局所進行切除不能膵癌について

局所進行膵がんとは何ですか?

 がんが膵臓の表面を越えて周囲の大事な血管、および血管周囲へ浸潤しており、かつ遠隔転移を伴わない状態の膵がんのことを局所進行膵がんと呼びます。
このうち周囲の血管への浸潤のため切除を行ったとしても、悪性細胞が遺残すると考えられる場合は局所進行切除不能膵がんと呼びます。

局所進行膵がん

膵がんのうち局所進行膵がんはどの程度あるのですか?

 正確な統計がありませんが、局所進行膵がんは初診の膵がんの3割程度を占めると推測されます。

局所進行膵がんの診断について教えてください

 膵がんの診断はしばしば難しい場合があります。これは、他のがんにたとえると、胃がんや大腸がんは胃カメラ・大腸カメラで直接観察して、必要があれば生検鉗子で細胞を採取して顕微鏡で見てがん細胞かどうかを病理診断することができます。しかし、膵臓は腹腔鏡や開腹すれば見えますが、いわゆる胃カメラ、大腸カメラで観察することはできませんので、CTやMRIなどの画像検査によって診断するしかありません。(別の項目で解説してありますが、超音波検査ができる胃カメラから針生検を行って膵がんを診断することはその中で有力な方法です。)治療方針を決めるにあたっては、膵がんがどこまで広がっているかが大切になります。膵臓周囲の血管の近くに腫瘍が浸潤しているかを高精細なCTを用いて診断をします。

 局所進行膵がんのうち、重要な動脈に浸潤しているか、もしくは門脈への浸潤程度によって、「切除不能 Unresectable」とよび、切除の可能性が残る「切除不能境界 Borderline resectable」と区別しています。

 血管の周りにがんが近接している場合、単に接しているだけなのか浸潤している状態なのかを画像所見で判断しなくてはなりませんがこれはときに困難です。同様に、がんによる浸潤なのか炎症など別の理由で画像の変化が起こっているのかどうかを判別することも困難な場合があります。

局所進行膵がんの標準治療は何ですか?

 膵癌ガイドライン2016年版では、比較的に早い段階で見つかった膵がんに対しては切除が推奨されていますが、一方で切除不能局所進行膵がんに対しては化学療法単独、または化学療法と放射線治療を組み合わせた治療が推奨されています。

局所進行膵がんの標準治療

局所進行膵がんに手術を行うことはできないのですか?

 手術が可能かどうかを判断するときに2つのことを考える必要があります。まず、技術的に可能かどうかという点、これは安全性と直結します。次に、手術をしたことによって癌治療として効果的かどうかということです。局所進行膵癌はこの観点から「切除可能性」を検討されています。仮に技術的に切除できたとしても、根治性が低く再発率が高く、生存予後に良い成績をもたらさない場合は切除が有効とは言えません。手術をすることが本当に良いことなのかどうかを慎重に考える必要があります。

 最近、膵癌に対して効果のある抗がん剤が増えてきました。そのため、発見当時は切除不能であっても、抗がん剤治療を行って腫瘍を縮小、或いは勢いを抑え込んでから切除を行うConversion surgery(適当な日本語がありません)という概念が提唱されています。また、ある程度進行している膵癌に対しては、仮に「切除可能境界」の段階でも手術を先行するのではなく化学療法を先行した方がよいという意見が大勢を占めるようになってきました(Neoadjuvant化学療法)。

東京医科歯科大学肝胆膵外科で行われている局所進行切除不能膵がんの臨床研究について

 局所進行切除不能膵癌は、発見当時は前述のように「切除不能」と考えられるのですが、近年の抗がん剤の進歩によって、抗がん剤治療や放射線治療を行ったところ根治的切除が可能と考えられるまでに癌が縮小し、それから切除を行ったところ、当初は想定できなかったくらいに長期間の生存が得られる症例を経験するようになりました。これらの経験をふまえて、私たちはその有用性を検証するために臨床試験を行っております。

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 これは何か特別な治療法を行うということではなく、保険診療の範囲内で一定の基準のもとに治療、検査を行っていくという臨床試験です。私たちのグループの治療方針として、臨床試験の枠組みのなかで行っても、そうでなくても治療のプロトコールは同じです。

 ただ大学病院の使命として、自分たちがよい治療だと考えて行っていることを検証して世の中に発表していくことがあります。それらの積み重ねが医学の進歩に繋がりますので、そのためには臨床試験として厳密に行っていく必要があります。

 ただし、臨床試験に参加したからといって治療に制限があるわけではありません。そのときにベストなことを行うのが原則ですし、治療から離脱したい場合も全く問題ありません。図にも示しましたが、まず抗がん剤治療(ジェムザール+アブラキサン®)を行って、その後に放射線化学療法を行って、一定の効果があり治的手術が可能と見込んだ場合に手術(Conversion surgery)を行います。

実際の症例の紹介

初診時と化学放射線治療後

初診時は切除不能と考えられたが、集学的治療により腫瘍の縮小が得られたため根治を目指した手術を施行。病理組織学的検査ではがん遺残なし(R0)の判定がえられた。

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