環境遺伝生態
1. 大量塩基配列データ解析を通じたヒト環境中の細菌叢および微生物動態解析によるヒト恒常性機構の研究
・背景・目的
ヒトには常に体の環境を定常的な安定した状態に維持するという恒常性の維持機構が備わっている。
この恒常性の維持機構は、精神神経系や内分泌系などが一体となり担っており、その一つとして免疫系が挙げられる。そして、免疫機構解明には、ヒトとヒト環境中の細菌叢および微生物動態の解明が必須であると考えられる。
微生物の中には、腸内細菌のように宿主であるヒトと生涯共存し、恒常性の維持に努めるものもあれば、ごく一部ではあるが恒常性の破綻をきたすものも存在する。
さらに、近年では、現代人の食生活や医療の変化により、従来共生していた細菌叢やその割合に明らかな変化が起こっており、それに伴う疾病との関与も示唆されている。
微生物叢の変化は出生直後、厳密には分娩中から始まっている。そこからヒトと微生物の生涯の付き合いが始まるのである。では頻繁に大きく変動するヒト環境中で微生物叢は、どの程度、そしてどの様な方法で変化するのだろうか?
またその変化した状態をどのように維持するのだろうか?もし、変化が起こる前の状態にヒト環境が戻ったとしたら、微生物叢ももとに戻るのだろうか?これほどまでに、ヒトと長期にわたり密接に関わり、ヒト恒常性維持に関与する重要な微生物が存在しているにも関わらず、微生物叢の安定性と環境の変動に対して起こす変化は全てが解明されていない。
しかし、近年、高速シーケンサーテクノロジーの発展により、微生物叢の分子系統学的調査やメタゲノム解析、臨床標本の遺伝子発現解析を含めたメタトランスクリプトーム解析をより大規模に、より早く、低コストで行えるようになった。
以前より導入されていた16S rRNAという系統発生的に信頼できる塩基配列に頼った分類学的解析とは対照的に、メタゲノムやメタボロミクスは、より豊富な情報、代謝活性などを提供してくれる。また、他の科学分野における解析ツールの進化は現在、微生物叢のゲノムデータにも応用されている。
・方法・対象 当研究室では高速シーケンサーを導入し、ヒト恒常性機構の一端の解明を目的とし、ヒト環境中の細菌叢解析による系統学的関係解明、さらには細菌群中に存在する遺伝子情報の解析、および存在する微生物の転写産物の同一性や量を解析する事での動態解析を行っている。ヒトには微生物が生息している部位が多数存在し、部位特異的な微生物叢の違いが存在していることが明らかにされているにも関わらず、それらの違いはあまりわかっていない。 現在は、口腔内や咽頭環境から採取したサンプルをもとに研究を進めているが、将来的には、より多種類のヒト環境部位から採取したサンプルを用いての細菌叢および微生物動態解析を行い、恒常性機構の解明を行うことを目標としている。
・現在対象としている疾患 歯周病・インプラント歯周炎(歯周病科)、顎骨骨髄炎(口腔外科)、唇顎口蓋裂(矯正科)、IgA腎症(耳鼻科)など
作成中のため、詳細はお問い合わせください。(丸山)