研究活動

ゲノム応用医学研究部門
Medical Genomics

ゲノム応用医学分野では、原因が明らかでないために適切な治療法が確立されていない難治性の疾患や生活習慣病の克服を目的に、ヒトゲノムの構造や機能、さらにタンパク情報を併せた学横断的な研究を行っています。さらに、研究の成果を通して得られた包括的な生命情報をもとに、難治疾患の病態を明らかにするとともに、「病気への罹りやすさ」といった、これまで体質と呼ばれてきたものを科学的に解明することに努めています。これにより、難治性の疾患の画期的な診断法の開発、個別化医療の実現、発症前診断や疾患予防法の開発を目指し、未来の医療に資する研究を展開しています。
 (部門長 稲澤 譲治)

分子細胞遺伝分野 Molecular Cytogenetics

ゲノムプロジェクトの進展によりヒト染色体の全塩基配列の解読はほぼ終了した。 このようなポストシーケンス時代にあって、物理的、知識的なゲノム情報を基盤に従来不明とされてきた癌や生活習慣病、さらに神経変性疾患をはじめとする難病の原因遺伝子解明は加速度的に進むものと予測される。さらにゲノムに内在する大量の生命科学情報を基に遺伝子制御ネットワークの予測システムも実現化されてきており、遺伝医学を包括するゲノム科学研究は生物現象から遺伝子へと進める解析的・帰納的なアプローチから、遺伝子から生物機能へと向かう構成的・演繹的なアプローチへとパラダイムシフトを遂げている。本研究分野では、日々刷新されている豊富なゲノム情報を背景に腫瘍を含む種々の遺伝性疾患や染色体異常症候群の原因遺伝子の同定と機能解析を行い、疾患の分子病態の解明に向けての研究を展開している。 また、遺伝情報を基盤とした新しい「がんの個性」診断法の開発を目指している。

分子遺伝分野 Molecular Genetics

近年、分子生物学・遺伝子医学等の発展に伴ってがんに関わる多くの遺伝子異常が解明され、このような研究から得られた分子レベルの成果を基に、遺伝性がんの発症前診断、一般 (散在性)がんにおける悪性度や治療感受性診断などの臨床応用が可能となってきている。また、ヒトゲノム解析計画はほぼ完成に向かい、その成果は生命科学研究全般に大きなインパクトを与えゲノム科学という新しい学問領域を生み出した。当研究室では、がん研究にゲノム科学を応用することにより、生命現象としてのがん本態の解明を試みると同時に、それにより得られる情報をがん治療に応用し、がん患者のオーダーメイド医療の実現を目指した研究を展開している。

分子疫学分野 Molecular Epidemiology

多くの疾患は環境因子と遺伝子の双方の要因によって発症する多因子疾患である。ゲノムプロジェクトの成果により、遺伝的個人差である「遺伝子多型」が数多く発見され、ゲノム中での存在様式に対する理解が深まってきた。このようなヒトゲノム情報を駆使することにより、疾患感受性や薬剤応答性と関連する遺伝子の同定が進められている。本分野でも、臨床や疫学の研究室との共同研究により、このような遺伝子研究を行い、さらに環境因子との関連を解明することを目指している。

遺伝生化学分野 Biomedical Genetics

種々の難治性疾患の病因は、病態には、遺伝子とその発現の異常が深く関係している。 一方、ゲノムプロジェクトの完成によってヒト遺伝子がすべて明らかにされようとしている現在、遺伝情報の発現メカニズムと蛋白質産物の機能の解析はさらに重要な研究課題となっている。 本分野の研究理念は、遺伝情報としての遺伝子、特に蛋白質をコードする遺伝子の発現制御の基本機構を明らかにすること、疾患関連遺伝子の発現調節を転写制御因子の観点から理解すること、さらに疾患の発現と進展における蛋白質機能を理解すること、である。 その結果、難治性疾患の基礎にある遺伝情報の発現と機能の異常を明らかにし、新しい診断、治療、予防法の基礎と応用を目指す。

形質発現分野 Functional Genomics

人間を含む生物個体は、遺伝情報としてDNAに書き込まれた様々な“形質”を、必要に応じて“発現”させることにより、生命活動を営んでいる。 本研究分野は形質発現制御のメカニズムを解明し、その破綻による疾患の病態を理解することを目指している。

エピジェネティクス分野 Epigenetics

エピジェネティクス分野では、遺伝・個体発生・進化等のさまざまな生命現象を、ゲノム機能という立場から総合的に理解することを目指しています。 現在の研究の主要テーマは3つあり、1)哺乳類特異的なゲノム機能であるゲノムインプリンティングの分子機構・生物学的意義の解明、2)体細胞クローン動物の遺伝子発現制御解析による、個体発生におけるエピジェネティック過程の解明、3)レトロトランスポゾン由来の獲得遺伝子による哺乳類特異的ゲノム機能の進化(哺乳類の進化)の解明を目指した研究が進められています。どの研究も、ヒトを含む哺乳類を対象に据えたもので、哺乳類のゲノム機能を遺伝学とエピジェネティクスを統合した新しいアプローチです。 このような研究から、21世紀におけるヒトの生物学(哺乳類の生物学)の再構築と、その知識に基づいたエピジェネティック医療の実現のための基盤づくりに貢献したいと考えています。

生命情報学分野 Bioinformatics

本分野は、情報論的な立場から生命機能の解明を目指す。基本的アプローチの1つはトップダウン的な大域的な機能構造論から生命を記述する「複雑系生物学」的アプローチである。情報論的にみると生命は化学反応集合の「系としての組織化」の特有なあり方である。この組織化とは単なる物理的因果律によるものではなく、遺伝情報、細胞内情報伝達など複雑化とカオス化を貫く「情報による秩序」によって維持されている。

他のアプローチは、ボトムアップ的でゲノム情報から全体像を組み上げる方法である。比較ゲノム解析やゲノム機能解析、転写ネットワーク解析、分子進化などの方法を通して生命の全体像の構築を目指す。 このような大域的機能構造形成の観点から生命の基本問題を解明する。

さらに医科大学での情報系研究室としての役割として、臓器、個体、集団レベルでの情報医学すなわち医学統計、医療情報システム、生理的モデル解析、医用生物画像処理、なども研究している。

レドックス応答細胞生物学 Redox Response Cell Biology

細胞内酸化ストレスは主としてATPを産生するミトコンドリアの電子伝達系から発生するROS(活性酸素種)に起因するので、酸化還元(レドックス)調節と酸化ストレス応答反応は細胞の生存とホメオスタシスのために不可欠な生理機構である。この破綻によって生じる酸化ストレスはアルツハイマー病、糖尿病とその合併症、癌を含む多くの疾病や、老化などの原因または増悪因子として作用する。この研究室では(1)細胞内シグナル伝達と転写制御、(2)アポトーシス誘導、などを中心にミトコンドリア内で起こる生化学反応から始まる細胞のレドックス応答の分子機構に関する研究を行う。また、酸化ストレスと深いかかわりを持つ癌抑制タンパク質p53ファミリーの一員であるp63について、ストレス応答性や扁平上皮癌細胞における高レベル発現の病態学的な意義を解明する。

プロジェクト研究室