環境遺伝生態
4.微生物の人工混合体による創薬・疾患治癒を目的としたヒト環境デザインに関する基礎研究
・背景・目的
ヒト環境において、細菌叢は、病原体からの防御、宿主の免疫活性化など重要な役割を果たしている。ヒト環境中の微生物は生後間もなく細菌叢を形成し、一生涯ヒトと関わっていく。その間、ヒト微生物は環境や抗生剤等による様々なストレスに曝されるわけである。ではこの間細菌叢にはどのような変化が起きているのであろうか。我々の取り扱っている細菌のメタゲノム解析の結果、細菌の獲得免疫機構として働いているClustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeats( CRISPR )などの細菌の記憶領域も経時的にみると変化が認められ、この結果は細菌を取り巻く環境の変化や長期にわたる細菌叢の安定化との関与が示唆されている。
また、近年、微生物と天然物や人工物の複合体や微生物由来物質などを利用した医薬品や食品などの研究が進んでいる。例えば、腸内のMicrobiomeは、有益な細菌の成長を促進する物質であるプレバイオティクスや宿主に有益な効果をもたらす生きた微生物であるプロバイオティクスの投与、食事療法などにより大きく変化することが報告されてきた。これらに利用される微生物全てが、宿主に対して同じ機構を示しているわけではなく、現在までに作用機序の特定されているものも幾つかあるが、未だ解明されていない機構が多数存在する。またこのような現実から、実際に医薬品などの開発に展開できた例は少なく、開発されているものであってもその効果を発揮し続けることは困難な現状である。
そこで、細菌叢の経時的変化をメタゲノム解析により情報的、実験的に証明し、将来的にはこの方法をヒト環境デザインとして確立することで、創薬の開発や疾患治癒を目的として利用できたらと考えている。
・方法・対象 臨床サンプルを使用した経時的なメタゲノム解析を行い、ファージやCRISPRなどの特定の部位を解析し、メタデータとの相関解析を行っている。その後、動物実験として、一時的もしくはわずかなMicrobiomeを変化させるような新たなヒト環境デザイン(例えば細菌療法であったり便の移植)を確立し、コントロール群との比較検討を行う予定である。また、細菌叢の変化を応用するだけでなく、その制御方法、一度破綻をきたした細菌叢の再構築方法を見出し、新規治療法や治療薬開発につなげる事を目的としている。
・現在対象としている疾患 歯周病・インプラント歯周炎(歯周病科)、顎骨骨髄炎(口腔外科)、唇顎口蓋裂(矯正科)、IgA腎症(耳鼻科)などの治癒に向けたヒト微生物混合薬の構築を試みている。
作成中のため、詳細はお問い合わせください。(丸山)