教授あいさつ

高橋英彦主任教授(分野長)からのご挨拶

新しい時代の精神医療・精神医学を担う人材を育成します

 平成も終わろうとしていた2019年2月に東京医科歯科大学大学院精神行動医科学分野/附属病院精神科の教授として着任させていただいて以来、5年が経過しました。この間にコロナ禍に直面し、本分野も様々な困難に見舞われましたが、仲間がそれぞれの立場で持てる能力を発揮して、困難を乗り越えるだけでなく、新たな成長も遂げ、パンデミックに関連するエビデンスも出すこともできて大変、頼もしかったです。5年前に、大学の使命の教育・診療・研究の3本柱の中でも、教育を最も重要視すると書きました。コロナ禍で学生や若手医師が学びや研鑽に多大な制限を受けました。そのなかでも教える側、教わる側の相互が工夫して、質の高い教育は提供できたと思います。その証に多くの若手が仲間になったり、専門医、指定医の取得にこぎつけました。制限された環境の中でも、確実に成長して、実力をつけて、今では、下の世代を教えるまでになり、心強く思います。

 専門医制度も毎年のように制度が変わり、専攻医も指導医もその都度、対応が求められました。以前にも書きましたが、東京医科歯科大学精神科では、東京の真ん中という地の利も活かし、大学がコーディネート機能を発揮し、都市型の病院から地域医療を担う病院、急性期からリハビリ、児童から老年期まで幅広く学べ、個々の関心に合わせ柔軟に対応できる豊富な関連施設と十分な実績と情熱を有した同窓会のメンバーで構成される専門医プログラムが用意されています。そのため、専門医制度が変遷しても、柔軟に対応することもできました。充実したプログラムを通して、当事者や他の医療者からも信頼される質の高い精神医療の担い手に育ってきていると思います。

 専門医や指定医を取得され、一般精神医学の実力を身に着けた後は、サブスペシャリティーを磨いてさらに専門家として高みを目指していただきたいと思います。そのためには大学院への進学も選択肢の一つと思います。私自身が、二つの大学病院、過疎地域の病院、都市型の病院、研究所、海外留学などそれぞれの職場で他では得難い経験をしました。視野や人脈を広げるのもこの時期だと思います。多様な働き方、キャリアパスに関して大学が出来ることは可能な限り、させていただきたいと考えています。

 本学精神科の伝統的なテーマは精神医学の中核的なテーマとも言える統合失調症の病態理解・新規治療の開発でありますし、私自身のこれまでの研究は、疾患としては統合失調症や依存症、アプローチとしては脳画像が中心ではありました。このテーマで、インパクトのある論文を出版し、大型研究費を取得する中堅も育ってきました。しかし、それに留まらず、対象疾患、研究アプローチも今では多彩であり、それぞれの分野で自律的に研究活動が展開されるようになってきました。また、犯罪精神医学やリエゾン精神医学に特化した教員や大学院コースがあるのも当分野の他にはない特色です。研究も多様化、高度化してきており、最近はビッグデータ・AI時代の精神医学研究、計算論的精神医学研究も進めております。通信業者とのジョイントリサーチ講座のサイバー精神医学も設置されました。本年10月には、東京工業大学との合併があり、東京科学大学精神科に生まれ変わります。個人的には、これまでやってきた研究活動にとってはかなりの追い風と感じています。トランスレーショナルな研究から、日常臨床の判断に直結する臨床研究まで進めていきたいと思います。

 多様化しているニーズに応えるしなやかで層の厚い精神医療・精神医学の専門家集団たる東京医科歯科大学精神科の発展のためには、多様な個性・特性を有した皆様一人一人の新しいエネルギーが必要です。皆様が活き活きと働くことが、当事者の方々の幸福感を高めることにもつながると信じています。

 最後になりますが、この5年間で、裾野が広がり、底上げも進んできたように思いますが、まだまだ、発展途上でございます。これまで以上に同窓や東京医科歯科大学の関連の諸先生方からの厳しくも温かいご指導が不可欠でございます。何卒、よろしくお願い申し上げます。

高橋 英彦
2024年1月5日

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