握することができます。さらに、手術で失われる肝臓の体積を数値的にシミュレーションできるため、複数の手術パターンを仮想的に比較しながら、最も安全かつ有効と考えられる切除範囲を事前に決定することが可能です。
術前カンファレンスでは、これらの3Dモデルをモニター上で回転・拡大しながら、切除計画を立てます。これにより、安全かつ正確な術中戦略をシミュレーションでき、術中のリスクを最小限に抑えることが可能になります。
ICG蛍光法(インドシアニングリーン蛍光ナビゲーション)
〜手術中の視野を拡張し、目に見えない構造を“光で可視化”〜
肝切除術において、正確な切離ラインの設定や胆道損傷の回避は、手術の安全性と根治性を左右する重要な要素です。当院では、それを支援する技術としてICG蛍光法を導入しています。この方法では、術前あるいは術中にICGという色素を静脈注射します。ICGは一時的に肝細胞に取り込まれ、胆汁中へ排泄される性質を持っており、近赤外線カメラを搭載した内視鏡やロボット手術システムを用いて観察することで、肝臓の特定区域や胆道の構造をリアルタイムで可視化することができます。これにより、解剖学的区域に基づいた精確な切除が可能となり、残すべき肝実質の損傷を最小限に抑えることができます。これは特に、腹腔鏡下手術やロボット支援手術のように直接触知できない術式において、安全性を高める手段として非常に有用です。
ICG蛍光法は、術者の判断を視覚的に補助し、見えない構造を「見える化」することによって、より安全で精密な肝切除を実現するための強力なサポート技術です。当院では、こうした先進的な術中ナビゲーションを標準的に導入し、日々の手術に活かしています。
さいごに
低侵襲肝切除は、患者さんの体への負担を最小限に抑えつつ、肝臓疾患に対する高い治療効果と安全性を両立できる現代の肝切除術です。当院では、これらの利点を最大限に活かした医療を提供し、患者さん一人ひとりの生活の質と治療成績を両立することを目指しています。
