脳卒中についてのQ&A
1. 東京科学大学 血管内治療科の取り組み
- 東京科学大学血管内治療科では、どのような病気を診ますか? 
- 脳梗塞、脳出血、くも膜下出血、一過性脳虚血発作、脳および頚部頸動脈狭窄症、脳動脈瘤、脳・脊髄動静脈奇形、硬膜動静脈瘻の診断や治療を主に行います。また、脳神経外科や頭頚部/耳鼻咽喉科より紹介された脳腫瘍や頚部腫瘍の塞栓術も行います。 
- 東京科学大学血管内治療科には、どのような特徴がありますか? 
- 国立大学で唯一、“血管内治療科”を診療科・講座として標榜しており、血管内治療を専門に扱っている診療科です。また、脳卒中を専門とする脳神経外科と脳神経内科でチームを構成し、内科と外科の両側面からみた最善の治療を検討しています。 
2. 脳卒中とは?
- 脳卒中とは何ですか? 
- 脳の“血管”の異常による病気で、脳の血管が閉塞する脳梗塞、脳の内部に出血する脳出血、脳の表面に出血するくも膜下出血に大別されます。 
- 脳卒中はどのような人がなりますか? 
- 動脈硬化因子(高血圧、喫煙者、脂質異常症、糖尿病)や、心疾患(不整脈、弁膜症)の病気を持っている方や、ご高齢の方、ご家族に脳卒中の方がいる人に多く発症します。 
- 脳卒中は遺伝しますか? 
- 環境要因(動脈硬化や心疾患など)が発症に関与することが多いですが、なかには遺伝子の異常で脳卒中を発症し、遺伝する疾患もあります。 
- 脳卒中は若い人でも発症する事はありますか? 
- 脳卒中全体でみると高齢者の方が発症しやすいですが、遺伝性のものや、先天性の血管奇形による脳卒中は、若い人でも発症する事があります。 
- 脳卒中になるとどのような症状がでますか? 
- 脳梗塞・脳出血は、突然の顔や手足の麻痺、言語障害、意識障害、くも膜下出血は突然の頭痛や意識障害の症状で発症する事が多いです。なかなには、めまいや耳鳴り、認知症で発症する事もあります。 
- 脳卒中に前触れの症状はありますか? 
- 脳卒中、特に脳梗塞を発症する前には、短時間(多くは数十分から数時間)持続する、脳梗塞の症状(顔や手足の麻痺、言語障害など)が出て、自然に消えることがあります。これら短時間の脳梗塞症状が出た後には、大きな脳梗塞を発症する事が多く、速やかに医療機関を受診してください。 
- 脳卒中になったらどのようにすればよいですか? 
- 脳卒中は、発症してから治療を開始するまでの時間が、その後の障害の軽減に大きく影響します。脳卒中の症状が出た際には、すぐに救急車を呼んで医療機関を受診してください。 
- 脳卒中は再発しますか? 
- 一度脳卒中をおこした方は、再発する危険性が高まりますので、適切な治療法で再発を防ぐ必要があります。 
3. 脳卒中の検査
- どのような検査がありますか? 
- 血液検査、心電図、超音波検査(頸動脈・心臓など)、CT、MRI、血管造影、核医学検査などがあります。 
- 検査や治療の“侵襲“とは何ですか? 
- 検査・投薬・注射・手術などの医療行為によって、体の負担になることを指します。例えば、健康診断で行う心電図検査は“侵襲が低い検査”、全身麻酔で行う手術は“侵襲が高い治療”などと使われます。 
- 脳血管造影にはどのような検査で、どのようなリスクがありますか? 
- カテーテルという細い管を足の付け根や手の血管から挿入し、脳や脊髄の血管に造影剤を注入して撮影します。血管の状態を詳細に把握できるメリットがあります。リスクとして、造影剤によるアレルギーや腎機能障害を起こす可能性や、針を刺したところからの出血、また、稀に脳梗塞をおこすことがあります。 
- MRI検査を受けられない人はいますか? 
- 体内に金属が入っている方はMRIを撮像することが出来ません。具体的にはペースメーカーや人工内耳が入っている方などが対象になりますが、最近はMRI撮像可能なペースメーカーも開発されています。ペースメーカー埋め込みされている方は、ご自身のペースメーカーがMRIに対応可能かを把握しておくと良いかもしれません。 
4. 脳血管内治療とは?
- 脳内血管治療とはどのような病気を対象に行われる治療ですか? 
- 脳梗塞、脳および頚部血管狭窄、脳動脈瘤、くも膜下出血、硬膜動静脈瘻、動静脈奇形などに対し、足の付け根や手の血管からカテーテルを挿入して病変部にステント(筒状の金属の金網)を留置したり、コイルを巻いたり、薬剤を注入して病変部の治療を行います。 
- 脳血管内治療を行う際は麻酔をしますか? 
- 全身麻酔で行うことが多いですが、局所麻酔で手術を行うこともあります。 
- 脳血管内治療では、どのような器具を使用しますか? 
- 細いカテーテルや、ステント(筒状の金属の金網)、金属のコイル、医療用の風船(バルーン)、注射薬などを、疾患に応じて使い分けます。 
5. 脳梗塞・脳および頚部血管狭窄
- 脳梗塞とはどのような病気ですか? 
- 脳の血管が細くなったり血栓で詰まったりして血流が途絶えることにより、血液中の酸素と栄養が脳に到達しなくなった結果脳が壊死して(破壊されて)しまう病気です。 
- 一過性脳虚血発作とはどのような病気ですか? 
- 脳への血流が一時的に悪くなり、片方の手足の麻痺や痺れ、言語の障害などの症状が、短時間で出現して消える病気のことです。これら短時間の脳梗塞症状が出た後には、大きな脳梗塞を発症する事が多く、速やかに医療機関を受診してください。 
- 脳梗塞は遺伝しますか? 
- 脳梗塞自体は遺伝病ではありません。しかし、脳梗塞の原因となる高血圧や糖尿病、脂質異常症などが多い家系、もやもや病(後述)が多い家系では脳梗塞も発症しやすくなる傾向にあります。また、CADASILやCARASILと呼ばれる遺伝性の脳梗塞があることも知られています。 
- 脳梗塞や一過性脳虚血発作の原因は何ですか? 
- 多くの原因は、心房細動と呼ばれる不整脈の病気や動脈硬化です。動脈硬化の原因は加齢、高血圧、糖尿病、脂質異常症であり、生活習慣の是正で改善が見込めます。心房細動は心臓の専門家でもある循環器内科と協力して治療を行っていく必要があります。心房細動や動脈硬化がなく、生活習慣もそれほど乱れていない場合、もやもや病(後述)や遺伝性脳梗塞が原因のこともあり、MRIなどで詳しく検査する必要があります。 
- 脳梗塞や一過性脳虚血発作ではどのような症状がでますか? 
- 片方の手足が思うように動かせなくなったり、呂律が回らない症状が出現したり、言葉が出なくなったりします。 
- 脳梗塞を疑ったらどのようにすればよいですか? 
- 速やかに救急車を呼び、可能な限り早く専門病院を受診してください。急性期脳梗塞の治療として効果の高いt-PA静注療法(後述)は発症してから4.5時間以内の患者さんが対象になります。この時間内に専門病院を受診し診断と治療を開始することが、その後の経過を大きく左右します。また、カテーテルで血栓を回収する血管内治療も、発症してから来院するまでの時間が短ければ短いほど効果が高いことが報告されています。 
- 脳梗塞はどのように治療しますか? 
- 発症から間もない脳梗塞の場合、発症から4.5時間以内に脳梗塞と診断されれば、t-PA(組織型プラスミノーゲンアクチベーター)を用います。太い脳血管に大きな血栓が詰まっている場合はカテーテルによる血管内治療を併せて行います。発症から時間のたった脳梗塞や、急性期のt-PAやカテーテル治療が終わった後の脳梗塞では、再発予防の薬を開始します。通常、動脈硬化が原因で起こる脳梗塞であれば抗血小板薬、心房細動が原因で起こる脳梗塞であれば抗凝固薬を使います。その他、脳梗塞の原因になった高血圧、糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病、不整脈の治療も行います。 
- 血栓溶解療法(tPA静注療法)はどのような人に使用できますか? 
- 発症4.5時間以内に到着し、脳梗塞と診断された方に使用します。血液をサラサラにする効果が特に高いため、重大な副作用として出血があります。近いうちに手術をした方や、元々血液が固まりにくい方、肝臓に障害のある方は出血の副作用が高く使用できないことがあります。 
- 脳梗塞に対する血管内治療は、どのような人に行われますか? 
- 発症から来院までの時間、症状の程度、画像所見から必要と判断された方に施行します。発症してから来院するまでの時間が短ければ短いほど効果が高いことが報告されています。 
- 脳梗塞の再発予防はどうしたらよいですか? 
- 生活習慣の是正と、内服を継続することが重要です。家で血圧を測ってみたり、こまめに運動したりして日頃から健康への意識を高めることも非常に重要です。 
6. くも膜下出血・脳動脈瘤
- くも膜下出血とはどのような病気ですか? 
- 脳は外側から硬膜、くも膜、軟膜という3層の膜で覆われています。この、くも膜と軟膜の隙間はくも膜下腔と呼ばれ、ここに出血を来した状態をくも膜下出血といいます。原因として最も多いのは、脳動脈の一部が膨らんで出来た脳動脈瘤の破裂です。脳動脈瘤が破裂しやすくなる要因として過度の飲酒、高血圧症、喫煙があげられます。 
- くも膜下出血・脳動脈瘤は遺伝しますか? 
- 脳動脈瘤の出来やすさは遺伝することが知られています。ご家族にくも膜下出血を発症された方や動脈瘤が見つかって手術された方がいる場合は脳ドックの受診をお勧めします。 
- 脳動脈瘤が破裂してくも膜下出血を発症すると、どのような症状が出ますか? 
- 突然頭痛と吐き気が出現します。重症のくも膜下出血では意識障害を呈することも多く、いびきをかいて呼びかけに反応しなくなります。くも膜下出血を発症した患者さんの三分の一は亡くなり、三分の一は重篤な後遺症に悩まされ、社会復帰出来るのは残りのほんの三分の一を言われています。 
- 未破裂脳動脈瘤が見つかりました。どうしたらよいですか? 
- 脳動脈瘤の手術を行っている専門病院を受診しましょう。見つかった脳動脈瘤の大きさと場所によっては手術が必要となる可能性があります。手術が必要なくても、高血圧症の治療や禁煙、禁酒を行い脳動脈瘤の拡大を防ぐ必要があります。 
- 未破裂脳動脈瘤がある場合、症状が出ますか? 
- 未破裂脳動脈瘤により脳や神経の一部が圧迫されて目を開きにくいなどの症状が出現することがあります。 
- 未破裂脳動脈瘤は治療した方が良いですか? 
- くも膜下出血を予防するためにも手術を受けることをおすすめします。しかし、脳動脈瘤の大きさと場所によっては手術をせずに経過観察を進められることもあります。その際は禁煙、禁酒、高血圧症の治療など、脳動脈瘤を拡大させる原因の治療を行っていきます。 
- 脳動脈瘤の治療法にはどのようなものがありますか? 
- 開頭ネッククリッピング術という頭の骨を外して行う手術と、経皮的コイル塞栓術というカテーテルで血管の中から行う手術があります。詳しくは当科の脳動脈瘤のページをご覧ください。 
7. 脳出血・脳動静脈奇形
- 脳出血とはどのような病気ですか? 
- 脳の血管が破れて脳の中で出血した状態を脳出血と言います。出血によって出来た血液の塊が周囲の神経細胞を圧迫し、頭痛や手足の麻痺、言語の障害、意識障害などを引き起こします。 
- 脳出血の原因は何ですか? 
- 最も多いのは高血圧症ですが、まれに脳の血管の奇形や脳腫瘍が原因で起きることがあります。 
- 脳出血にはどのような治療法がありますか? 
- 十分に血圧を下げてさらなる出血を防ぐことと、リハビリをして機能を少しでも取り戻すことです。場合によっては救命のために手術を行うことがあります。 
- 脳動静脈奇形とはどのような病気ですか? 
- 正常な脳血管は動脈から脳組織に入って栄養と酸素を送り届けてから静脈に戻りますが、脳動静脈奇形では動脈の一部が脳組織に入ることなく静脈につながってしまう病気です。動脈の血液が勢いよく静脈に流れ込むため、静脈が破裂したり静脈の流れが悪くなったりします。 
- 脳動静脈奇形は遺伝しますか? 
- 現時点では明らかにされていません。 
- 脳動静脈奇形の治療にはどのようなものがありますか? 
- 開頭手術、血管内治療、放射線療法の3つがあり、患者さんの病態と併せてこれらを組み合わせて治療を行います。 
8. 硬膜動静脈瘻
- 硬膜動静脈瘻とはどのような病気ですか? 
- 脳は周りを硬い膜に覆われて頭蓋骨の中におさまっています。この脳を覆う硬い膜のことを硬膜と呼びます。硬膜の中を通る動脈と静脈が毛細血管を介さず、正常では開いていない穴(シャント、瘻)を通って直接つながってしまった状態を硬膜動静脈瘻といいます。脳内だけでなく、脊髄にも病変が出ることもあります。 
- 硬膜動静脈瘻ではどのような症状が出ますか? 
- シャント・瘻がある部位によって症状が異なります。目の充血や眼球突出、耳鳴りで発症する事が多く、病状が進行すると頭痛や痙攣、認知症の症状が出現することもあります。脊髄の病変の時には手足の麻痺や感覚障害が出現します。 
- 硬膜動静脈瘻の治療にはどのようなものがありますか? 
- 大きく分けて、血管内治療、外科手術、放射線治療があり、シャント・瘻がある部位や、関連する血管などの臨床情報から、最適な治療法を検討します。詳しくは、当科の硬膜動静脈瘻のページをご覧ください。 
9. リハビリテーション
- 脳卒中後のリハビリテーションとは何ですか? 
- 脳卒中発症後、急性期病院で早期よりリハビリテーションを開始する“急性期リハビリテーション”と、急性期の治療を終えて、自宅復帰を目標とした“回復期リハビリテーション”に大別されます。発症後は可能な限り早期よりリハビリテーションを開始し、急性期リハビリテーションで自宅退院が出来ない場合には回復期リハビリテーション病院へ転院し、数か月のリハビリテーションを行います。 
- 高次脳機能障害とは何ですか? 
- 脳卒中で障害される場所によっては、手足の麻痺はなくても、うまく着替えることができない、文字が読めない、手際よく作業ができないなどの症状が出現し、日常生活をスムーズに送ることが難しくなってしまいます。これらの症状の総称を高次脳機能障害と呼びます。 
