得意とする分野

乳房再建

担当医師 森弘樹、植村法子
外来日 13火曜日、24月曜日、木曜日

乳がんを切除した後の乳房再建は「こころの再建」とも言われます。乳房を失うことによる精神的損失を取り戻す治療です。2006年からは乳房再建術が正式に保険点数として収載されたことで、より一般的に行われる治療になってきました。当院では乳腺外科と密接な連携のもと、一次再建(同時再建)、二次再建ともに手がけ、患者さんの希望に沿った乳房再建術を行っています。

時期

  • SSM, NSMでは2通りの切開線を用います

a. 一次再建

乳がん切除と乳房再建を同時に行うものです。したがって、乳房のない自分を見ることなく、麻酔から覚めたときにはすでに再建された乳房があることになります。二次再建と比べると手術が1回少なくなるので経済的であることも利点です。乳房切除の術式としては、1990年ころより一次再建を前提とし、できるだけ乳房皮膚を温存する皮下乳腺全摘術(Skin-sparing mastectomy, Nipplesparingmastectomy)が報告されるようになりましたが、当院では1998年から採用し、より美しい乳房を再建できるようになりました。一次再建を希望される方は当院の乳腺外科外来を受診してください。

b. 二次再建

手術後の補助療法(化学療法・放射線療法)終了後、もしくは過去に乳房切除を受けて欠損がある方に乳房再建を行うものです。腫瘍治療の影響を受けにくく、再建について、十分に考える時間があるのが利点です。

方法

患者さんの希望を第一に、再建部位の皮膚と筋肉の状態、対側乳房の大きさ・下がり具合、妊娠希望の有無、組織採取部位の状態などからアドバイスをして選択しています。

a. 人工物

  • expander

  • cohesive implant

2013年から保険診療が可能となりました。からだの他の部位に傷が増えないのが最大の利点です。皮下乳腺全摘術であれば皮膚が不足することもないので、ほとんどの患者さんに適用することができます。一次再建で方法を決めかねる方には「迷ったらエキスパンダー(風船のようなもの)を入れておきましょう」というお話をします。一方、再建できる形態はシリコンインプラントによって規定されるため、対称性を得るために反対側の乳房に補助手術(乳房固定術・縮小術、豊胸術)を要することもあります。また乳頭乳輪を温存した切除術(Nipple-sparing mastectomy)と組み合わせた場合には、乳頭乳輪の偏位が起こりやすいのでその修正を要することがあります。長期的に見ると被膜拘縮、破損などの問題が起こることがありますので1年ごとの検診が必要になります。

手順としては、ほとんどの方に2段階手術を行います。初回手術ではエキスパンダーを挿入し、4-6ヶ月後にシリコンインプラント(コヒーシブジェルインプラント)に入れ替えます。初回手術は全身麻酔、入れ替えは局所麻酔もしくは全身麻酔下に行います。初回は1週間程度、入れ替え手術は4-5日間の入院が必要です。近年、乳房インプラントに関連した悪性リンパ腫がまれに発生することが報告され、マクロテクスチャードタイプが発売中止となったため、現在はスムースタイプとマイクロテクスチャードタイプの乳房インプラントを選択することができます 。

b. 自家組織

体への負担は大きくなりますが、より自然な形態が再建でき、メンテナンスフリーであることが最大の利点です。手術は全身麻酔下に行い1-2週間の入院が必要です。費用は保険診療です。当院では下記の選択肢をお示ししています。


b-1遊離腹部皮弁などの遊離皮弁

  • DIEP flap

  • MSCTによる穿通枝検索

おなかの脂肪に血管をつけた状態で移植します。遊離下腹壁動脈穿通枝皮弁 free DIEP flapという穿通枝皮弁の一つです。筋肉を極力傷つけずに機能損失を少なくしています。大きな乳房も再建することができ、お腹もすっきりする方法です。2mmくらいの血管を顕微鏡下に繋ぐ繊細な方法のため、手術前にCT検査を行い、放射線科により血管評価を行います。お腹の脂肪が少なく、穿通枝皮弁を希望される方には臀部、大腿の皮弁も選択枝となります。


b-2広背筋皮弁・胸背動脈穿通枝皮弁

広背筋皮弁

背中の筋肉や脂肪を利用する方法です。小さな乳房の方に適した再建法です。大きめの乳房を再建する場合には多めに脂肪をつけ、血管をつなぐことがあります。

いずれの方法も再建乳房の知覚回復をよくするために知覚再建を行うことがあります。

b-3脂肪移植

人工物再建における補助療法、部分切除後の組織欠損、あるいは自家組織再建後のタッチアップとして脂肪移植(外部陰圧療法併用)を行うことがあります。自費診療となります。2021年10月29日から第二種再生医療を用いた脂肪注入治療が開始されました。

乳頭乳輪再建

C-V flap

乳頭乳輪を切除した場合は乳房再建後3-6ヵ月してから再建します。局所皮弁(皮膚をやりくりする方法)、対側乳頭からの移植で乳頭を再建し、刺青や対側乳輪からの移植で乳輪を再建します。刺青以外は保険診療となります。

主な業績

  • Nakamura M, Mori H, Kubota M, Uemura N, Tanaka K. Influence of Marker Number and Position on Accuracy of Breast Measurement With Three - Dimensional Camera.  Aesthetic Plast Surg. 46・1481〜1488. 2022
  • Mori H, et al. Objective assessment of reconstructed breast hardness using a durometer. Breast cancer. 2018;25:81~85
  • 森 弘樹. 広背筋皮弁. PEPARS135・58~63,2018
  • Mihara R,et al. Nipple reconstruction with dorsal skin provides better projection than reconstruction with abdominal or breast skin with cartilage grafting. Aesthetic Plastic Surgery. 2017; 41: 31-35
  • 森 弘樹,ほか. 挿入乳房インプラントと再建乳房の幅と突出の比較研究. 日本形成外科学会会誌 36: 245~250, 2016
  • 森 弘樹,ほか. 同時性両側乳癌に対する両側拡大広背筋皮弁での一次再建. Oncoplastic Breast Surgery 1: 37~41, 2016
  • Mori H, et al. Nipple malposition after nipplesparing mastectomy and expander-implant reconstruction. Breast Cancer 23: 740~744, 2016
  • Mori H,et al. Nipple reconstruction with banked costal cartilage after vertical-type skin-sparing mastectomy and deep inferior epigastric artery perforator flap. Breast Cancer22: 95-97, 2015
  • 石井義剛, ほか. 乳房再建における遊離深下腹壁動脈穿通枝皮弁と横軸方向有茎腹直筋皮弁の比較―ドレーン量および抜去日に関する検討―. 日本形成外科学会会誌 35:376-380, 2015
  • 森 弘樹,ほか. マルチスライス CT の術前評価とインドシアニングリーン蛍光造影法 の術中評価を併用した深下腹壁動脈穿通枝皮弁による乳房再建. 日本マイクロ会誌27:11-17,2014
  • 森 弘樹,ほか. 乳房自家組織再建へのMDCTの応用. PEPARS 73: 40-46, 2013
  • Mori H, Okazaki M. Is the sensitivity of skin-sparing mastectomy or nipple-sparing mastectomy superior to conventional mastectomy with innervated flap? Microsurgery 31:428-433, 2011.
  • Mori H, Hata Y. Modified C-V flap in nipple reconstruction. Journal of Plastic, Reconstructive & Aesthetic Surgery 2008; 61: 1109-1110
  • 岡崎睦、辻直子.乳房インプラント法による乳癌切除後の乳房再建 医学のあゆみ 2008; 224: 638-640.
  • Mori H et al. Anatomical study of innervated transverse rectus abdominis musculocutaneous and deep inferior epigastric perforator flaps. Surgical and Radiologic Anatomy 2007; 29: 149-154
  • 岡崎睦、ほか.特集/乳癌の治療戦略-エビデンスとガイドラインの使い方.乳房再建術. 臨床外科 2007; 62: 903-909.