環境遺伝生態
1. 大量塩基配列データ解析を通じたヒト環境中の細菌叢および微生物動態解析によるヒト恒常性機構の研究
2.微生物-ヒト相互作用解析を通じた疾患および健康とのつながりに関する研究
3.比較(メタ)ゲノム解析による細菌進化と多様性の実験的・情報学的研究
4.微生物の人工混合体による創薬・疾患治癒を目的としたヒト環境デザインに関する基礎研究
微生物-ヒト相互作用解析を通じた疾患および健康とのつながりに関する研究 (細菌叢・メタゲノム・メタトランスクリプトーム解析)
・背景・目的 人体には自己の細胞の10倍もの数の細菌が存在する事が知られている。 皮膚や口腔、腸管などそれぞれの場所で固有の生態系を築いており、このような微生物の集団を細菌叢(マイクロバイオーム)という。 近年の研究により、これら細菌叢がヒトの健康や病気に重要な役割を果たしている事が明らかにされてきた。 例えば、腸内細菌の多くは、ヒトが自ら作る事のできない酵素を産生することで消化を助けたり、免疫システムを強化したり、危険な病原微生物の感染を防ぐ役割を担っている。 一方、細菌叢のバランスが何らかの原因で乱れると、炎症性疾患やアレルギー等の病気が引き起こされる事が知られている。 本研究室では、どのような菌が、どのようにヒトの健康と病気に関与しているのか、細菌叢と病気の関係を研究する事により、病気のメカニズムの解明と、新たな治療法の開発を試みている。
・方法・対象 細菌と病気の関係を明らかにするために、古くから培養によって個々の菌の性質が研究されてきた。 しかし、ヒトの細菌叢を構成する菌のほとんどはシャーレに移すと培養ができない。 この問題を克服するために、細菌そのものではなく、細菌の設計図であるDNAとRNAを対象とした研究方法が開発された。 この方法では16SリボソームRNA遺伝子という、タンパク質合成に働く必須遺伝子の配列を調べることで、細菌種を同定する事ができる(16S細菌叢解析)。 これにより細菌叢を構成する種のカタログを作る事が可能となった。 一方、16SリボソームRNAに限らず、細菌叢に含まれる全てのゲノム情報を収集・解析する事ができれば、ヒトの細菌叢内で、どの菌の、どのような機能を持った遺伝子が活性化(発現)しているのかを知る事ができる(メタゲノム・メタトランスクリプトーム解析)。 しかし、細菌叢中に含まれる膨大な量の遺伝子配列情報を取得し、解析を行う事は時間も費用もかかる非常に困難な作業であった。 近年になってようやく、シーケンス(遺伝子配列決定)技術の飛躍的な進歩と、より強力なコンピューターの開発によって、遺伝子の分類が可能となり、複雑な細菌叢の詳細な全体像を得る事が可能になった。 本研究室では、隣接する医学部・歯学部病院の各科と連携し、健康な人と、病気を持った人それぞれの臨床サンプルから、DNA・RNAを抽出し、ラボ内の2つの新型シーケンサー(454 GS Junior、MiSeq)で配列情報を取得している。 得られた情報は高速計算サーバーを用いて解析を行い、細菌叢を比較、病気の発症に関わる因子の特定を試みている。
・現在対象としている疾患 歯周病・インプラント歯周炎(歯周病科)、顎骨骨髄炎(口腔外科)、唇顎口蓋裂(矯正科)、IgA腎症(耳鼻科)など
The cover art for Nature "Our Self-Portrait: the Human Microbiome" by Joana Ricou Illustration by Steven H. Lee

作成中のため、詳細はお問い合わせください。(丸山)