炎症性腸疾患センター(IBD外来)
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クローン病の治療法

クローン病の治療法は大きく分けて栄養療法と薬物療法に分けられます。栄養療法は食事を制限していく上で大切な治療法です。脂質が病気の再燃の引き金になると考えられるため、脂肪を制限した栄養剤を服用する治療がこれにあたります。また薬物療法は潰瘍性大腸炎と同様に免疫異常や腸管炎症を抑制することにより症状を改善させます。

内科的治療を行っても症状が改善しない場合、腸閉塞や腹膜炎を起こした場合、腸管からの大出血がコントロールできない場合には腸管切除術や狭窄形成術などの外科的手術を行います。また肛門周囲膿瘍や難治性(治療が難しく困難であること)痔瘻に対しては切開排膿やシートンチューブを挿入し、たまっている膿を排出します。

1.栄養療法

かつてはクローン病に対する有効かつ副作用が少ない薬物療法がなかったことより、栄養療法はクローン病治療の中心に位置づけられていました。薬物療法の開発が進んできた現在でも副作用の問題などで使用に抵抗がある患者さんも少なからずいるのが現状です。特に栄養療法は副作用がほとんどないことが特徴で、この治療法を受け入れられる患者さんにとってはレミケードが普及している今日でも中心となる治療法であると言えます。

特に成分栄養剤は抗原性を持たないアミノ酸をタンパク源とするため、消化をほとんど必要とせず、また脂肪分をほとんど含んでいないため、腸管の安静を保ちながら十分な高エネルギー、高タンパク源の栄養補給を可能としています。さらに腸管内細菌叢を是正することも治療効果の一つと考えられています。

1)どのような患者さんに使うのですか?

中等症例または重症例で、特に小児や骨粗鬆症合併例など副腎皮質ステロイド剤の使用が望ましくない患者さんでは栄養療法中心の治療の良い適応と考えられます。また薬物療法による副作用の既往があり治療に難渋するような症例では栄養療法によって一度炎症反応を安定させることも必要になります。

2)どのように使用するのですか?

栄養療法の際に使用する栄養剤には脂肪をほとんど含まない成分栄養剤(エレンタール)と少量のタンパクと脂肪成分が含まれる消化態栄養剤(エンテルード)、カゼイン、大豆タンパクなどを含む半消化態栄養剤(ラコール、エンシュアルキッド)があります。エレンタールはタンパク源がアミノ酸のため臭いが強くそのまま服用することが難しかったですが、最近品質の改良やフレーバーやゼリーなどにする工夫により経口的に摂取することもできるようになりました。またボトルで服用することもできるようになり、粉末を溶かして服用する必要がなくなりました。

通常活動期には入院して1500-1800Kcal摂取することが多いですが、量が多いと摂取が困難であるため、鼻から細いチューブを胃まで挿入し(経管)、成分栄養剤を少量より開始し1~2週間ぐらいで維持量までに増やしていきます。原則として成分栄養療法の導入は入院して医師、看護婦の指導の下に行うことになります。ただし経管が苦痛を伴う場合もあることや有効な薬物療法があることより、東京医科歯科大学病院では現在経管による栄養療法はほとんど行っていません。

病勢が寛解になった後は薬物療法を併用しながら低残渣食(在宅成分栄養療法)を行い、寛解が続けば半消化態栄養剤、普通食へと移行していくことになります。ただし寛解が維持されても栄養療法は継続することが多く、900-1200kcalの摂取により寛解維持する効果があることが知られています。さらに最近では薬物療法との併用により治療効果が高くなるというデータも報告されています。レミケードを使用する患者さんの中で1日900Kcal以上のエレンタールを服用した方がその後の再発率が低いことが知られています。

3)どのくらいの患者さんに効果があるのですか?

過去の報告では活動性のクローン病に対する効果が約80%程度と高い有用性を示しています。また維持療法についても1日900Kcal以上のエレンタールを使用した患者さんの1年後の再発率が30%であり非使用例の60%と比べ効果があったことも報告されています。

4)どのような副作用があるのですか?

副作用がほとんどない点が栄養療法の利点であるといえます。しかし比較的高い浸透圧の液体が腸管に流入されるため、時間をかけずに服用すると下痢、腹痛などを訴える患者さんもいます。また長期間成分栄養のみを摂取することにより、微量元素(本来少量でよいが生体を維持していくために必要な物質)の不足により、健康上の問題を生じることもありますので注意が必要です。

5)いつまで栄養療法を継続すればいいのでしょうか?

いつまで続ければいいかという質問に対しては“できる限り長く”という答えになりますが、実際には学校や職場で摂取するのは難しい場合も多いと思います。栄養療法でよくなった患者さんについてはその後もまず栄養療法を継続するように指導するのが原則ですが、実際に患者さんに聞くとなかなか容易ではないようです。しかし「栄養療法を継続して行うこと」で脂肪摂取の制限などの食事に注意する患者さんが多い傾向にあり、少量でも栄養療法を継続している患者さんもいます。このような患者さんは再燃した際に栄養療法を1200-1500kcalに増やすことが可能で、入院を避けられる場合も多いと思います。
 一方で薬物療法の進歩も著しいこともあり、患者さんの意志や社会生活を妨げてまで栄養療法を継続することはあまり好ましいことではないと考えます。

2.5-アミノサリチル酸製剤(ペンタサ・サラゾピリン)

1)どのような患者さんに使うのですか?

主にペンタサが使用されます。ペンタサは小腸型、小腸大腸型、大腸型、いずれのタイプに対しても治療効果があるとされ、寛解導入薬としても、寛解維持薬としても治療があるとされています。ただその治療効果はあまり強力なものではないため、軽症から中等症の症例を中心に使用されます。炎症が大腸に限局している場合にはサラゾピリンが使われることもあります。

2)どのように使用するのですか?

ペンタサ錠1日1.5~3.0gまたはサラゾピリン錠1日3~4gの経口投与を行ないます。最近ペンタサは500mg錠が発売され、服用する錠剤量は少なくて済むようになりました。現在保険で認められている使用量は3gまでですが、海外では多くは4gまで使用しています。

3)どのくらいの患者さんに効果があるのですか?

アミノサリチル酸製剤のみで症状が改善する症例もありますが、多くは炎症が軽度な患者さんであり、最終的には栄養療法やステロイド、レミケードを必要とされる症例が多くなっています。ただし安全性の高い薬剤なので、診断早期で病気が進行していない場合にはまずペンタサ・サラゾピリンを投与してみる価値はあると考えます。

4)どのような副作用があるのですか?

サラゾピリンでみられる副作用はアレルギー反応、発疹、頭痛などがあります。また男性患者では精子数の減少や運動能の低下を引き起こしますが、薬剤の中止によりもとに戻ります。ペンタサはSP成分がないため、副作用は少ないと考えられていますが、時に発熱などのアレルギー反応を認めることがあります。

3.ステロイド製剤

1)どのような患者さんに使うのですか?

中等度から重症の患者さんで使用されます。経口投与または入院の上、静脈投与が必要となることもあります。予防効果は証明されていないことと副作用発現のため、3ヶ月を目処に量を減量し中止していきます。また海外では、回腸および右半結腸のクローン病に対して、主に同部位にて放出され、局所にて有効なブデソニドが広く使用されています。本邦では現在使用できませんが、臨床試験が行われ近い将来使用可能となる可能性もあります。

また関節炎や結節性紅班、口腔内病変など腸管外合併症が認められる場合は5-ASA製剤のみではコントロールできない場合が多く、ステロイドを使用します。

2)どのように使用するのですか? 

外来ではプレドニゾロン1日30~40mg(6-8錠)の経口投与を行います。重症例には当初よりプレドニゾロン1日40~80mg(成人においては1~1.5mg/kgを目安とする)の点滴静注を行ないます。ステロイド剤の最も有効な投与量を決定する目的の研究はほとんどありませんが、一般的にはプレドニゾン1日40-60mgまたは1mg/kg体重で投与されています。また寛解後の減量のスケジュールに関しては、一般的には3-6週間後にて投与終了となるように減量されます。例えばプレドニゾンでは20mgまでは週5mgずつ、以降は週2.5-5mgずつなどで減量されます。減量のスケジュールは主治医と相談して、自分で判断しないようにしましょう。

3)どのくらいの患者さんに効果があるのですか?

ステロイドの短期的な効果については使用時の重症度や合併症(瘻孔や狭窄の有無)によっても違いますが、海外の報告では60-70%であるとされています。ただ長期のステロイド投与の寛解維持効果は証明されておらず、そのリスクは効果を上回るとされています。従って、ステロイドの使用は漫然と投与することを避けることが大切です。またプレドニゾロンの減量に従って増悪または再燃が起こりなかなか中止ができない患者さん(ステロイド依存)もいます。海外の報告ではだいたい30%の人がステロイド依存になると言われています。またステロイドの反応があっても30%の人が1年以内に手術が必要であったという報告もあります。副作用の面からも、最近ではステロイドをなるべく使用しないで急性期を良くする治療法の工夫が行われるようになってきています。

4)どのような副作用があるのですか?

副作用は主なものとしてムーンフェイス(顔がむくんだようになること)、にきび、体重増加、不眠、感染症などが主なものです。他に長期使用により骨粗しょう症や糖尿病、胃潰瘍などの副作用を起こすこともあります。ステロイドは副作用の問題より長期に使用すべき薬剤ではありません。投与後1-2週間を目処に徐々に減量していきます。3ヶ月以上ステロイドの投与が必要な場合は骨粗しょう症の薬剤を併用することも大切なことです。

繰り返しますが、副作用の面からステロイド使用を敬遠され最終的に病状が悪化するケースも少なからずみられます。当院ではステロイドを漫然と使用するような治療法は行いません。また病状にもよりますが、医師と患者さんとの相談によりステロイドを使用せずに他の治療法(レミケード、免疫調節剤、臨床試験など)を選択することも可能です。

4.免疫調節剤

1.アザチオプリン(アザニン)・6-メルカプトプリン(ロイケリン(保険適用外))

免疫調節剤にはいくつか種類がありますが、イムランとロイケリンは同じ系統の薬剤です。服用されたイムランが体の中でロイケリンの成分に変わり、最終的にこのロイケリンがさらに様々な酵素によって分解され、分解された有効成分が炎症をおさえると考えられています。イムランは錠剤でロイケリンは粉薬です。イムランで副作用が出るのにロイケリンで効果が出る場合、またその逆の場合もあります。どちらの薬剤を使うかは外来の先生と相談してください。

1)どのような患者さんに使うのですか?

基本的にはステロイド依存の患者さんにおけるステロイド減量効果と寛解維持効果に最も有用であると考えられています。また中等症までの患者さんで栄養療法やステロイドの効果が不十分な場合に症状改善のために使用されることもありますが、治療効果は緩徐にあらわれるので、活動性が中等症までの症例で炎症が持続しているようなタイプの場合に使用することが多いです。さらに手術後にクローン病再燃し、再手術が必要な患者さんも少なくありません。イムランやロイケリンは手術後の再燃効果もあることが知られています。

2)どのように使用するのですか?

海外ではイムランが最も多く使われ2~2.5mg/kg/日が常用量とされていますが、日本ではイムランなら25~50mg/日、ロイケリンなら15~30mg/日程度から開始し、副作用と効果を慎重に観察します。イムランは錠剤でロイケリンは粉薬です。錠剤の方が飲みやすい利点がありますが、粉薬であるロイケリンは使用量を微調節することが可能な点が利点です。投与後1ヶ月は毎週採血を行ない、問題がなければ増量し、臨床症状を見ながら投与後2~3ヶ月かけて適量まで増量します。投与後1ヶ月または維持量に到達するまで採血でヘモグロビン、白血球数(分画)、血小板、肝酵素をチェックします。

3)どのくらいの患者さんに効果があるのですか?

海外の5つの臨床試験を集めた解析ではステロイドの減量が困難などの難しい症例に対してイムランを使用し、67%で再発予防、65%でステロイドの減量が可能であったとされています。難治例を中心した対象患者で比較的高い効果を示していて有用な治療法ですが、一方でイムランやロイケリンを使用しても再燃する症例も少なからずあり、最近ではレミケードを使用される患者さんの割合が増えています。

4)どのような副作用があるのですか?

副作用については下記に挙げる通りですが、軽微なものから重篤なものが含まれています。また全員に起こる訳ではありません。これらの副作用をよく理解することが治療にも役にたちます。

  1. 血液障害
    血液を作る骨髄の働きを弱くする場合があるため、白血球、血小板が少なくなることがあります。また出血しやすくなったり、貧血が進行することもあります。薬を中止することで回復しますが、場合によっては状態を観察するために入院を要する場合もあります。
  2. 感染症
    免疫の働きをおさえることにより、細菌やウイルスが繁殖しやすくなり感染症を起こすことがあります。しかし免疫調節剤を使用していない患者さんでも風邪、膀胱炎などの軽度の感染症から、まれに肺炎などの比較的重篤な感染症を起こすこともあるので、因果関係については明らかでない場合もあります。
  3. その他、肝機能障害、膵炎、食欲不振、嘔吐、脱毛、口内炎、舌炎などの副作用が知られています。しかしこれらの副作用は潰瘍性大腸炎やクローン病の合併症、また他の薬剤でも起こりえます。
悪性腫瘍について

動物実験で免疫調節剤によりリンパ腫、扁平上皮癌の発生があった報告や免疫調節剤による治療を受けた腎移植患者でリンパ腫の発生率が高い報告があることが知られています。潰瘍性大腸炎やクローン病の患者に対する悪性腫瘍の発生率については免疫調節剤の影響はないという報告と、免疫調節剤の使用患者でわずかに高いという報告があります。最新の報告例では免疫調節剤を使用していた患者さんで3-4倍リンパ腫の発生する率が高いことも報告されています。しかし使用している患者さんで実際にリンパ腫を発生することは稀です。

われわれ主治医は前述した免疫調節剤による効果と副作用による影響を天秤にかけて、免疫調節剤を投与することを優先することが患者さんにメリットがあると考えて治療を勧めています。この問題に関しては難しい面が含まれていますので、細かいことは外来の先生と相談してください。

2.メソトレキサート(保険適用外)

我が国では主に慢性関節リウマチの治療薬として広く使われている薬です。クローン病における免疫調節剤の第一選択はロイケリン(6-MP)とイムラン(AZA)ですが、以下の理由で使用されることもあります。

1)どのような患者さんに使うのですか?

適応はロイケリン(6-MP)とイムラン(AZA)と同様ですが、特にこれらの薬が効かない、または、副作用で使用できない患者さんが良い適応です

2)どのように使用するのですか?

投与方法は週一回15~25mgの筋肉注射または内服となります。毎週外来に通院して頂く不便はありますが、より確実に効果を期待したい場合は25mgの筋肉注射が望ましいと考えられます。しかし、症状が改善すれば、減量および内服に切り替えていきます。1回の投与量は15-25mgですが、これは我が国で慢性関節リウマチの患者さんに使用されている量の最大4倍程度となる計算です。

3)どのくらいの患者さんに効果があるのですか?

直接に比較した研究はありませんが、ロイケリン(6-MP)とイムラン(AZA)と同程度の効果が期待できると思います。

4)どのような副作用があるのですか?

副作用については下記にあげる通りですが、軽微なものから重篤なものが含まれています。また全員に起こる訳ではありません。これらの副作用をよく理解することが治療にも役にたちます。

5.抗体製剤(レミケード、ヒュミラ)

1.インフリキシマブ(レミケード)

1)どのような患者さんに使うのですか?

レミケードはクローン病の炎症のもとになっているTNFαという物質の作用を選択的に抑える薬剤です。今まで使用された薬剤や栄養療法を使用しても効果がなかった活動期の病変や肛門部の病変、特に痔瘻の患者さんに効果があると考えられています。その治療効果がきわめて高く、また即効性があることより現在最も注目されている治療法の1つです。

これまではこの治療をいろいろな治療法を行っても効果がない患者さんの「最後の砦」としてレミケードを使用することが多かったのですが、病気が進展して膿瘍や瘻孔を形成してからレミケードを使用してもその効果は高くないことが判ってきました。そのため、この薬剤をより早い段階から使用する医師が多くなってきています。また免疫調節剤のところでも触れたようにクローン病では手術後に再燃が多いため、再燃予防、再手術率予防のためにレミケードを使用する患者さんも増えてきています。

2)どのように使用するのですか?

レミケードの投与は内服ではなく、点滴で行います。外来で施行可能ですので入院の必要はありません。レミケードの投与はだいたい2-3時間かかり、その前後に外来診察があります。従って当日は重要な仕事、会議、用事は予定されないことが望まれます。また点滴中もトイレは行けますが、一度トイレを済まされた方が良いでしょう。

基本的にはまず、始めた日、2週間後、6週間後の3回の点滴を行います。効果がみられた場合、良い状態を維持するため、その後2ヶ月ごとに治療を継続する場合が多いですが、患者さんによって状況が違う場合もあるので主治医の先生と相談してください。逆に3回投与しても効果がない場合は継続しても効果がない場合が多いため、他の治療法を行います。

3)どのくらいの患者さんに効果があるのですか?

レミケードの使用により、下痢の回数が減少したり、腹痛の程度が軽減する等の効果が速やかに認められ、かつその効果が8~12週間程度持続することが報告されています。さらに、腸にできた潰瘍などの病変を修復し、入院率や手術率を下げることも確認されています。また、外瘻に対しても、高い閉鎖効果を示すことが知られています。国内の臨床試験によると投与開始後10週間で66.7%、その後維持に対して使用した場合、30週後で約40%の方に効果が認められていますが、現在ではどのような患者さん効きにくいかが(たとえば狭窄や内瘻を形成している)以前に比べはっきりしてきているので、効果があると医師が判断して投与された場合は治療成績はもう少しよいと考えています。

一方、これらの効果はすべての患者さんに認められるわけではなく、2~3割程度の患者さんでは、効果が認められないと報告されています。さらに、レミケードはクローン病を根治させる薬剤ではなく、繰り返し投与する必要があります。また最近ではレミケードを継続して投与していても、効果が減弱する例も多く報告されるようになっています。このような症例では使用するレミケードの量を増やしたり、投与する間隔を短くすることもありますが、それでもレミケード投与前になると症状が出現する例もあります。

4)どのような副作用があるのですか?

レミケードの投与時反応は投与中または直後数時間以内に出現する急性投与時反応と、数日後に出現する遅発性過敏反応があります。急性投与時反応の症状としてはレミケードの点滴時および点滴終了直後に呼吸困難、発熱、胸痛、頭痛、悪心、めまい、そう痒感、高血圧および低血圧等の症状が認められる場合があります。なお、これらの反応は、投与速度を遅くしたり、抗ヒスタミン剤、アセトアミノフェン、ステロイドの前処置を行ったりすることにより、ほとんどコントロールできることが知られています。

また感染症に対する注意が必要です。クローン病の腸管合併症として膿瘍をある場合は、外科的処置等にて感染のコントロールをしてからレミケードの投与を行います。これまでに上気道感染症や尿路感染症等の発現が報告されています。重篤な感染症として、敗血症、肺炎、結核、日和見感染症等が認められています。感染症に罹ったかなと思われた患者さんは速やかに医療機関を受診し、レミケードを投与されていることを医師に伝え、適切な処置を受ける必要があります。

B型肝炎のキャリアー患者さんでは、肝炎の再活性化の報告もあり、投与前のスクリーニングおよび投与中の肝機能のモニターが必要です。

悪性リンパ腫について

長期的な投与により悪性リンパ腫の合併が懸念されています。特に海外で報告されている例は若年者が多いことより、注意する必要があります。クローン病の活動性自体、また免疫抑制剤の投与そのものでもリスクは高まる可能性があり、レミケードがどの程度に独立して関与し得るかは将来、解決されなければならない問題点です。

免疫調節剤と同様に、われわれはレミケードよる効果と副作用による影響を天秤にかけて、レミケードを投与することを優先することが患者さんにメリットがあると考えて治療を勧めています。この問題に関しては難しい面が含まれていますので、細かいことは外来の先生と相談してください。

2.アダリブマブ(ヒュミラ)

1)どのような患者さんに使うのですか?

ヒュミラはレミケードと同様にTNFαという物質の作用を選択的に抑える薬剤ですが、レミケードは精製の過程で一部マウス由来の成分が含まれるため、レミケードを投与した際に一部の患者さんで投与時反応をおこすことがあります。軽微であればアレルギーを抑える薬剤を使用すればいいのですが、重篤な投与時反応の場合には使用できないこともあります。また最近約20-25%の患者さんでインフリキシマブが徐々に効果が弱くなる現象が現れることが報告されています。ヒュミラは100%ヒト由来の抗体製剤なので、投与時反応はほとんどなく、またインフリキシマブが効果がない患者さんや効果が減弱した患者さんにも効果が期待できます。

2)どのように使用するのですか?

レミケードは点滴で行いますが、ヒュミラは皮下注射で投与します。お腹には脂肪が比較的多く注射の痛みが少ないため、多くの場合お腹の皮下に注射します。1回の注射に費やす時間は一瞬で終わります。

基本的にはまず、始めた日、2週間後に投与します。1回目の注射は4本、2回目の注射は2本必要になります。効果があった場合は以降2週間に1回注射をすることになります。3回目以降の注射は1本です。レミケードと比べて1回の注射の時間は短いですが、2週間ごとに投与する必要があります。そのため当院では患者さんで自分で注射を打って頂くことを推奨しています。もちろん「自分で注射を打つこと」に不安がある方も多いと思いますが、看護師の指導により、ほとんどの方は1回の指導で自分で打てるようになります。患者さんがどうしても自己注射を希望されない場合は、2週ごとに通院して病院で投与する形になります。

逆に2回投与しても効果がない場合は継続しても効果がない場合が多いため、他の治療法を行います。
詳細は担当の先生と相談してください。

3)どのくらいの患者さんに効果があるのですか?

国内の臨床試験ではレミケードの投与歴がない患者さんが投与開始後4週間(2回注射後、2週間での判定)で症状が改善した例が79%%、寛解(症状がほぼ完全によくなること)された例が43%でした。レミケードを使用していた患者さんについては難しい条件で治療されるのでその効果はやや落ちますが、それでも63%の患者さんが改善、26%の患者さんが寛解に至っています。また海外のデータではレミケードと同様にヒューミラの投与によって入院や手術のリスクを下げることができると報告されています。

4)どのような副作用があるのですか?

多くの副作用はレミケードと同様です。ただ、上にも述べたようにヒト型の抗体製剤なので投与時反応はありません。

まれに皮下注射した穿刺部の痛み、掻痒感が見られますが、一時的な症状であることがほとんどです。

6.抗菌剤(抗生物質)

抗菌薬ではフラジールやシプロキサンなどが軽症、中等症の患者さんのうち、痔瘻合併例で使用されます。また一部の大腸を中心とした患者さんに有効な場合もあります。フラジールは頭痛、嘔気、味覚異常の他、長期投与時には、末梢神経障害に対する注意が必要です。シプロキサンではアキレス腱炎(または断裂)に注意が必要です。これらの症状が出現したら、すぐに中止にするよう投与前に説明しておく必要があります。

7.外科的手術

高度狭窄(腸閉塞)、多量の出血、穿孔(膿瘍)では基本的には腸切除などの外科手術の適応となります。

狭窄病変に対して、抗TNF-α抗体療法などの内科治療で改善が認められる場合もありますが、どのような症例に対して内科治療の効果が期待できるかを正確に予測することは容易ではなく、最終的には外科手術が必要となることが多いと思われます。クローン病の長期予後まで考慮すれば、形成術や腹腔鏡下手術など、手術自体も低侵襲なものになってきており、狭窄病変に対する内科治療にこだわるよりは、内科治療による術後再発予防効果を期待した場合が良い場合もあるでしょう。

穿孔例では汎発性腹膜炎は絶対的手術適応です。膿瘍合併例に対して、アプローチ可能であれば、経皮的ドレナージが有効な場合があります。しかし、特に狭窄合併例では最終的には手術が必要になる場合が多いと思われます。

肛門周囲膿瘍に対しては、切開排膿を行ない、痔瘻には解剖学的に可能であればシートン・ドレナージ・カテーテルが留置されます。単純な痔瘻病変に対しては抗菌剤が有効な場合も少なからずあります。ただし耐性菌出現や副作用の懸念から最大6ヶ月程度の投与に止めるのが望ましいと思われます。同じ瘻孔でも、内瘻に関しては外科的治療が必要になることが多いと考えられます。無症状の腸管腸管瘻は経過観察されますが、下痢の原因となる場合や狭窄病変を伴えば手術適応となる場合が多いです。

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