軟骨・半月板創生ユニット

軟骨・半月板創生ユニット

軟骨・半月板を再生させて変形性膝関節症の治療ステージへ

ユニット長からのメッセージ

実現化された再生医療のなかで、軟骨再生は世界的に最も盛んな分野となっています。しかし軟骨再生医療の対象疾患は、ほとんどが外傷性の軟骨欠損に限られていて、大きな手術侵襲を伴うのが現状です。変形性膝関節症で困っているはるかに多くの患者さんのためにならないと、軟骨再生医療は普及しないでしょう。
膝関節内は空間を形成し、その空間は軟骨と滑膜で構成されています。私たちは滑膜由来の間葉系幹細胞(滑膜幹細胞)が、自己血清でよく増えて、軟骨や半月板になりやすいことを多くの基礎研究で明らかにしてきました。発生学的にも、滑膜は、軟骨や半月板と同じ前駆細胞から分化するので、滑膜幹細胞で、軟骨や半月板を再生させる方法は理にかなった治療と言えます。
本学の整形外科(運動器外科)は関節鏡視下手術を得意としています。これは関節周囲の皮膚を大きく切開することなく、小さな穴を開けて器具を挿入し、内部の様子をモニタに映し出して軟骨や半月板を観察しながら行う手術法です。この鏡視下手術と本学で開発した滑膜由来間葉系幹細胞(滑膜幹細胞)の移植を組み合わせることにより、変形性膝関節症に対する新たな治療が可能になります。現段階では、すべての変形性膝関節症に再生医療を適用することは難しいですが、最新の技術と知識を組み合わせて、再生医療が可能な変形性膝関節症のカテゴリーを少しずつ増やしていく計画です。また手術でなく、滑膜幹細胞を定期的に関節内注射する治療法の開発も行なっていきます。変形性膝関節症で困っている、多くの患者さんを救うことが私たちの目標です。

統合研究機構
再生医療研究センター
教授 関矢 一郎

研究プロジェクト紹介

滑膜幹細胞による半月板温存

半月板は膝関節にある三日月状の線維軟骨で、関節への荷重を分散するクッションの役割を果たしています。加齢や繰り返しの負荷、けがによって半月板が損傷して機能が低下すると、隣接する関節軟骨の摩耗が急速に進行し、変形性膝関節症を発症します。半月板機能低下は、変形性膝関節症の最も大きな要因です。しかし、半月板は縫合しても再断裂するリスクが高いため、半月板が損傷し不安定になると、多くの場合は切除術が行われます。これは半月板を修復しても、再断裂するリスクが高いためです。私たちは、半月板を温存することを目的として、通常は半月板切除術の対象となるような半月板損傷に対して、形成的修復術を行なった後に滑膜由来の幹細胞を移植する医師主導治験を2017年に開始し、9名の方に細胞移植を実施し、2019年6月に治験を終了しました。現在は、この治療法の普及を目指し準備を進めています。

変形性膝関節症に対する滑膜幹細胞の関節内注射

変形性膝関節症は主に加齢が原因で関節軟骨が摩耗し、膝の痛みを生じる疾患であり、日本には850万人の患者がいると推定されています。痛みを抑えるための飲み薬や注射はありますが、変形性膝関節症の進行を抑えるための保存治療はありません。
私たちはこれまでの基礎研究で、滑膜由来の幹細胞を定期的に膝関節内に注射することで、軟骨の摩耗を抑えることを明らかにしました(左図)。これに基づいて、滑膜幹細胞を関節内に定期的に注射することにより、変形性膝関節症の進行を抑制できるかを明らかにするための臨床研究を開始しました。
わずかな軟骨の変化をとらえることができるように、MRI画像を3次元化して、軟骨の量を細かく定量評価する方法も同時に開発しました(右図)。最新の評価手法により、変形性膝関節症に対する滑膜幹細胞関節内注射の治療効果を判定します。この治療は変形性膝関節症の治療を大きく変える可能性があります。

主要論文

支援事業(競争的資金)一覧

関連リンク・補足情報

関連リンク

実施中の治験・臨床研究