肝細胞癌について

1.「肝がん、肝臓がん、肝細胞がん」?みんな同じですか?

 肝臓にできる「がん」を「肝がん」または「肝臓がん」といい、二つはほぼ同じと考えてよいでしょう。では「肝細胞がん」は違うのでしょうか?厳密には少し違います。肝臓を構成している細胞からできる「がん」を、「原発性肝がん」と呼びますが、肝臓を構成している細胞は主に2種類あり、肝臓の大部分を占める「肝細胞」と肝臓で作られた胆汁を十二指腸の方へ運ぶ胆管の細胞;「胆管細胞」があるわけです。つまり「原発性肝がん」は、「肝細胞がん」と「胆管細胞がん(肝内胆管がん)」とに分けられることになります。肝細胞がんは胆管細胞がんに較べ圧倒的に多く、ここでは「肝臓がん」=「肝細胞がん」としてみていくことにします。

2.「どうして肝臓がんになったのですか?」

 外来で患者さんからよく聞かれる質問です。もちろん「がん」ですから全て解明されているわけではありません。ただし肝臓がんになる人にはある特徴があります。それは、B型肝炎やC型肝炎に10年・20年と比較的長い期間かかっていた方が多いということです。

 全国集計では肝臓がんの約80%近くの方が肝炎ウイルスにかかっている方です。したがって、今現在肝臓がんがない方でも、肝炎ウイルスにかかっている方は、要注意です。現在では、肝炎ウイルスを駆除する治療もありますので、専門医の診断を受けることをお勧めします。肝炎ウイルスにかかってない人では、お酒の飲み過ぎの方(=アルコール性肝障害の方)、生活習慣病(糖尿病や肥満など)の人が残りの大半です。つまり、まったく正常の肝臓から「肝臓がん」ができることは稀であり、肝炎やお酒、生活習慣病など何らかの背景因子のある人が要注意となるわけです。

3.「症状が何もないから、私は早期がんですよね?」

 これもよく聞かれる質問です。肝臓は「沈黙の臓器」と言われており、がんによる症状がでない方が大部分です。肝臓は通常1~1.5Kg位の臓器であり、その中に例えば5㎝大の肝臓がんができても、肝機能が障害されるということはほとんどありません。前述のように、ウイルス性肝炎にかかっていることが予め分かっている人は、症状がなくとも厳重な経過観察が必要となってくる理由がそこにあるわけです。つまり、症状を手掛かりに肝臓がんを見つけるのではなく、肝臓がんになりやすい人を中心に肝臓がんを見つけていくという感じなのです。実際には、非常に進行していても何の症状もないことが多く、「症状がないから早期癌」とは言えないわけです。

4.「肝臓がんと言われ、たくさんの検査をしました、こんなに必要ですか?」

 肝臓がんの方にはたくさんの検査を受けていただく様な印象を持たれるかもしれません。どうしてたくさんの検査があるのでしょうか?私たちが「診断」するといったときには、「がん」なのかどうかだけを診断しているのではありません。がんなのか、がんじゃないのかを診断するのはもちろん、肝臓の機能や予備力、さらに、がんだとしてもどのくらいに拡がっているのか、1個なのか、複数個あるのかなど様々なことを考えています。

 まず採血では、肝機能・肝予備力、肝炎ウイルスの状態などを見ています。次に、「画像診断」といわれる検査があります。腹部エコー(造影剤あり・なし;音波を利用して行う検査)、CT検査(造影剤あり;エックス線を利用して行う検査)、MRI検査(造影剤あり;磁場を利用して行う検査)などが主な検査となり、これらを駆使して診断をつけていくわけです。胃がんでは胃内視鏡、大腸がんでは大腸内視鏡といったような、病変を直接見る検査がありますが、肝臓がんではそのような直接的な検査はありませんので、各種画像診断で得られる、「白と黒」の画像から診断をして行くことになります。その診断によって患者さんの治療方針も決まるわけですから、なるべくたくさんの情報(検査結果)から総合的に判断し、診断したいとなるわけです。

5.どのような治療法があるのですか?

 日本肝臓学会では治療法の選択のために、「肝癌診療ガイドライン」を発行しており、その中に「肝癌治療アルゴリズム」というフローチャートが示されています。ここでわかるのは治療法の選択には「肝障害度」「腫瘍数」「腫瘍径」の3つのステップが記載されています。

肝癌治療アルゴリズム 日本肝臓学会 肝癌診療ガイドライン2013年版 エビデンスに基づく肝細胞癌治療アルゴリズム

 では順に解説していきましょう。肝臓がんと診断されたら第一の関門は、肝障害度で大きく分けられます。これは肝臓がんと診断されたら、まず肝臓のがんではない部分(背景肝といいます)がどのくらい障害を受けているかということを評価します。肝障害度とは、「肝癌取扱い規約」という規約の中で定義されている言葉で、腹水の有無、血清ビリルビン値、血清アルブミン値、プロトロンビン活性値、ICG試験(ICGという緑色の試薬の排泄試験)の5項目により各々点数化して、A、B、Cの三段階に評価します。Aは良好であり、Cは不良となります。肝障害度がCであるとすれば、肝移植や緩和ケアが最善の選択となります。AまたはBならば次の関門は、腫瘍の数と大きさを評価します。つまりここで初めてがんのこと(腫瘍因子といいます)を考慮します。アルゴリズムでは1個と2~3個は、手術や局所療法(ラジオ波焼灼術)となっていますし、4個以上や腫瘍径の大きいものに関しては肝動脈塞栓療法(カテーテルを用いた治療)が推奨されています。つまり、肝予備力と腫瘍因子の二つのバランスで治療方法が決まるのが、肝臓がんの特徴です。

ここで注意が必要です。このアルゴリズムはあくまでも「マニュアル本」みたいなものです。すべての患者さんに適応できるわけではないですし、例外も多数あります。肝機能が非常に悪く、肝障害度Cであっても様々な準備を行い、手術を可能にしたり、腫瘍がきわめて大きかったり、また非常に多数であっても、カテーテル治療や抗がん剤治療との組み合わせることで治療を可能にしたりと、様々な工夫をすることにより治療を行うことが可能となっています。私たちの取り組みは、このホームページの冒頭で、「特色のある治療」として皆様に紹介しています。ぜひ一度ご覧ください。

6.治療成績はどうですか?

当科で2000年4月から2017年9月の期間に治療した肝細胞癌の根治的肝切除例は771例でした。

治療成績

 術後の生存期間は肝細胞癌による死亡と他の原因による死亡すべてを含めて、1年生存率84.7%, 5年生存率53.2%でした。

7.さいごに

「肝胆膵外科を紹介されたのですが、手術しか方法はないですか?」

 外科に紹介されたらすぐに切除されてしまうわけではありません。肝臓がんの治療は先に述べたように、肝切除(外科手術)、局所療法(ラジオ波焼灼術)、肝動脈塞栓術(カテーテル治療)、化学療法(抗癌剤治療)など、肝障害度と腫瘍条件により選択する必要があります。外科、内科、放射線科が十分に話し合い治療法を考える必要があるのです。紹介されたのが外科だからすぐに手術というわけではありません。様々な診療科がその特性をいかして肝臓がんの治療にあたっています。各診療科はその窓口となって皆様のより良い診断・治療を考えていきたいと思います。

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