舌痛症(Burning Mouth Syndrome:BMS)

「舌がヒリヒリ、ピリピリする」「やけどのように痛い」。舌や唇などの痛みが続き、診察や検査でその痛みを十分に説明できる原因が見つからない場合に、舌痛症が疑われます。症状、診断、治療と受診方法をご案内します。

舌痛症とは

舌痛症は、舌を中心に唇、上あご、歯ぐきなどの口腔粘膜に、ヒリヒリ・ピリピリする痛みや灼けるような感覚が続く状態です。英語ではBurning Mouth Syndrome(BMS)、日本語では口腔灼熱症候群とも呼ばれます。舌痛(glossodynia)という言葉も使われますが、舌の痛みすべてが舌痛症というわけではありません。

見た目に大きな異常がなくても、患者さんの痛みや生活への支障は実際のものです。当科では、痛みの経過と口腔内の状態を確認し、身体面・心理面・生活背景を合わせて理解することを大切にしています。

舌痛症の主な症状

よく聞かれるのは「舌の先や縁がヒリヒリする」「唇がピリピリする」「口の中が焼けるように痛い」という訴えです。口が乾く感じや味覚の変化を伴うこともあります。

夕方に痛みが強くなる、食事をしている間は軽くなる、といった経過もあります。ただし、すべての患者さんに共通する特徴ではなく、これらだけで診断はできません。痛む場所、時間帯、食事との関係などを診察時に伺います。

舌が痛いときに確認する病気と、舌痛症の診断

診断では、似た症状を起こす原因を確認します。口腔内の所見や経過に応じて検査や他科との連携を検討します。すべての方に同じ検査を行うわけではありません。

国際頭痛分類第3版(ICHD-3)では、口腔内の灼けるような痛みや異常感覚が、1日2時間を超えて、3か月を超えて毎日繰り返し、口腔粘膜の外観と診察に明らかな異常がないことなどが診断基準に含まれます。国際口腔顔面痛分類(ICOP)も参考にしながら、実際の診療では患者さんごとの症状と診察所見を丁寧に検討します。

期間や痛みの表現だけで、患者さんご自身が舌痛症と判断することはできません。症状が3か月未満でも、つらいときは原因を確認することが大切です。

舌痛症の原因・病態

舌痛症の病態にはまだ分からない点があります。口腔の感覚を伝える末梢神経や、脳で痛みを調整する働きの変化などが研究されています。症状への注意、睡眠、気分や不安、ストレス、これまでの治療経験も関係することがあります。

ストレスだけを原因と決めつけることはできません。また、痛みがあることだけで、うつ病などの精神疾患があると判断するものでもありません。身体面と心理社会面を分けずに、症状が続く背景を多面的に考えます。

舌痛症の治療と当科での診療

当科では、症状や検査結果についての説明、薬物療法、生活指導を基本に、必要に応じて心理的な支援や関連診療科との連携を検討します。治療方法は、年齢、持病、服用中のお薬、睡眠や日常生活への影響などを踏まえて相談します。

薬物療法では、痛みの調整を目的として抗うつ薬などが検討されることがあります。薬の名称に「抗うつ」とあっても、処方される方全員がうつ病という意味ではありません。効果と副作用、ほかの薬との組み合わせを確認しながら使用します。

治療の反応や必要な期間には個人差があります。症状の軽減に加え、食事、会話、睡眠など生活上の支障を減らすことを目指します。痛みを確かめるために舌をこすり続けるなど、刺激が強くなる行動も診察時に一緒に振り返ります。

舌痛症は何科を受診すればよいですか

舌の痛みが続くときは、まず歯科・歯科口腔外科などで、口腔粘膜や歯、義歯などの状態を確認することが役立ちます。診察や検査を受けても原因を十分に説明できず、痛みが続く場合は、歯科心身医療科での評価が検討されます。

当科は東京科学大学病院の専門診療科です。受診は完全予約制で、事前のお電話での予約と医科医療機関からの紹介状が必要です。具体的な手続きは、このページ下部の受診案内をご確認ください。

症例写真

舌痛症の症例写真(舌) 舌痛症の症例写真(唇と口腔内)

主訴:3年間続く、唇と舌のヒリヒリ、ピリピリ、唇と舌に異常を認めない。

よくあるご質問

Q.「舌がピリピリ、ヒリヒリするのに、見た目はきれい」と言われました。舌痛症でしょうか?

A.舌痛症の可能性はありますが、似たような症状を起こす疾患がないかを確認したうえで判断します。

Q.食事をしている間は少し楽で、夕方になると痛みが強くなります。

A.舌痛症では、そのような日内変動を認めることがあります。ただし、すべての患者さんに同じ経過がみられるわけではありません。症状の時間帯、食事との関係、睡眠、口の乾燥、服薬状況などを診察時に詳しく伺います。

Q.舌痛症と舌がんはどう違いますか?

A.舌痛症は、診察や検査で痛みを説明する病変が見つからない場合に検討する診断です。舌がんを含む口腔粘膜の病気とは区別する必要があります。治りにくい傷、しこりなどがあるときは、写真や症状だけで判断せず、歯科口腔外科などで診察を受けてください。すでに舌痛症と診断された方も、新しい変化があれば担当医へお伝えください。

Q.舌痛症はストレスが原因ですか?

A.ストレスが症状に関係することはありますが、それだけで説明できる病気ではありません。口腔の状態、神経系の感覚処理、睡眠、気分、生活背景などを合わせて考えます。

Q.抗うつ薬を使うのは、うつ病だからですか?

A.必ずしもそうではありません。痛みの調整を目的として用いる場合があります。使用する理由、期待する効果、副作用について説明し、個々の状態に応じて判断します。

Q.当科を受診するには紹介状が必要ですか?

A.はい。医科医療機関からの紹介状が必要です。大学病院・総合病院等の歯科口腔外科も制度上は歯科として扱われます。初診予約と持参物の詳細は、受診案内をご確認ください。

当分野の関連研究

当分野では、舌痛症の臨床像、治療、診断のあり方について研究を行っています。研究成果は診療を検討するための資料であり、すべての患者さんに同じ結果が得られることを意味するものではありません。

年齢に応じた薬物療法と副作用の検討

当科でアミトリプチリンを処方された187例を調べた後ろ向き研究です。年齢や体調に応じて薬を慎重に調整する重要性を検討しています。無作為化比較試験ではなく、個々の患者さんへの効果を保証するものではありません。

Suga T, et al. Therapeutic Dose of Amitriptyline for Older Patients with Burning Mouth Syndrome. 2019.

患者さんの症状表現と背景を理解する研究

舌痛症患者834例の初診時データから、症状の表現や精神疾患の併存との関連を検討した観察研究です。症状表現は多様であり、精神疾患の診断がない患者さんも多数含まれます。精神疾患が舌痛症の原因であると示した研究ではありません。

Takao C, Watanabe M, et al. Clinical Features and Variations of Pain Expressions in 834 Burning Mouth Syndrome Patients With or Without Psychiatric Comorbidities. 2023.

ほかの病気を見逃さないための診察と再評価

舌痛症が疑われたものの、精査で口腔がんが確認された3症例の報告です。痛みを安易に心因性と決めつけず、診察と経過中の再評価を大切にする必要性を示しています。舌痛症ががんに変化する、あるいはがんの頻度が高いことを示すものではありません。

Suga T, et al. Case Report: Hidden Oral Squamous Cell Carcinoma in Oral Somatic Symptom Disorder. 2021.

大学院・研究活動のお知らせ

当科の受診を希望される方へ

初診は完全予約制です。予約なしに直接ご来院いただいても診察できかねます。初診をご希望の方は、事前にお電話でご予約ください。

歯科心身医療科外来:03-5803-5898
電話予約受付:平日 午前8:30~午後3:30(土・日・祝日を除く)

当科の受診には、医科医療機関からの紹介状が必要です。大学病院・総合病院等の歯科口腔外科も、制度上は「歯科」として扱われますのでご注意ください。

初診の診察に先立って問診票を郵送しています。必要事項をご記入のうえ、初診当日に必ずご持参ください。詳しい予約手続き・持参物は受診案内でご確認ください。

参考文献・関連資料

このページは疾患や診療の考え方を知っていただくための一般的な情報です。個別の診断・治療は、診察と必要な検査に基づいて判断します。