教室の紹介

ご挨拶

麻酔・蘇生・ペインクリニック科では、①手術を受けられる方の周術期管理と②痛みでお悩みの方の診断と治療を行うペインクリニックの二つの領域があります。周術期管理では、①術前外来を通じて早期からのアセスメントを行い、手術を受けられる方が最適なコンディションで安全に手術を受けていただけるようにすること、②安定した経過となるような麻酔方法を選択し、手術に関連した合併症を予防すること、③術後早期に回復できるようサポートすることなどを目標に掲げ、診療にあたっています。手術後の痛みを和らげることも私たちの大切な使命であり、2023年からは術後疼痛管理チームを立ち上げたことに続き、2024年度中には麻酔後ケアユニットの開設も計画する形で、術後の回復をサポートする体制構築を目指しています。さらにペインクリニック外来では科学的な痛みの評価法、慢性的な痛みのメカニズム解明とそれに基づいた診断と治療を目標に診療を行っています。

また、大学病院の診療科として、将来の診療を担う人材の育成も私たちの大切な使命です。2017年度から日本専門医機構による麻酔科専門研修プログラム制度が開始され、私たちは毎年多くの専攻医を受け入れています。充実した研修環境を整えていくことは教室の大切な使命と考え、多様なニーズにこたえられるよう様々な取り組みを行っているところです。関連領域である集中治療についても、2023年度に日本専門医機構サブスペシャルティ領域の集中治療科専門医制度が開始されましたが、集中治療部との協力の下、集中治療科専門医育成に努めていく所存です。

これからも、私たちは、安全かつ高水準な麻酔・疼痛治療が提供できるよう、日々精進を続けてまいります。どうぞよろしくお願いいたします。

主任教授  内田 篤治郎

医療のあらゆる分野が技術や知識の進歩とともに専門性が強くなる中、妊産婦を対象とした周産期麻酔や小児を対象とする小児麻酔も同様にその領域に精通した麻酔科医が診療に従事することが世界的に強く推奨されています。当院においても妊産婦および小児を対象とした周産期・小児麻酔を専門に診療する担当するグループが2022年11月より立ち上がりました。周産期麻酔においては妊娠に伴う解剖学的・生理学的変化が麻酔に大きく影響するだけではなく、胎盤を通じた児への影響あるいは児からの母体への影響を考慮しなければなりませんし、小児麻酔においても発育・発達にともなう解剖学的・生理学的変化が麻酔に大きく影響するだけではなく、家族への心理的影響あるいは成長過程にある小児への心理的な影響も考慮しなければなりません。周産期麻酔と小児麻酔それぞれの領域は専門性が強いですがお互いに深く関わりあった領域でもあるため、当院ではそれぞれの領域を切り離して考えるのではなく連続したものとして診療に当たっている、ということが最大の特徴ともいえます。

周産期麻酔には、帝王切開術の麻酔管理や無痛分娩、妊娠中の非産科的手術の麻酔管理などが含まれます。無痛分娩については日本ではいまだ十分には普及しておりませんが、当院では周産女性診療科と新生児科、助産師と協力して24時間体制で対応しており、現在では多くの方が無痛分娩を選択されています。単に分娩時の痛みをとるというだけではなく、産後に体力をできるだけ早く回復できるように早期の介入を行うとともに、自然な分娩に近くなるように薬剤調整をきめ細やかに行っています。また、大学病院の特徴上、ハイリスク妊娠が多くありますが、専属の麻酔科医が対応することで低侵襲な麻酔管理のもとに安心して出産していただけるものと思います。

小児麻酔には、手術室での手術のほかに放射線治療やMRIやCT検査などを安全に行うための鎮静(麻酔)管理が含まれます。痛みを感じる神経伝達回路は胎生期にはすでに形成されていますが、刺激に対しては十分な防御反応が完成していないため、成人であれば我慢できるようなわずかな痛みやストレスであってもさまざまな身体的・精神的障害を引き起こす可能性があります。また、近年の研究から発達期の脳に対して麻酔薬の使用は何らかの発達障害を引き起こす可能性が示唆されています。当院では、小児専門病院に劣らぬ数のハイリスクな症例も多く集まりますが、最も鎮痛効果が高く安全性の高いとされる麻酔方法を選択することでお子さん達にとって最良の麻酔を受けていただけるようにしております。

教授  遠山 悟史