新型コロナウイルス感染症に負けないマメ知識

新型コロナウイルス感染予防と歯磨き

一般の皆様、医療関係者にも役立つ、新型コロナウイルス感染症に負けないマメ知識を、
東京医科歯科大学の専門家に聞きました。

◆回答者
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 医歯学系専攻 全人的医療開発学講座 総合診療歯科学 礪波 健一 講師

【質問1】歯磨きは一般的な細菌やウイルス感染予防に有効ですか? また新型コロナウイルス感染予防に有効ですか?

近年、高齢者の誤嚥性肺炎が問題になっていますが、歯磨きなど口腔ケアを徹底し、お口の中の細菌数を減らすことで予防できることが知られています。また、かぜやインフルエンザについても、特に歯周病原細菌を減らすことによって、その原因であるウイルスの細胞への付着を阻害できることが明らかになっています。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の原因であるSARS-CoV-2もインフルエンザウイルスと同様な付着様式であるため、適切な口腔ケアは当該疾患に有効です。

参考:インフルエンザウイルスはエンベロープ表面に突出する糖蛋白ヘマグルチニン(hemagglutinin:HA)を介して気道上皮細胞に接着し細胞内に進入します。さらに,開裂・活性化した HA を持つウイルスだけがエンベロープを細胞膜に融合させて細胞質内にRNAを放出し(脱殻),ウイルスの増殖に進む ことができることが明らかになっています。開裂・活性化させる因子の一つとして、トリプシンや細胞に発現するプロテアーゼが関係しています。歯周病原細菌のうち最も悪玉といわれるRed complex(Porphyromonas gingivais, Tannerella forsythia, Treponema denticola)は、トリプシン様プロテアーゼを保有しているため上記のHAの開裂・活性化にかかわると考えられています。

【質問2】新型コロナウイルス感染予防の観点から歯磨きする際に注意することがあれば教えてください。

歯磨き時はどうしても、自分の唾液を触ったり、唾液の飛沫を飛ばしてしまいます。一方、新型コロナウイルスに感染している人では唾液中にもウイルスが混入していることが分かっています。したがって、感染予防としては唾液に他の人が接触したり、飛沫を吸い込んだりしないよう注意する必要があります。例えば、歯磨きのタイミングをずらしたり、歯磨きをする場所の換気をよくするなど3密を避けることは予防効果があると思われます。また、家庭内でも使用していない時の歯ブラシを接触させないなどの配慮も、家庭内感染を防ぐと思われます。

【質問3】歯磨きの回数を増やせば増やすほど、感染予防につながりますか?

新型コロナウイルス感染予防だけでなく、むし歯や歯周病予防の点からも言えるのですが、お口の中の細菌の数が増えてしまうことが悪影響を及ぼすことが分かっています。細菌の数が増えると、歯の表面の白く柔らかなネバネバしたものとして目で見えてきます。それがプラーク(バイオフィルム)と呼ばれる細菌の塊です。感染予防にはこのプラークをくまなく掃除することが必要で、確実に歯ブラシの毛先がプラークに当たった状態で歯ブラシを動かすことがポイントとなります。ですから、雑に何回も磨くよりは、一日に一回(就寝前が効果的)、歯と歯茎の境を丁寧に磨く方が効果的です。残念ながら、お口の中の細菌の数はゼロにすることはできませんが、一度歯磨きで数を減らすと、もとの数に増えるのにだいたい48時間かかると言われています。つまり、一日一回でもちゃんと磨けていれば、細菌の数を低い水準で押さえることができますが、磨き残しをゼロにすることは困難なので、毎食後磨いて習慣づけると良いでしょう。単純に歯磨きの回数を増やすのではなく、プラークを狙い撃ちした歯磨きを心がけましょう。さらに、舌の表面にも舌苔と呼ばれるバイオフィルムがあり、むし歯菌(う蝕原性細菌)、歯周病原細菌が生息しています。したがって、舌の表面の清掃も忘れないようにしましょう。

【質問4】虫歯や歯周病があると細菌感染やウイルス感染しやすくなったり、感染が悪化することがありますか?

最近の研究で、歯周病と糖尿病が関係あることが分かってきました。重篤な糖尿病があると、感染のリスクが高くなることが知られています。したがって、歯周病があると細菌感染やウイルス感染を生じやすくなると言えます。
さらに、特に歯周病にかかっている方は、歯周病原細菌がお口の中に多く生息していますので、質問1のコメントも参考にしてください。