お知らせ

変形性股関節症の新しい治療ご紹介
~PRP(APS)股関節内注射~

当院では2021年より変形性膝関節症に対してPRP治療を行っておりましたが、2022年より変形性股関節症に対しても治療適応を拡大しました。今回、「PRP股関節内注射」についてご紹介します。

東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 運動器外科学分野 講師 宮武 和正 先生に
お話を伺いました。

お話を伺った医師

東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科
運動器外科学分野 講師
宮武 和正 先生

変形性股関節症とは?

宮武先生:股関節(鼠径部=脚の付け根)の軟骨がすり減ることで痛み(関節炎)が起こり、股関節が変形して壊れていく病気です。最初は「立ち上がる」、「歩き始める」などの動作時に脚の付け根に痛みを感じます。進行すると歩行時や動作時にも痛みが強く感じるようになり、靴下を履く、正座、足の爪切り、しゃがむなどの動作が困難になります。さらに進行すると脚の付け根が伸びなくなって膝がしらが外を向くようになり、左右の脚の長さも変わってしまいます。原因は、加齢による股関節の軟骨の劣化、小児期に起きた股関節の病気の後遺症などです。単純X線(レントゲン)写真、CT、MRIなどの画像で診断を行います。

変形性股関節症の治療は?

宮武先生:「手術療法」と手術以外の方法を用いる「保存療法」、そして今回ご紹介する「バイオセラピー」という再生医療があります。手術療法には、股関節の骨を切り取り、位置を変えることで関節の動きをスムーズにする「骨切り手術」、関節の変形が進んでしまった場合は、骨盤と大腿骨の一部を人工物に置き換える「人工股関節置換術」があります。「保存療法」には、運動療法(ストレッチ、筋力強化など)、生活指導(体重管理など)、理学・装具療法(杖の使用など)痛みを和らげ消炎を抑える目的の薬物療法があります。一般的には初期のうちは保存療法を行い、進行したら手術療法へ…という流れでしたが、手術をする前の治療の選択肢として今回ご紹介するPRP股関節内注射が注目されています。

PRP股関節内注射とは?

宮武先生:患者さんご自身の血液を遠心分離して得られる多血小板血漿(PRP)を、さらに濃縮して自己たんぱく質溶液(APS)を調整し、股関節内へ注射する方法です。APSには炎症を抑える良いタンパク質と軟骨の健康を守る成長因子が大量に含まれており、これを股関節内に注射することで関節内の炎症バランスを整え、炎症や痛みを改善し、軟骨破壊を抑制することが期待されます。

PRP股関節内注射は人工股関節手術を考えている人、高齢者にも有効ですか?

宮武先生:はい。
人工関節の適応と考えられる方が希望されることの方が多いです。様々な理由で手術ができない、または手術を希望しない方に投与しています。
PRP股関節内注射は、高齢の方でも受けることができます。国内では90代で体力的に手術が困難と判断された方も、APS療法を受けられています。ただし、骨の変形が進んでいるような方や併存疾患によっては適していない場合がありますので主治医にご相談ください。

PRP股関節内注射の費用とおおよその治療期間は?

宮武先生:治療費は自費診療となり健康保険が適用されないため、全額自己負担となります。当院では膝関節と同様に片股約40万円で治療を行っています。PRP股関節内注射を行った後に、1か月後、3か月後、6か月後に診察を行います。(ちなみに1か月簿になってます)
個人差はありますが、早い方は注入後1カ月ほどで効果を実感する方もいるようです。3カ月から半年くらいかけて徐々に効果を感じる方もいます。
なおPRP股関節内注射後14日間は、活動レベルを最小限にして治療前よりも活発にしないようにすることが推奨されます。日常生活程度の運動は制限が不要なことが多いです。普段スポーツをされる方は、主治医と相談しながら、徐々に再開してください。

東京医科歯科大学病院でPRP股関節内注射を受けるメリットは?

宮武先生:当院では細胞培養加工施設として輸血部が責任をもって製剤を作成しています。血液製剤に慣れた専門のスタッフが作成し股関節治療に習熟した専門医師が投与していますのでこの点はメリットと思います。また、国立大学という研究組織の病院が行っていることは患者さんも安心を提供できると思います。
一言でPRPといっても様々な種類があります。我々はPRPの中でも次世代型PRPと言われる抗炎症効果に優れたAPSを使用しています。自身の血液を使いますので安心、安全な治療であると思います。また、当院では股関節痛に対する病態の説明とざまざまな治療の選択肢を提示したうえでこの治療を選んでいただいております。
私自身がPRPの基礎研究を行っており、PRPの効果を感じていましたので股関節痛に悩む方々にこの治療を届けられればという気持ちではじめた治療です。(PRP研究で論文あり、科研費含めた競争的資金取得済み、現在も継続中)
費用が高く自費診療にはなりますし、膝に比べて患者数の少ない股関節症に対するエビデンスはこれから積み上げていく必要があります。そのなかで大学という研究機関の病院において治療をしながらAPSの臨床エビデンスを構築していくことに意味があると思っています。