患者さんへPatient Care

血管内治療科で扱う疾患

血管内治療科では脳の血管の病気に対してカテーテルを用いて治療を行なっています。

脳動脈瘤Cerebral aneurysm

当科は脳動脈瘤に対し、多くの治療経験をもつ専門施設です。お気軽にご相談ください。

脳動脈瘤とは?

脳の血管の一部が、風船のようにふくらんでできる血管の異常を脳動脈瘤と言います。このような動脈瘤ができる原因ははっきりしていませんが、高血圧、喫煙、遺伝などによってできる可能性があることが報告されています。成人の2〜6%にこのような動脈瘤が発見されます。以前は動脈瘤が破裂して、くも膜下出血をおこしてはじめて見つかることが多かったのですが、近年ではMRIやCTなどの検査の進歩や、脳ドックなどの普及により破裂する前にこの動脈瘤が見つかることが多くなってきています。

  • [正常]

  • [脳動脈瘤(赤矢印)]

【症状】

脳動脈瘤は破裂するまでは症状がないことがほとんどです。破裂すると同時にくも膜下出血が起こり、強い頭痛(バットで殴られたような、もしくは雷に打たれたような痛みと表現されます。)が起こります。まれに動脈瘤が大きくなり、周囲の神経を圧迫することにより、破裂する前に瞼が開きづらくなったり、物が二重に見えるといった症状が出現することがあります。

【診断・検査】

MRIもしくは造影CT検査で脳動脈瘤の確認が可能ですが、周囲の血管との関係や治療方針を決定するために、入院してカテーテルによる脳血管撮影が必要となる場合があります。

MRI
造影CT
脳血管撮影

必要に応じて詳細な検査を行い、より安全に確実な治療を行うことを心がけています。

症例

突然に頭痛、意識消失があり当院へ救急搬送され、血管内治療を行いました。(動脈瘤は赤矢印)

治療前
治療直後

1か月後には、症状もなく、歩いてご自宅に退院されました。

未破裂脳動脈瘤

未破裂脳動脈瘤の治療について

未破裂脳動脈瘤は自然に小さくなったり、完全になくなることはほとんどありません。また薬などを使って、動脈瘤を小さくしたり、破裂を予防するような治療は現時点はありません。脳動脈瘤が破れる確率を下げるためには外科的な治療が必要です。現在のところ大きく分けて
(1)脳動脈瘤クリッピング術(開頭手術)
(2)脳動脈瘤コイル塞栓術(血管内手術)
の2種類の治療が行われています。

当院では脳神経外科と血管内治療科で合同のカンファレンスを行っており、一人一人の患者さんに最も適切な治療を検討した上で治療方針をお伝えしています。

(1)脳動脈瘤クリッピング術(開頭手術)

脳動脈瘤の入口(通常首のように細くなっていてネックと呼びます)の部分をチタン製のクリップではさみ、瘤の中に血液が入らないようにする方法です。約50年前から日本にも導入され、これまで脳動脈瘤の標準的な治療とされてきました。
最大の利点は、クリップをしっかりとネックの部分にかけることができれば、動脈瘤の再発・破裂の確率はきわめて低くなることです。1回の治療で治ることが多い治療です。
ただし、開頭(頭部の皮膚を切開し、頭蓋骨を一時的に外して、顕微鏡で見ながら脳の間をわけていき、動脈瘤を治療する方法なので、患者さんの負担がやや大きいこと、また、動脈瘤の部位によっては治療自体が難しい場合もあることが弱点です。

詳しくは当院脳神経外科HPをご覧ください。

中大脳動脈瘤クリップ前
中大脳動脈瘤クリップ後
蛍光造影による確認
(2) 脳血管内治療(脳動脈瘤コイル塞栓術)

1990年代に入り脳動脈瘤クリッピング術(開頭手術)よりも患者さんの負担が少ない方法として、血管内手術が行われるようになりました。この血管内手術とは鼠蹊部もしくは上肢などの血管からカテーテルという細いチューブを体内に挿入し、動脈瘤の治療を行う方法です。
太いカテーテルの中から、「マイクロカテーテル」というさら に細いチューブを入れて、このマイクロカテーテルを動脈瘤の中に誘導します。次にマイクロカテーテルの中から細くて柔らかいプラチナ(白金)でできた形状記憶のコイルを動脈瘤の中に進めます。動脈瘤の中で丸く巻いて、巻き終わったところで電気もしくは機械式と呼ばれる方法で切断します。この操作を続けて、動脈瘤内に血液が入らなくなるまでコイルを入れることにより、動脈瘤が破裂してくも膜下出血を起こすことを予防します。

ガイディングカテーテルと呼ばれる太いカテーテルを頸部の血管に進めます。インナーカテーテルと言われる少し細めのカテーテル、その中にガイドワイヤーと言われる細いワイヤーを通して、目的の血管まで進めます。
ガイディングカテーテルが内頸動脈まで進んだら、その中から細いマイクロカテーテル、さらにその中にマイクロガイドワイヤーと言われる細い針金のようなものを通して脳動脈瘤に進めます。
マイクロカテーテルが瘤内に入ったら、その中からさまざまな形状、サイズのプラチナ製コイルを入れて電気を流すなどの方法で切断します。コイルで瘤内が埋まると血液が入らなくなり、破裂を予防することができます。
動脈瘤の入り口(ネック)は、プラチナコイルがはみ出しやすいので、入り口部分を「バルーンカテーテル」という風船のように膨らむチューブで、一時的にふさぐ方法「バルーンアシストテクニック」が2000年ごろから使えるようになり、治療の安全性が高まりました。また、2010年からは動脈瘤の入り口部分の母血管に、ステントという網目状の筒を置いて、ちょうどフェンスを置くような形にして、コイルがはみ出すのを防ぐ「ステントアシストテクニック」が可能になり、さらに多くの動脈瘤が治療可能となりました。
これらの方法を組み合わせることにより最良の治療方法を提供します。

症例

脳ドックで未破裂脳動脈瘤(赤矢印)を指摘され、当院にご紹介いただき血管内治療を行いました。

MRI画像
脳血管撮影
治療前拡大AG
治療直後
治療1年後

治療1年後に再度検査を行いましたが、動脈瘤は完全に閉塞しており、再発はありませんでした。

(3)脳血管内治療(フローダイバーター(ステント)留置術)

最大径5mmを越え、かつ瘤の入り口が4mm以上の脳動脈瘤はコイル塞栓術を施行しても血流の遮断が難しい場合があります。このような動脈瘤(破裂急性期を除く)に対し、2015年に本邦においてフローダイバーターステント治療が導入され注目を浴びています。

フローダイバーターステントとは?

下の写真のような非常に細かい網目を持つ特殊構造のステントをフローダイバーターステントといいます。
これを正常血管に留置することで脳動脈瘤内に流入する血液量を減少させます。すると脳動脈瘤内の血液がうっ滞し、徐々に血栓化して脳動脈瘤が完全に閉塞します。半年後に約75%、1年後に約85%が完全に閉塞すると言われています。

フローダイバーターステント

実施施設について

フローダイバーターを用いた脳血管内治療は限られた医療機関でしか行われておらず、全国で68施設、東京都内では当院を含めて7施設のみです。(2020年9月現在)なお、治療の際には高度な技術が求められるため、経験豊富な医師が十分なトレーニングを受けて治療にあたります。

症例

脳ドックで未破裂脳動脈瘤を指摘され、当院にご紹介いただき血管内治療を行いました。
いずれの症例も、半年後の検査で脳動脈瘤が完全に閉塞しています。

内頸動脈瘤(青矢印)にPIPELINE(フローダイバーターステント:赤矢印)を留置

椎骨動脈瘤(青矢印)にFRED(フローダイバーターステント:赤矢印)を留置

脳梗塞(のうこうそく)Cerebral infarction

当科では脳梗塞を始めとする脳卒中に対して24時間・365日、最先端の治療を提供しております。

脳梗塞とは?

脳梗塞とは、脳卒中(脳血管障害)のうちの一つの病気で、脳を栄養する動脈の血行不良(もしくは閉塞)により、酸素や栄養を受けている神経細胞が死ぬことでさまざまな症状をきたす病気です。
脳梗塞は、その機序(でき方)によって大きく以下に分類できます。

  • ラクナ梗塞:脳の細い動脈で詰まる

  • アテローム血栓性脳梗塞:比較的太い動脈が血栓で詰まる

  • 心原生脳梗栓症:心臓からの血栓(血のかたまり)が脳の血管を詰まらせる

かつては脳卒中の4分の3を「脳出血」が占めていましたが、近年その割合は著しく減少し、代わって「脳梗塞」が増え、2006年には70%を占めるようになりました。その理由として、高血圧対策の普及と生活習慣の変化による糖尿病や脂質異常症の増加が考えられます。
日本では欧米に比べてラクナ梗塞の割合が多い傾向がありましたが、脂質異常症や糖尿病の増加にともない、アテローム血栓性脳梗塞が増えています。また、高齢化にともない心房細動の患者さんが増加しているため、心原性脳塞栓も増えています。

【症状】

脳梗塞で最も多い症状は、体の片側半身かに力が入らなくなるような運動麻痺です。特に、手足と同じ側の顔にまで麻痺が起こる場合は、脳梗塞の疑いはさらに強くなります。次に多いのは、ことばの症状で、ほぼ半数の患者さんに出現します。この症状には、呂律が回りにくくなる症状(構音障害)と、ことばを理解できなくなったり、言いたいことが言えなくなったりする症状(失語)の二つ種類があります。ほかに多いものとして、歩けなくなる、意識が低下する、体の半分のしびれなどの感覚障害、めまいや吐き気・おう吐、片目もしくは視野の半分が見えにくくなるなども、脳梗塞が疑われる症状です。こうした症状のうち、一つだけが出現することもありますし、いくつか症状が重複して出る場合もありますから注意が必要です。

脳卒中の症状は、突然現れることが多く、たいていは起こった時間がはっきりしています。最初の症状がそのまま短い時間のうちに軽くなり、消えることもありますが(一過性脳虚血発作など)、様子をみているうちにどんどん悪化したり、他の症状が加わったり、いったんは消えた症状が再び現れて、こんどは元に戻らないこともあります。

【診断・検査】

脳梗塞が疑われる場合も、多くの画像検査が行われます。それぞれに得手、不得手があり、その検査でしかわからないことや検査の限界があります。CTやMRIは、脳の中の構造を見ることができ、脳出血・脳梗塞・脳腫瘍などの病気の発見に適しています。特にMRIの拡散強調像という取り方は新しい脳梗塞を鋭敏に確認できます。

一方、脳の血管が細くなったり、詰まったりしていないかを見るには、血管撮影、MRA(magnetic resonance angiography)、CT血管造影検査、超音波検査が、また脳を流れている血液の量をみるためにはシンチグラフィー検査が適しています

脳梗塞の治療について

以前は脳梗塞に対する治療法は大規模研究などで有効法が証明された方法はほとんどありませんでしたが、2005年10月に認可された発症4.5時間以内の脳梗塞に有効とされるt-PA静注療法が行われるようになり、脳卒中に対する超急性期の治療が進歩しました。ただ脳主幹動脈(=根元の方の太い動脈)閉塞による大きな脳梗塞の患者さんには期待されたほど効果がありませんでした。これに対して最近では脳血管内治療というカテーテルを用いた最新治療の成績が劇的に向上し、脳卒中は発症後できるだけ早く専門病院にて治療を開始することが生命予後だけでなく、機能的な予後も改善することが判ってきました。

脳血管内治療とは、カテーテルという細い管を血管に挿入して、頭の中の血管へ進めて詰まった血管を通し直す“頭を切らない脳の手術”です。今までに様々な器具を用いた方法が行われてきましたが、2014年7月にステントタイプの血栓回収カテーテルが2種類(ソリティア、トレボ)認可されました。これは柔らかい金属のステントで閉塞した血管内で広げて、血栓を中に取り込んで回収するもので、このステントリトリーバーと呼ばれるカテーテルの効果により、早期に高い確率で再開通ができるようになりました。この結果2015年以降、ステントリトリーバーを用いた国際臨床試験の結果が多数発表され、すべての治療成績はそれまでとは比べものにならないほど良好であり、急速に全世界に広がっています。

当科でもこの最新治療を、24時間・365日に即時で行えるように、救急救命科・脳神経内科・脳神経外科と協力して体制を整えており、以前では助けることができなかった脳主幹動脈(=根元の方の太い動脈)閉塞による大きな脳梗塞の患者さんを多数助けることに成功しております。

症例

  • 治療前

    右の中大脳動脈が閉塞していて、右脳血流は広範に低下している

  • 治療後

    ステントリトリーバーなどを使用し、血栓回収に成功。右中大脳動脈は再開通し、脳血流は回復している

頸動脈狭窄症Carotid Artery Stenosis

頸動脈狭窄症とは?

頸動脈狭窄症とは、脳に血液を供給する最も大切な血管である頸動脈にプラーク(コレステロールなどの脂肪からなる動脈壁の肥厚のこと)が溜まったり、さらに石灰化が進むことによって内腔が狭くなってしまう病気です。糖尿病や高血圧症、高脂血症などの生活習慣病などの影響で、動脈硬化が進むことが原因と考えられます。頸動脈狭窄症は、狭窄率が高くなるほど脳への血流が少なくなったり、また血栓(血のかたまり)を作りやすくなり、脳梗塞を起こす危険性が高くなります。

【症状】

手足の動かしづらさやしびれ、呂律が回らない、眼がみえづらいといった症状がみられます。これらの症状がすぐに回復する場合は一過性脳虚血発作(TIA)といわれ、脳梗塞の前段階の状態です。また脳梗塞を発症してしまうとそれらが後遺症として残ってしまう可能性があります。

いずれの症状がみられた場合にもすぐに治療を始め、症状が進んでしまうことを予防する必要があります。
またこれらの症状が全くなく、たまたま超音波検査などで指摘された場合は、無症候性頸動脈狭窄症と言います。

【診断・検査】
頸動脈超音波検査(エコー)、CT、MRI、脳血管撮影(カテーテルを用いた検査)などがあります。
なかでも頸動脈超音波検査はもっとも簡便であり、狭窄度合いだけでなく血流速度やプラークの性状など、より細かい情報までわかります。

頸動脈狭窄症の治療について

頸動脈狭窄症の治療には、内科的治療、外科的治療(頸動脈内膜剥離術)、血管内治療(頸動脈ステント留置術)の3種類があります。頸動脈狭窄が指摘された場合には、第一に高血圧症や脂質異常症、糖尿病など動脈硬化のリスクとなる疾患について内科的治療を行います。外科的治療(頸動脈内膜剥離術)は全身麻酔下で直接頸動脈を切開し、内部のプラークを剥離するという手術です。

外科的治療法を行うにはリスクが高いと考えられる方で、①脳梗塞などの症状があり、くびの血管に50%以上の狭窄が認められる患者さん、もしくは②神経症状はないけれども、くびの血管に80%以上の狭窄が認められる患者さんに対しては血管内治療(頸動脈ステント留置術)がすすめられます。

症例

脳梗塞を発症し、検査の結果頸動脈狭窄症が見つかった患者さんです。脳梗塞が再び起きてしまうことを予防するために血管内治療(頸動脈ステント留置術)を行いました

  • 脳血管撮影の画像です。
    首の血管(内頸動脈)が一部くびれていて線のように細くなっている様子(赤矢印)がわかります。

  • 治療後の写真です。首の血管(内頸動脈)にステント(赤矢印)を留置しました。

  • ステントを置いた後に脳血管撮影を行った画像です。
    くびれていた部分が広がっている様子(青矢印)がわかります。

硬膜動静脈瘻(こうまくどうじょうみゃくろう)Dural arteriovenous fistula, dAVF

当科は硬膜動静脈瘻に対し、多くの治療経験をもつ専門施設です。お気軽にご相談ください。

硬膜動静脈瘻とは?

脳は’硬膜’という硬い保護膜で覆われて、頭蓋骨の中に存在しています。硬膜の中には多数の動脈と静脈が存在し、通常、動脈と静脈は毛細血管を介して交通しています。しかし、硬膜動静脈瘻では、硬膜の中で動脈と静脈が毛細血管を介さずに直接繋がってしまい、その影響で様々な症状が出現します。重症化すると、脳出血や脳梗塞、脳浮腫などを発症する場合もあり、専門施設での詳しい検査と診断が必要です。

動脈は静脈と比較して、より高い圧力で全身に血液を送っています。硬膜動静脈瘻では、動脈が毛細血管を介さずに直接、静脈に流れるため、静脈の圧力が正常時より高くなり、静脈に大きな負荷がかかることになります。その結果、様々な症状が出現してしまいます。

  • [正常]

  • [硬膜動静脈瘻]

日本でこの病気になる患者さんは1年間で300-400人前後といわれており、比較的頻度の少ない病気です。
50-70代の方が多く、男女間では大きな違いはありません。また、病気の原因ははっきりとは解明されていません。

【症状】

硬膜動静脈瘻が発生する部位によって異なりますが、目の充血、ものが見えづらい、耳鳴り(特に、‘ざっざっ’と拍動のように聞こえるもの)、頭痛などがあげられます。これらの特徴的な症状から、最初に眼科や耳鼻科を受診され、硬膜動静脈瘻が判明することもあります。

重篤なものだと意識障害やけいれんなどが出現する場合があり、一方で、症状を全く認めず、脳ドックなどでみつかることもあります。

【診断・検査】
MRI検査で硬膜動静脈瘻の確認が可能ですが、病態を詳しく判断し、治療方針を決定するために、入院しカテーテルによる脳血管撮影が必要となる場合や、追加のMRI検査、CT検査が必要となる場合があります。

硬膜動静脈瘻の治療について

硬膜動静脈瘻は外来で経過をみるだけで問題ない場合と、血管内治療、開頭術、放射線治療、またはこれらを組み合わせた治療が必要となる場合があります。当院脳神経外科を含めた多科での症例検討を行い、総合的な判断のもと、適切な治療方法を選択します。

血管内治療が適切と判断した場合、足の付け根の血管から病気のある部位まで細いチューブ(カテーテル)を通し、動脈と静脈が繋がっている部分を’コイル’や‘液体塞栓物質‘を用いて塞いでしまいます。治療は1回では終わらず、複数回に渡って段階的に行うこともあります。後遺症がない場合、1回の治療に際し入院期間は10日前後で、退院後にすぐに日常生活に戻ることができます。

症例

脳出血を発症され、来院された患者さんです。検査で硬膜動静脈瘻が判明し、血管内治療を行いました。

  • MRI画像です。静脈(青矢印)と動脈(赤矢印)が一緒に描出されています。
    正常では静脈と動脈が一緒に描出されることはなく、この画像から、硬膜動静脈瘻が疑われました。

  • 脳血管撮影の画像です。この検査でも、静脈と動脈が一緒に描出されています。硬膜動静脈瘻と診断し、血管内治療【液体塞栓物質で動脈と静脈の繋がりを塞ぐ手術】を行いました。

  • 治療後の脳血管撮影の画像です。静脈は描出されなくなっており、硬膜動静脈瘻は消失しています。完治となりました。

脳動静脈奇形Cerebral arteriovenous malformation, cerebral AVM

脳動静脈奇形とは?

本来動脈と静脈は毛細血管を介してつながっていますが、この病気では毛細血管がみられず異常な血管の塊(ナイダス)によって動脈と静脈がつながっています。したがって酸素や栄養物質などが十分に脳に運ばれない他、動脈の高い圧が直接静脈に流れ込むため、静脈の圧が高まります。脳動静脈奇形によってけいれんが起きたり、重症例では出血する可能性もあります。

この病気がみつかる患者さんは1年間で10万人に1人といわれており、比較的頻度の少ない病気です。20-40代の方が多く、男性の方がやや頻度が高いといわれています。

【症状】
脳動静脈奇形が見つかるきっかけの50%は頭の中の出血によるものです。出血する場所によって、頭痛や吐き気、手足の麻痺やしびれなど多彩な症状が見られることがあります。その他にはけいれんによっても見つかることがあります。
【診断・検査】
大抵の場合CT、MRIで脳動静脈奇形の存在を確認できます。また治療方針を決めるためにはどの血管が脳動静脈奇形に関係しているのか、どのくらいの大きさなのかを詳しく調べる必要があるため、追加で脳血管撮影(カテーテルを用いた検査)を行います。

脳動静脈奇形の治療について

治療には、外科的治療、血管内治療、放射線療法の3種類があります。脳動静脈奇形の大きさ、部位、関与している血管の種類などによって最善と考えられる治療法が異なってきます。当院では脳神経外科、放射線科と協力し治療方針を決める体制をとっています。

当科が行う血管内治療の位置づけは様々であり、外科手術を安全に行うために手術に先立って行う場合や放射線治療の前後で行うこともあります。また症例によっては血管内治療だけで根治を目指すことがあります。

血管内治療が適切と判断したタイミングで、足の付け根から頭の中の標的血管まで細いカテーテルを通し、 ’コイル’や‘液体塞栓物質‘を用いて標的血管をつめる治療を行います。後遺症がない場合、1回の治療に際し入院期間は10日前後で、退院後にすぐに日常生活に戻ることができます。

症例

脳出血を発症し、右手足の麻痺と意識障害で救急搬送された患者さんです。精密検査の結果脳動静脈奇形と診断されました。はじめに血管内治療を行い、続いて異常な血管の塊(ナイダス)を摘出する手術を行いました。

  • 脳血管撮影の画像です。ナイダス(赤矢印)が造影剤で黒く染まっている様子がわかります。

  • 脳血管撮影の画像をもとに作成した3D画像です。
    脳動静脈奇形(緑)に関与している動脈(赤)と静脈(青)の走行がよくわかります。

  • 血管内治療で脳動静脈奇形を栄養する動脈をつめた後の画像です。ナイダスの一部分(赤丸)が染まらなくなっています。

  • 最終的に手術でナイダスの摘出を行いました。手術前の血管内治療で動脈をつめたおかげで、手術中の出血量を抑え、安全な手術を行うことができました。
    術後は軽度の失語症(言葉の出づらさ)と高次機能障害が残りながらも、リハビリを続けられています。

脊髄硬膜動静脈瘻Spinal Dural Arteriovenous Fistula, spinal dAVF

脊髄硬膜動静脈瘻とは?

稀ですが脊髄にも硬膜動静脈瘻がみられることがあります。脊髄からはたくさんの神経(脊髄神経)が枝分かれして、手足を動かしたり、内臓の動きを調整しています。脊髄硬膜動静脈瘻では、脊髄の硬膜上の動脈と脊髄の静脈が直接繋がり、脊髄の中の静脈に動脈の血液が逆流してしまいます。その結果、脊髄の中の血液が停滞(うっ滞)して流れが悪くなり、脊髄がむくんだ状態になり、様々な症状が出現してしまいます。
日本でこの病気を含む脊髄の動静脈シャント疾患になる患者さんは1年間で1.77/100万人といわれており、非常にまれで頻度の少ない病気です。

【症状】

手や足の麻痺が出現し、手足の感覚が鈍くなって、感覚がなくなることがあります。膀胱や直腸の神経が麻痺すると、排尿や排便することができなくなります。これらの症状から、最初に整形外科を受診され、脊髄硬膜動静脈瘻が判明することもあります。頭蓋内の硬膜動静脈瘻と異なり、自然に治ることはあまり期待できず、下肢の麻痺や膀胱直腸障害などの症状が次第に悪化する可能性が高いです。

【診断・検査】
頭蓋内の硬膜動静脈瘻と同じように、MRI検査で脊髄硬膜動静脈瘻の確認が可能ですが、病態を詳しく判断し、治療方針を決定するために、入院しカテーテルによる脊髄血管撮影が必要となる場合や、追加のMRI検査、CT検査が必要となる場合があります。

脊髄脊髄硬膜動静脈瘻の治療について

治療としては、背中をあけて手術する外科手術と、血管内治療をする方法があります。直接手術をする方法が多く行われてきましたが、近年では血管内治療が進歩したため、血管内治療が選択される機会も増えています。

  1. 外科手術では、全身麻酔で、背中を切開し、背骨を切って(椎弓切除)脊髄や脊髄の被膜である硬膜を露出させて、血液が逆流している異常血管を遮断します。

  2. 血管内治療では、全身麻酔でカテーテルを脊髄の病変の血管の近くまで誘導します。血液が逆流している異常血管に流入する血管に接着剤の様な物質(塞栓物質)を注入して異常血管ごと閉塞させます。完全に閉塞して治癒することもありますが、一部残る場合もあります。その場合は、外科手術が追加で必要になることもあります。また、症例によっては血管内治療が難しい場合があります。

症例

徐々に歩きづらくなり、整形外科から紹介された患者さんです。検査で脊髄硬膜動静脈瘻が判明し、血管内治療を行いました。

  • 脊髄のMRI画像です。脊髄が腫れて脊髄に逆流する異常血管(赤矢印)が描出されています。

  • 治療時の脳血管撮影の画像です。脊髄に逆流する異常血管(赤矢印)が造影剤で黒く染まっている様子がわかります。血管内治療では、この異常血管につながる流入血管(赤矢頭)に塞栓物質を注入して異常血管ごと閉塞させました。

  • 治療後の脳血管撮影の画像です。異常血管は描出されず脊髄硬膜動静脈瘻は消失しました。その後、患者さんの歩きづらさは日に日に改善しました。