お知らせ

2023年4月スタートの「拡大新生児スクリーニング検査」で
X連鎖無ガンマグロブリン血症を都内で初めて発見
~東京都予防医学協会と協力し、無症状のまま治療開始に成功~

 東京医科歯科大学病院小児科 森尾友宏教授、金兼弘和寄附講座教授、伊藤一之助教らのグループは、2023年4月から東京都で始まった拡大新生児スクリーニング検査(注1)でX連鎖無ガンマグロブリン血症(XLA)(注2)の患者を東京都で初めて発見し、無症状のまま治療を開始することに成功しました。

 XLAは生まれつきBリンパ球(注3)がないため、免疫グロブリン(注4)をつくることができません。赤ちゃんは胎盤を通じて母親の免疫グロブリンを受け取りますが、自分でつくることができないと生後3か月過ぎにはゼロに近くなり、それ以降はさまざまな細菌感染症にかかりやすくなります。通常は肺炎や中耳炎などの細菌感染症を繰り返すことをきっかけに診断されますが、診断が遅れると後遺症を残したり、亡くなったりすることもある難病のひとつです。免疫グロブリン補充療法を行うことで、健康なこどもと同じような生活ができることから、早期に診断し、治療を始めることが何よりも大切です。X連鎖で遺伝するため、患者さんは基本的に男の子にしか発症しません。母親の兄弟や叔父にXLAの患者さんがいれば、診断がつきやすいのですが、家族歴がないことも多いので、診断が遅れがちです。

 東京都予防医学協会では従来20の病気をスクリーニングしていましたが、新たに7つの病気(注5)もスクリーニングできる「拡大新生児スクリーニング検査」を2023年4月から開始し、東京都で生まれるすべての赤ちゃんが検査を受けられるように体制の整備をしています。今回当院で見つかったXLAは原発性免疫不全症のひとつです。XLAではBリンパ球が欠損しますが、すべての赤ちゃんのBリンパ球を調べることはできません。そこで生まれて間もない赤ちゃんの踵(かかと)から、ほんの少しの血液をろ紙にしみ込ませて、これを東京都予防医学協会に送ります。協会ではろ紙血からDNAを抽出し、PCR法でIgκ鎖遺伝子再構成断片(KREC)(注6)を増幅します。KRECが低値の場合はB細胞欠損の可能性があります。

 当該患者さんは東京医科歯科大学病院の周産・女性診療科(産婦人科)で出生し、拡大新生児スクリーニングを受けたところ、KREC陰性がわかりました。そこで採血したところ、Bリンパ球が欠損していることがわかり、さらに小児科研究室でXLAの原因であるBTK蛋白が欠損していることもわかり、XLAが疑われました。その後、遺伝子検査でBTKに異常が見つかり、XLAと診断されました。これまで発熱することなく、元気に過ごしていますが、診断を踏まえ、免疫グロブリン補充療法を開始しました。

 東京都予防医学協会による拡大新生児スクリーニングは、まだ都内の半数程度でしか実施されておらず、すべての赤ちゃんが検査を受けているわけではありません。今のところ有料の検査ではありますが、無症状のうちに診断がついて治療を開始できるメリットは大きいことから、「失わずにすむ命を救う」というミッションのためにも、東京都予防医学協会と協力して今後も拡大新生児スクリーニング検査がすべての赤ちゃんで行われるように尽力していまいります。

  • (注1)拡大新生児スクリーニング検査
    早期治療で発症を防ぐことができる病気は、「新生児マススクリーニング検査」で調べる20種類の他にもいくつかあります。そのような病気を、同じく生まれてすぐのタイミングで調べる検査を指します。

    (注2)X連鎖無ガンマグロブリン血症(XLA)
     X染色体長腕に局在するブルトンチロシンキナーゼ(BTK)の異常によって、成熟B細胞が欠損し、低または無ガンマグロブリン血症を呈し、細菌感染を反復します。基本的には男児のみに発症します。

    (注3)Bリンパ球
     リンパ球にはB細胞(Bリンパ球)、T細胞(Tリンパ球)、NK細胞がありますが、Bリンパ球は細菌やウイルスなどの病原体が侵入してくると抗体を作り、排除する働きを持っています。

    (注4)免疫グロブリン
     抗体としての機能と構造をもつタンパク質で、血液中や体液中に存在しています。感染に有効な免疫として働くものもあるため、さまざまな病気に対する治療薬としても使われています。

    (注5)7つの病気
     ここでいう7つの病気とは東京都予防医学協会で検査を行っている脊髄性筋委縮症、原発性免疫不全症である重症複合免疫不全症、B細胞欠損症、ライソゾーム病であるファブリー病、ムコ多糖症Ⅰ型、Ⅱ型、ポンぺ病を指します。

    (注6)Igκ鎖遺伝子再構成断片(KREC)
     免疫グロブリンのκ鎖の対立遺伝子排除のために、κ鎖定常領域が染色体DNAから切り出された際に生じる環状DNAのことであり、B細胞の分化・増殖によっても複製されず、血液中に安定して存在するために、新しく作られるB細胞のマーカーとして利用可能です。

問い合わせ先

<診療に関すること>

東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科

発生発達病態学分野 森尾 友宏(モリオ トモヒロ)
小児地域成育医療学講座  金兼 弘和(カネガネ ヒロカズ)
発生発達病態学分野 伊藤 一之(イトウ カズユキ)

TEL:03-5803- 6111 FAX:03-5803- 0110
E-mail:tmorio.ped@tmd.ac.jp(森尾)
E-mail:hkanegane.ped@tmd.ac.jp(金兼)

<報道に関すること>

東京医科歯科大学 総務部総務秘書課広報係

〒113-8510 東京都文京区湯島1-5-45
TEL:03-5803-5833 FAX:03-5803-0272
E-mail:k-uyama.adm@tmd.ac.jp

公益財団法人東京都予防医学協会広報室

〒162-8402 東京都新宿区市谷砂土原町1-2
TEL:03-6265-0145
E-mail:koho@yobouigaku-tokyo.jp

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