お知らせ

無症状の重症複合免疫不全症に対する臍帯血移植に成功

東京医科歯科大学病院 プレスリリース(2023年5月29日)

東京医科歯科大学病院小児科 森尾友宏教授、金兼弘和寄附講座教授、森丘千夏子助教らのグループは、無症状のX連鎖重症複合免疫不全症(X-SCID)の患者さんに対して臍帯血移植を2023年3月に実施しました。この患者さんは移植後の合併症もなく、全身状態良好で2023年5月に退院されました。
SCIDはリンパ球数の減少や機能低下のために生後数か月で重症感染症を契機に見つかり、臍帯血移植などの造血細胞移植をすぐに行わないと生後1年以内に90%以上が亡くなる重症の先天性免疫異常症です。
患児の母親はきょうだいにX-SCIDの患者さんがいたことから、保因者の可能性が指摘されました。当院遺伝子診療科で遺伝カウンセリングを受けて、保因者であると判明していました。男児を妊娠したことから、1/2の確率でX-SCIDの可能性が指摘され、家族の希望もあり、当院産婦人科で2022年12月に出生しました。出生日にSCIDと診断し、ただちに無菌室に隔離し、生後3か月で臍帯血移植を受けました。
通常SCIDは重症感染症を契機に診断され、感染症の治療ののちに造血細胞移植を行いますが、重症感染症の治療がうまくいかず、亡くなることもまれにあります。当院ではこれまで数十例のSCID患者さんに造血細胞移植を行っていますが、無症状での移植はほとんどありません。小児科、遺伝子診療科、産婦人科の連携で、無症状のまま臍帯血移植を行うことができ、移植前後に感染症や大きな合併症もなく、生後4か月で退院することができました。
本年4月から東京都では拡大新生児マススクリーニング(有料)が始まり、新たに7疾患がスクリーニングの対象となります。SCIDも対象疾患の一つです。当院でも5月からスクリーニングを開始します。今後は都内でもスクリーニングで見つかるSCIDが出てくると思います。今回の当院での取り組みはSCID患者が見つかった際における迅速な対応のモデルになると思います。

このリリースに関するFAQ

無症状のまま造血細胞移植をしたのは、日本初でしょうか?

世界では多数の、日本でも数例の患者さんが無症状で造血細胞移植が行われています。先行して行われている拡大新生児マススクリーニングで見つかったSCID数例が他の施設で無症状のまま移植を受けています。

重症感染症の発症後に造血細胞移植を行う場合と、無症状で造血細胞移植をする場合では、どんな違いがあるのでしょうか?

SCIDはこれまで重症感染症を契機に見つかることが多く、感染症治療を行って、感染症をコントロールしてから造血細胞移植を行います。感染症が完治せずに感染症を抱えたまま造血細胞移植を行わざると得ないこともあります。感染症がない状態での移植成績は90%以上ですが、感染症を抱えた状態での移植成績は約50%とされていますので、感染症なしで移植をすれば、その成功率は格段に高いといえます。

なぜ今まで、無症状のまま造血細胞移植をすることがなかったのでしょうか?

SCIDは母親からの移行抗体(免疫)が低下する生後3-4か月に感染症に罹患しやすくなります。新生児期は母親の移行抗体に守られて、無症状です。

無症状のまま造血細胞移植をすることに対して、ご両親などが抵抗感を持ったりするのでしょうか?

SCIDは移植を行わないと生後1年以内にほぼ全例が何らかの感染症に罹患します。感染症のあるなしで移植成績が大きく違うことを両親に丁寧に説明し、同意を得た上での移植となります。今回は母親の家族がすでにSCIDと診断され、移植を受けて元気になっているのを知っていましたので、移植の必要性を十分に理解していただきました。

無症状のまま造血細胞移植を行う上で障害となることがあれば教えてください。

無症状であっても造血細胞移植を行う際には、前処置を行う際に少量ですが、抗がん剤を使いますので、長期的な悪影響がでないかを移植後も長い間フォローします。

使用した臍帯血はどこから提供されたものでしょうか?出産時の母親のものでしょうか?

公的な臍帯血バンクから、本人とHLA(白血球の血液型)が近い臍帯血を選んで移植に使っています。出産時の母親のものは児のものと同じですので、臍帯血移植のドナーとして使うことはできません。

「拡大マススクリーニング検査」とは、下記のURLに説明されている「拡大新生児スクリーニング検査」の内容と同じでしょうか?なぜ一部が公費負担の適用を受けて、一部は自費負担になるのでしょうか?
https://www.yobouigaku-tokyo.or.jp/baby/optional/

同じ内容です。新生児マススクリーニング検査は都道府県などの自治体ごとに行われています。それぞれの自治体の事情によって拡大マススクリーニング検査がまだ行われていないところもありますし、自治体によってはこの事業の有用性を深く理解して、公費負担としているところもあります。他の新生児マススクリーニング検査と同様に拡大新生児マススクリーニングの有用性が広く、国民や自治体に理解されるようにあれば、将来的には公費負担になるものと期待しています。

どんな時に拡大マススクリーニング検査を行う必要が生じるのでしょうか?

SCIDの発症頻度は5万人にひとりではありますが、造血細胞移植でほぼ100%治る病気ですので、生まれてくるこどもたち全員を対象に拡大新生児マススクリーニングが行われることを希望します。

この取り組みについては、論文発表などを行う予定がありますか?

特に論文発表等は予定していませんが、この事例も含めた学会発表は予定しています。

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