Tannerella forsythia
Tannerella forsythia とは
歯周病原性細菌の一つであるTannerella forsythiaは、グラム陰性偏性嫌気性細菌である。T.forsythia はPorphyromonas gingivalisやTreponema denticolaとともに、歯周病患者から高頻度で分離されることが知られている。
Bacteroides forsythusは,Tannerらによって歯周病患者の歯周ポケット深部から分離され、Bacteroides属の新菌種として1986年に提唱された。その16S rRNA遺伝子の塩基配列がPorphyromonas属,Prevotella属,B. fragillsと異なることが指摘されていた。2002年Sakamotoらは,16S rRNA遺伝子の塩基配列の他,細胞壁膜脂質構成成分や酵素活性を明らかにし,Tannerella forsythensisとして再分類し、同年同じくSakamotoらがTannerella forsythiaと再分類した。
病原因子としては、トリプシン様プロテアーゼ、シアリダーゼ、BspAタンパク、ヘマグルチニン、S-layer、Forsythia detaching factor ( FDF )などが発見されている。このFDFとは、胎児肺組織由来初代培養正常線維芽細胞に刺激を加えた場合、12時間後に細胞の剥離を起こす細胞剥離因子と言われている。 これら病原因子の発現動態や生化学的性質などについては不明な点が多く、また、これ以外にも未だ発見されていない病原因子が存在すると考えられている。このような病原因子が、歯周病の発症と進行に関与している可能性が示唆されているが、具体的なメカニズムなどについてはほとんんど明らかにされていないのが現状である。
培養方法
歯周病原性細菌として有名なP. gingivalisと同様に、T. forsythiaも酸素存在下では生育できない偏性嫌気性細菌であるため、嫌気ジャー内又はチャンバー内で培養している。
T. forsythiaは、培地の基本成分に加えてNAM ( N―アセチルムラミン-N-acetylmuramic acid )やへミン、ビタミンK、システインを生育時の栄養として要求することが知られている。そのため、プレート培養時は、TSB培地と馬血液を主成分とする血液寒天培地に、また液体培養時はBHI培地に、これらを添加して用いている。
培養期間は菌株間で相違があるが、十分に生育するまでに2〜4週間と、かなり長い期間を要する。血液寒天培地上では、P. gingivalisのコロニーよりも小さい、点状コロニーを生成する。また、本菌に特有な悪臭を放ち、本菌が重要な歯周病原性細菌として位置づけられていることを伺わせる。生育の遅さや、培養条件の厳しさから、T.forsythiaは培養困難な細菌であるといえ、その培養には経験と勘が要求されることから、常に最適な培養条件を検討しながら培養を行っている。
研究目的
歯周病原性細菌であるT. forsythiaが、歯周病の発症と進行にどう関わっているのかについては、未だに解明されていない点が多く、それと同時に、本菌そのものの性質についても十分な知見があるわけではない。そこで、まず多数の臨床分離株を用いて、本菌の種内での遺伝的多様性を解析し、本菌ではどの程度の遺伝的多様性がみられるのか、またそれが歯周病の発症・進行とどのように関わっているのかについて考察したいと考えている。また、現在研究が進めらている病原因子については、その性質をさらに解明していくことが必要であり、一方で、未知の病原因子を発見し、その機能を解明していくことも必須であるといえる。そのため、特にその性質が興味深いと思われる臨床分離株2株に着目して、その全ゲノム配列を決定し、また同時に多数の臨床分離株のゲノムDNAを解析することで、未知の病原因子の発見につなげたいと考えている。これらの解析を通じて、細菌学的根拠に基づいた新たな歯周病の治療法、さらには歯周病の効果的な予防法を開発することを目標としている。現在のところ、歯周病に対する有効な予防法はなく、また発症後の治療も場合によっては困難な場合があるため、細菌学的根拠に基づく予防・治療法は、高い効果が期待されると考えている。
研究内容
T. forsythiaの基準株と臨床分離株を含めた株間のゲノム構造の相違をパルスフィールド電気泳動法、multilocus sequence typing ( MLST )を用いて、FDFやhousekeeping遺伝子を比較し、株間の遺伝子配列の差異をパターン化し、解析を行う。さらにこの中の特徴的な株については、次世代シークエンサーを用いて、全ゲノム解析を行い、その構造を基準株と比較する。
また、FDFについて、まだ作製されたことのない遺伝子破壊株を作製し、野生株と性質を比較することで、その病原性について解明していく。