お知らせ

東京医科歯科大学病院とモノグサ株式会社
補助人工心臓を装着した患者さんの学習ツールを共同開発
― AI機能を有するスマートフォン学習アプリによる医療機器教育の有用性を検証 ―

ポイント

  • 植込型補助人工心臓(VAD) ※1は、弱った心臓のかわりに血液を全身に送り出す医療機器(血液ポンプ)です。
  • VADを装着する患者さんや家族は、在宅管理を安全に行うためにVADの管理(正しい操作方法やアラームの対処等)をマスターする必要があります。
  • VADを装着する患者さんや家族の高齢化により、VADの管理能力の定着が困難なケースが散見されていました。
  • AI機能を有するスマートフォン学習アプリMonoxer ※2を活用することによりVADの管理能力の習熟度が高まることを実証しました。
  • これは医療機器教育の現場においてもAI機能を有するスマートフォン学習アプリが記憶の定着に有用であることを実証したものです。

 東京医科歯科大学病院(東京都文京区、病院長:藤井靖久)の心臓血管外科 藤田知之教授、藤原立樹講師、同病院MEセンターの倉島直樹技師長、星野春奈主任らの研究グループは、モノグサ株式会社(東京都千代田区 代表取締役:竹内孝太朗、畔柳圭佑)と、同社が開発したAI機能を有するスマートフォンアプリMonoxerを、補助人工心臓を装着する患者さんへの学習ツールとして活用した実証試験を実施し、その有用性を確認しました。この実証の試験の結果については、2023年11月9日に開催された「第29回日本臨床補助人工心臓研究会学術集会」と2023年11月9-11日に開催された「第61回日本人工臓器学会大会」にて発表されました。

研究の背景

 拡張型心筋症※3や心筋梗塞などが原因で長期に渡って慢性的な重症心不全状態が続いている患者さんは、心臓移植の適応と判断されます。日本では移植のための臓器提供が極端に不足しており、移植が必要と判断されてから実際に移植を受けられるまでに5〜7年位待たなければなりません。その間に、生命を維持する手段として植込型補助人工心臓(VAD)を装着します。VADは弱った心臓のかわりに血液を全身に送り出す医療機器(血液ポンプ)です。
 近年、移植の適応に相当する重度の心不全にも関わらず、何らかの理由(年齢、他の臓器の病気など)で移植の適応とならない患者さんや、自らの意思で移植を希望しない患者さんにも、VADを使用することが可能となりました。このような使い方を「最終治療(Destination Therapy: DT)」と証します。当院は全国でまだ数少ないDTの実施施設です。術前にはほぼ寝たきり状態の重症心不全の患者さんが、DTという治療を経ることにより職業復帰もなし得る等、活動的な日常生活を送ることが可能となります。
 VADを装着する患者さんや家族は、在宅管理を安全に行うためにVADの管理(正しい操作方法やアラームの対処等)をマスターする必要があります。DTが始まったことによりVADを装着する患者さんや家族の高齢化の傾向がみられ、VADの管理能力の定着に難渋する患者さんや家族のケースが散見されていました。

研究成果の概要

 東京医科歯科大学病院の心臓血管外科 藤田知之教授、藤原立樹講師、同病院MEセンターの倉島直樹技師長、星野春奈主任らの研究グループは、モノグサ株式会社(東京都千代田区 代表取締役:竹内孝太朗、畔柳圭佑 https://corp.monoxer.com)と、同社が開発したAI機能を有するスマートフォンアプリMonoxerを、補助人工心臓を装着する患者様への学習ツールとして活用した実証試験を実施し、その有用性を確認しました。
 具体的には、従来の指導方法(プリント資料と口頭による説明)ではVADの管理能力の定着に難渋した3人の患者さんと家族の退院前指導にMonoxerを活用し、無事に退院に至ったことを経験しました。
 また、東京医科歯科大学病院のスタッフ17名において、従来の学習方法で自己学習した(C群)8名と、Monoxerを使用し学習した(M群)7名を比較検討したところ、M群の筆記試験の点数及び合格率が有意に高かったことが分かりました(それぞれp=0.012, p=0.000337)。また筆記試験の手ごたえに関するアンケートにおいてもC群では22.2%が自信ありと回答したのに対し、M群では87.5%が自信ありと回答しました。

研究成果の意義

 この実証試験は、医療機器教育の現場においてもAI機能を有するスマートフォン学習アプリが記憶の定着に有用であることを実証したものです。記憶するためには反復学習が重要です。そして、忘れやすい内容を抽出し、優先的に反復学習を行うことが記憶定着に重要です。MonoxerはAI機能を有しており、習熟度や忘却度に合わせ出題頻度を調整し、設定された期日までに記憶が定着するように学習を進められるアプリです。そのため、Monoxerを使用して学習した結果、同じ学習期間を設けても有意に筆記試験の得点が高く、合格率も良い結果になったと考えられます。またアンケートの結果より、記憶の定着を実感することが自信につながることが示唆されました。
 またMonoxoerを指導に用いることの波及効果として、患者さんの入院期間の短縮、患者さんと家族のストレス緩和、指導を行う医療従事者の労務軽減などが期待されます。
 現在のところ、当院の患者さんとその家族がこのアプリを使用することができますが、本実証試験の結果を持って、様々な施設で使用できるように活動を行っていく予定です。

用語解説

※1植込型補助人工心臓
植込型補助人工心臓(VAD)は、弱った心臓のかわりに血液を全身に送り出す機械です。具体的には、左心室から血液を吸引し大動脈に送血することで、左心室の機能を補助します(図はニプロ株式会社より提供)。

※2スマートフォン学習アプリMonoxer
AI機能を有するスマートフォン学習アプリです。学習者がアプリを使い学習する中で、AI機能により習熟度・忘却度に応じて問題の出題頻度・難易度を調整します。オリジナル教材をそのままモノグサのアプリを通じて学習者に配信することも可能です。本研究では東京医科歯科大学病院のMEセンターで作成したオリジナル教材を用いました。

※3拡張型心筋症
心臓は収縮・拡張を交互に繰り返すことで全身に血液を送り届けるポンプとしての役割を果たしていますが、拡張型心筋症は、心臓の筋肉の収縮する能力が低下し、心臓が拡張してしまう病気です。

学会発表概要

①第29回 日本臨床補助人工心臓研究会学術集会

発表日:2023年11月9日
演題名:AI機能を有したスマートフォンアプリを活用した植込型補助人工心臓学習ツールの検討
講演者:星野 春奈 (東京医科歯科大学病院 MEセンター 主任 臨床工学技士)

②第61回日本人工臓器学会大会(パネルディスカッション)

発表日:2023年11月11日
演題名:非心臓移植施設での植込型補助人工心臓への取り組み~地域格差と地域連携~
講演者:藤原 立樹 (東京医科歯科大学大学院 心臓血管外科学分野 講師)

研究者プロフィール

  • 藤原 立樹 (フジワラ タツキ) Fujiwara Tatsuki
    東京医科歯科大学大学院 医歯学総合研究科
    心臓血管外科学分野 講師

    研究領域重症心不全
    機械的補助循環(ECMO, VAD)
    心臓血管外科一般

  • 星野 春奈 (ホシノ ハルナ) Hoshino Haruna
    東京医科歯科大学病院 MEセンター
    主任 臨床工学技士

    研究領域人工心肺
    機械的補助循環(ECMO, VAD)
    血液浄化
    抗凝固療法

  • 倉島 直樹 (クラシマ ナオキ) Kurashima Naoki
    東京医科歯科大学病院 MEセンター
    センター長 臨床工学技士

    研究領域人工心肺
    機械的補助循環(ECMO, VAD)
    血液浄化
    抗凝固療法

  • 藤田 知之 (フジタ トモユキ) Fujita Tomoyuki
    東京医科歯科大学大学院 医歯学総合研究科
    心臓血管外科学分野 教授

    研究領域重症心不全
    心臓移植
    低侵襲心臓手術(MICS、ロボット手術)
    心臓血管外科一般

問い合わせ先

<研究に関すること>

東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科

心臓血管外科学分野 氏名 藤原立樹(フジワラ タツキ)
E-mail:tfujiwara.cvsg@tmd.ac.jp

<報道に関すること>

東京医科歯科大学 総務部総務秘書課広報係

〒113-8510 東京都文京区湯島1-5-45
TEL:03-5803-5833 FAX:03-5803-0272
E-mail:kouhou.adm@tmd.ac.jp

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