Porphyromonas gingivalis
Porphyromonas gingivalisとは
本研究室では、口腔細菌Porphyromonas gingivalisの研究を行っています。P. gingivalisは、口腔の二大感染症の一つである歯周病の原因菌として非常に有名な細菌であり、歯周病原性細菌と呼ばれています。歯周病の病巣局所から本菌が分離されるのはもちろん、動脈硬化症病変などからの分離も報告されており、本菌は歯周病原性細菌であると同時に全身疾患にも関与していると考えられています。
P. gingivalisの培養
通常、細菌の培養は恒温器で行いますが、P. gingivalisは酸素存在下では生育できない偏性嫌気性細菌であるため、本研究室では、酸素を除去することが可能な嫌気チャンバー内で培養しています。また、血液寒天培地を用いて培養すると、鉄代謝により黒色のコロニーを形成します。本菌が黒色色素産生菌といわれる所以です。大腸菌などは一晩で十分に生育しますが、本菌では数日から一週間程度を要します。
本菌は糖類を代謝できないという特徴をもつため、生育にはもっぱらタンパク質やアミノ酸を要求します。それらを代謝した際に生じる有機酸などが悪臭を示し、歯周病の患者に特有な口臭の一原因となります。
研究の目的
歯周病は歯肉の腫れ、出血、不快感をはじめ、歯を支える骨の減少、歯肉の痛み、口臭などの原因となり、治療せず放置して悪化すると歯を失うことになる重要な疾患です。P. gingivalisは歯周病原性細菌として位置づけられているものの、具体的にどういうメカニズムで歯周病を発症させ、進行させていくのかについては未だに解明されていません。
そのような臨床的重要性から、本菌の実験室株2株の全ゲノム配列が解明されました。ゲノム配列を解明することは、本菌の生育や感染様式といった種々の特徴や、本菌が歯周病の発症・進行において発現させる病原因子を解明する上で非常に有用であるといえます。実験室株のゲノム情報に加えて、それらより高い病原性をもった臨床分離株のゲノム情報を取得できれば、その有用性は高いと考えられます。
また、別々の人から分離したP. gingivalisは、別々の遺伝子型を示すことがわかっており、海外ではその遺伝子型に高い多様性のあることが報告されていますが、日本国内では多様性があるのか否かが未解明です。本菌の種内多様性を解析することは、特定の少数の株だけが歯周病の発症・進行に関与しているのか、それとも多くの株が関与するのかを解明する上で重要であると考えられます。
研究内容
上記の目的を鑑み、本研究室では高病原性臨床分離株であるTDC60株の全ゲノム配列を決定しました。その解析から、ゲノム配列が既知である2株と比較してTDC60配列に大規模な再編成がみられることを示し、また、既知の2株がもたない、TDC60に特有な遺伝子を同定することができました。この配列情報を利用して、一度に全遺伝子の発現状態を解析できるマイクロアレイの実験系を確立し、現在実験を進めています。
また、国内外から収集した多数の臨床分離株を用い、遺伝子型を分類する解析を行いました。パルスフィールドゲル電気泳動法(PFGE)での制限酵素断片パターンや、multilocus sequence typing法(MLST)での遺伝子内配列多様性の解析から、本菌は国内においても遺伝的多様性が高いことが示されました。TDC60株から得たゲノム情報とあわせて、本菌の種内で共通するcore genomeを明らかにしていくことが必要であるといえます。