English文責(須賀)
当科では、原因を特定しにくい、または通常の歯科治療だけでは改善しにくい口腔・顔面の慢性疼痛や違和感など、いわゆる歯科心身症(口腔心身症)を診療しています。このページでは、当科で用いている呼び方に沿って、代表的な疾患・症状を患者さんにも分かりやすい言葉で説明します。
検査で症状を十分に説明できる異常が見つからないことと、「気のせい」であることは同じではありません。痛みや違和感には、口の中の状態だけでなく、脳や神経による感覚の調整、症状への注意、睡眠、気分、ストレス、これまでに受けた治療など、複数の要因が関係することがあります。当科では、患者さんが実際に感じている症状を丁寧に伺い、多面的に理解することを大切にしています。
一方で、同じような症状が、むし歯、歯周病、歯の破折、口腔粘膜疾患、感染症、唾液腺疾患、薬剤の影響、栄養状態、神経疾患、全身疾患などによって生じることもあります。そのため、診断にあたっては歯科的・医学的な原因を確認し、必要に応じて口腔外科、保存科、補綴科、矯正歯科、耳鼻咽喉科、内科、精神科・心療内科などと連携します。
別名・関連する名称:口腔灼熱症候群、Burning Mouth Syndrome(BMS)、舌痛(glossodynia)
舌を中心に、唇、上あご、歯ぐきなどの口腔粘膜に「ピリピリする」「ヒリヒリする」「やけどをしたように熱い」といった痛みや異常な感覚が続く状態です。見た目には大きな異常がなく、通常の診察や検査で痛みを十分に説明できない場合に舌痛症が疑われます。口の乾燥感や味覚の変化を伴うこともあります。
国際頭痛分類では、口腔内の灼けるような痛みや異常感覚が1日2時間を超えて、3か月を超えて繰り返し、口腔粘膜の見た目や診察に明らかな原因がないことなどが診断の目安とされています。ただし、症状が3か月未満でも、つらい場合は早めに原因を確認することが大切です。
Q.「舌がピリピリ、ヒリヒリするのに、見た目はきれい」と言われました。舌痛症でしょうか?
A.舌痛症の可能性はありますが、似たような症状を起こす疾患がないかを確認したうえで判断します。
Q.食事をしている間は少し楽で、夕方になると痛みが強くなります。
A.舌痛症では、そのような日内変動を認めることがあります。ただし、すべての患者さんに同じ経過がみられるわけではありません。症状の時間帯、食事との関係、睡眠、口の乾燥、服薬状況などを診察時に詳しく伺います。
治療は、症状の経過と併存する病気を確認しながら、薬物療法、生活上の対処法、睡眠やストレスへの対応、必要に応じた心理的支援などを組み合わせて検討します。
別名・現在使われる名称:持続性特発性歯槽痛(persistent idiopathic dentoalveolar pain:PIDAP。「持続性特発性歯痛」と訳されることもあります)、持続性特発性顔面痛(persistent idiopathic facial pain:PIFP)
当科では患者さんに分かりやすい呼び方として「非定型歯痛」「非定型顔面痛」を用いることがありますが、現在の国際分類では、痛む場所や感覚の特徴、発症前の歯科治療・外傷の有無などによって、より細かく整理されます。
Q.「治療した歯がずっとズーンと痛い」「歯を抜いたのに、まだ同じ場所が痛い」のですが、異常はないと言われました。
A.非定型歯痛にみられる訴えの一つです。ただし、歯の神経や根の病気、歯周病、歯のひび・破折、上顎洞の病気、神経痛、歯科治療や外傷後の神経障害性疼痛などを先に検討する必要があります。検査で明確な歯科的原因が確認できない場合には、痛みを伝える神経や脳の痛み調整機能が関係している可能性も含めて考えます。
Q.痛い歯をさらに削る、神経を取る、抜歯をすることで治りますか?
A.明確な歯科的原因が確認できないまま、削る・抜くなどの元に戻せない治療を繰り返しても、痛みが改善しないことがあります。治療前に、痛みの場所、経過、画像所見、感覚の変化、これまでの処置との関係を整理することが重要です。
治療は、痛みの仕組みについての説明、薬物療法、日常生活での対処、必要に応じた心理的支援などを、患者さんごとに検討します。
別名・関連する名称:口腔異常感症、oral cenesthopathy、口腔内セネストパチー。
「口の中がネバネバ、ベタベタする」「歯ぐきや上あごに何かが張り付いている」「口の中から糸や膜のようなものが出てくる」「歯やあごが動く、変形する感じがする」など、通常の言葉では表現しにくい、つらい口腔内の感覚が続く状態です。診察や検査では、その感覚を十分に説明できる歯科・医学的な異常が確認できないことが特徴です。
Q.検査で何も見つからないということは、症状が存在しないのでしょうか?
A.いいえ。検査で原因を説明しにくくても、患者さんが感じている不快感や生活上の支障は実際のものです。当科では、症状を否定するのではなく、どのような感覚が、いつ、どこに、どの程度生じ、食事・会話・仕事・睡眠にどう影響しているかを具体的に整理します。
Q.「口の中から異物が出る」「唾液が接着剤のように固まる」と感じます。
A.口腔セネストパチーでみられることがある表現です。まず粘膜、唾液、歯科材料、薬剤、神経学的な病気などを確認します。明らかな原因がない場合には、口腔感覚の受け取り方や注意の向き方、気分・睡眠・ストレスなども含めて評価し、治療を考えます。
当分野では、症状と生活への影響を整理する評価尺度としてOral DRSの研究・公開も行っています。
別名・関連する名称:咬合違和感症候群、咬合異常感症、occlusal dysesthesia、phantom bite。用語の範囲や定義には、文献・診療分野によって多少の違いがあります。
「かみ合わせがしっくりこない」「歯が高い、低い」「あごがずれている」「左右の歯が同時に当たらない」などの耐えがたい違和感が続く一方、診察ではその強い症状を説明できる明らかなかみ合わせの異常が確認できない状態です。歯科治療、矯正治療、補綴治療などをきっかけに始まる場合がありますが、はっきりしたきっかけがない場合もあります。
Q.治療後から「かみ合わせが高い」「歯の位置がずれている」と感じます。もう一度削れば治りますか?
A.まず、詰め物・かぶせ物、歯、歯周組織、顎関節などに客観的な問題がないかを確認します。症状を説明できる問題が見つからない状態で咬合調整や補綴物の作り直しを繰り返すと、改善しないだけでなく、かみ合わせや治療経過がさらに複雑になることがあります。元に戻せない処置は慎重に判断する必要があります。
Q.かみ合わせの検査が正常なら、なぜ違和感が続くのですか?
A.かみ合わせの感覚は、歯だけでなく、歯根膜、あごの筋肉・関節、末梢神経、脳での感覚処理、症状への注意などが関係して作られます。Phantom bite syndromeでは、一次的な咬合異常だけでなく、感覚情報の処理や注意の固定などが関係する可能性が検討されていますが、病態には未解明な点も多く残っています。
治療では、歯科的な問題を確認したうえで、症状の仕組みについての説明、症状への注意を調整する工夫、心理的支援、薬物療法などを必要に応じて検討します。
別名・関連する名称:口臭へのとらわれ、自己臭恐怖に関連する訴え、olfactory reference disorder/syndrome(嗅覚関連付け症・嗅覚関連付け症候群)、halitophobia。これらは近い概念ですが、用語の範囲は完全に同じではありません。
実際には社会生活に影響するほどの口臭が確認されない、または実際の口臭の程度に比べて心配が非常に強く、「自分の口臭で周囲に迷惑をかけている」「人が鼻を触る、窓を開けるのは自分の口臭のせいだ」と感じ、会話や外出を避ける状態です。
Q.家族や歯科医師から「におわない」と言われても、口臭があると感じて人と話せません。
A.まず、歯周病、舌苔、むし歯、ドライマウス、耳鼻咽喉科・内科的な病気など、実際の口臭の原因がないかを確認します。客観的に強い口臭がない場合でも、不安や苦痛が小さいという意味ではありません。口臭への注意、周囲の反応の受け止め方、確認行動や回避行動、気分・不安などを一緒に整理します。
Q.一日中、歯みがきやうがいをしてしまいます。
A.口臭への心配から確認や清掃を繰り返すと、一時的には安心しても、心配がさらに強くなることがあります。過度な清掃は口腔粘膜を傷つけることもあるため、口腔内の状態を確認し、安全なセルフケアと心理的な負担の両面から対応を検討します。
別名・関連する名称:歯科恐怖、歯科不安(dental anxiety)、歯科恐怖(dental fear)、歯科恐怖症(dental phobia)。不安や恐怖の強さ、生活・治療への影響によって区別される場合があります。
歯科医院、診療台、注射、器具の音やにおいなどに強い恐怖を感じ、必要な歯科治療を受けられない、予約しても受診できない状態です。過去のつらい治療経験、痛みへの不安、嘔吐反射、閉所感、「自分で治療を止められない」という感覚などが関係することがあります。
Q.歯科医院に近づくだけで動悸や冷や汗が出ます。単なる怖がりでしょうか?
A.強い恐怖によって受診を避け、むし歯や歯周病の治療が遅れたり、日常生活に支障が出たりしている場合は、専門的な支援が必要なことがあります。無理に我慢する問題ではありません。何が怖いのか、どの場面なら対応できるのかを確認します。
Q.怖くて口を開けられません。それでも相談できますか?
A.最初から治療を進めるのではなく、状態に応じて、説明と相談、合図の決め方、段階的に診療環境へ慣れる方法、心理的支援、必要な診療科との連携などを検討します。具体的な対応は、全身状態や必要な歯科治療の内容を確認したうえで決めます。
上記の名称に当てはまらなくても、「口や顔の痛み・違和感が長く続く」「口が乾く感じ、味がおかしい感じがあるが検査では説明がつかない」「複数の症状が重なって、どこに相談すればよいか分からない」といった場合があります。当科で診察可能かどうかを含め、まず現在の症状、これまでの検査・治療、服用薬、持病などを確認します。
Q.自分の症状がどの病名に当てはまるのか分かりません。
A.受診前にご自身で病名を決める必要はありません。同じ言葉で表現される症状でも原因はさまざまであり、複数の病態が重なっていることもあります。診察では、症状が始まった時期、場所、強さ、変化、きっかけ、これまでの治療と検査結果を整理します。
当科は完全予約制です。初診では、これまでの経過、検査結果、歯科治療歴、服用薬、生活への影響などを詳しく伺います。受診方法、紹介状、問診票、予約受付時間については、受診案内・初診予約のページをご確認ください。
ここに掲載した内容は一般的な説明であり、個々の患者さんの診断を行うものではありません。診断名や治療方法は、実際の診察と必要な検査を行ったうえで判断します。
医学情報最終確認:2026年8月
教授管理ページ「踊る歯科心身症ネット」もご参照ください。