肝胆膵外科は肝臓、胆嚢、胆管、膵臓、の悪性腫瘍(がん)、炎症性疾患などのあらゆる疾患に関して手術、薬物療法も含めた総合的治療を行う診療科です。高度機能を持った大学病院として切除困難な進行がんに積極的に取り組む一方で、傷の小さな腹腔鏡手術も積極的に導入し、患者さんに優しい手術を目指しています。
外科医としての使命を遂行するために、肝胆膵外科のスタッフは手術手技や医療技術の研鑽を日々積み重ねています。
そのような外科医たちの技術力向上に貢献するような器具の開発も手がけている、田邉稔教授にお話を聞きました。
Q1 田邉先生が開発されたMT摂子はいわゆる「ピンセット」のような形をしていますが、どんな手術に使う器具ですか?どのような特徴があるのでしょうか?
消化器系、心血管系、呼吸器系、泌尿器系・・・あらゆる手術に使用可能です。鑷子は本来組織を把持する道具です。しかし、MT鑷子は把持、剥離、切開、凝固止血、凝固+切離(いわゆる“ちぎり焼き”)など1台5役の機能を持つオールインワンデバイスです。
---つまり、手術のときに何度も道具を持ち替える必要がなく、手術時間が短縮でき、患者さんの負担が軽くなるのですね!
Q2 どんなきっかけでこの器具の開発をスタートされたのでしょうか?
世界的な外科医、日米それぞれの肝移植の達人といわれた京都大学の田中紘一教授(当時)、留学中に出会ったネブラスカ州立大学のByers Shaw教授(当時)が、血管鑷子を使用して見事な剥離操作を行っているのを見て、感激したのがきっかけです。「鑷子とは把持するだけの道具」という常識を打ち破った、新しい発想の手術でした。ただし、彼らが使用していたのは、通常の血管鑷子だったので、必ずしも道具としての完成度は高くありませんでした。彼らの技を基本として、鑷子の形状を変えたり、多機能電気メスに直接接続できるようにしたり、様々な改良を加えて1台5役のMT鑷子が完成しました。
Q3 この器具を開発中に苦労したこと、難しかったことなどがあれば教えてください。
鑷子の先端の形状・・・太さ、曲がり具合、絶縁カバーの位置etc・・・外科医としての研ぎ澄まされた感覚と日本のものづくりの技の結晶が、MT鑷子です。
Q4 ご自身で開発された器具を初めて使用したときのご感想をお聞かせください。
把持、剥離、切開、凝固止血、凝固+切離(いわゆる“ちぎり焼き”)が思い通りに使用することができ、手術の精度と確実性が格段に上がりました。まさに私の体の一部になった瞬間です。
Q5 今後の抱負をお聞かせください。
思い通りに使用するには、それなりの技が必要です。ゴルフで言えば、「最高のドライバーを手にしたところで、技を磨かなければショットは飛ばない」ということです。今後学会や手術講習会で普及活動に力を注ぎます。